
市川紗椰さんがアートを紹介する連載。第38回は東京都庭園美術館の「永遠(とわ)なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル —— ハイジュエリーが語るアール・デコ」を訪問しました。
今月の展覧会は…「永遠(とわ)なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル —— ハイジュエリーが語るアール・デコ」@東京都庭園美術館
“きらめくジュエリーを優美な空間で。100年の時をかける眼福な展覧会”

市川紗椰が語る「永遠(とわ)なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル —— ハイジュエリーが語るアール・デコ」
万博イヤーの締めくくりに、100年前の博覧会へタイムトリップ。ヴァン クリーフ&アーペルと東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)は、1925年にフランスで開催された「現代装飾美術・産業美術国際博覧会(通称アール・デコ博覧会)」を通じた縁があるのです。美術館の前身である旧朝香宮邸は、鳩彦(やすひこ)王と允子(のぶこ)妃夫妻が訪れたこの博覧会をアイディアソースに、アール・デコの粋を集めて設計されました。時を同じくして博覧会に出品され、宝飾部門でグランプリを獲得したのが、ヴァン クリーフ&アーペルのジュエリー。華やかなりし時代の装飾を今に残す空間で、同時代のジュエリーの美しさを堪能する、まさに眼福!
ブレスレットもネックレスもたまらなく素敵だったのですが、私が心奪われたのは1920〜30年代に製作された、今ではあまり見かけない置き時計や装身具のコレクション。天然石を彫り出した小ぶりの携帯用灰皿は、きっと当時のレディの「嗜(たしな)み道具」だったのでしょう。煙草の習慣はないのに優雅な小物がうらやましくなってしまいました。展示されている部屋のインテリアがまたハマっていて、目が喜びます。
現在でも大人気の「アルハンブラ」コレクションも、時代を超えてたっぷりと展示。アール・デコの文脈からあらためて見ると新鮮な気持ちになります。クローバーや蝶の自然のモチーフは時代の影響なのね、とか、100年前の流行が今も魅力的に感じるのはなぜ?とか、普段愛用しているデザインもまた、100年先まで残る可能性があるんだ、とか……。なにげなく身につけているジュエリーも、アートにつながる歴史と価値を持っていると気づくと、より特別感が湧いてきそう。アール・デコの魔法にかけられて、日常の見方が少し変わるような気がしました。
アール・デコ様式を今に残す旧朝香宮邸、同時代のジュエリーを愛でるのに最高のシチュエーション

東京都庭園美術館の「大客室」は、アール・デコ特有の色彩と曲線美が調和した華やかな空間。奥には館のシンボル的存在、アンリ・ラパン製作の「香水塔」が。展示ケースの中にアール・デコ初期のパールやジオメトリックなデザインのジュエリーが飾られています

絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット 1924年
プラチナ、エメラルド、ルビー、オニキス、イエローダイヤモンド、ダイヤモンド
ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
100年前のアール・デコ博覧会に出品され、宝飾部門のグランプリを受賞した作品のひとつ。赤と白のローズを天然石で表現したブレスレットは、モザイクのようにちりばめられた花びらと、絡み合う茎の幾何学的なラインが印象的。広げて展示されているため、まるで一幅の絵画のよう

当時の人々のファッションを展示(ドレス、コートは共立女子大学博物館蔵)。髪型やメイクも再現したマネキンは、この展覧会のオリジナル

きらびやかなダイヤモンドジュエリーは、允子妃殿下の居間に

喫煙者のためのセット 1930年頃
イエローゴールド、サファイア、ローズクォーツ、ラピスラズリ
ヴァン クリーフ&アーペル コレクション
今回私が惹かれた、ヴァン クリーフ&アーペルの1930年代の装身具の数々。ローズクォーツでできたピンクの喫煙具だなんて、洒落てる!

「アルハンブラ」の歴史とサヴォアフェールを物語る展示。タイムレスな美しさをあらためて感じさせる

新館では、サヴォアフェールごとに、デザイン画やコレクションに用いられた技巧の数々を追うことができる
トビラの奥で聞いてみた 市川紗椰×東京都庭園美術館 学芸員 方波見瑠璃子さん
展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは… 東京都庭園美術館 学芸員 方波見瑠璃子さん
市川 《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》をはじめとするジュエリーは、100年前のアールデコ博覧会で、どんな点が評価されたのでしょう?
方波見 当時のアール・デコ様式には、装飾を重視する面と抽象化したスタイルを好むという2つのポイントが共存していました。このブレスレットにおいては、バラという自然界の具象的なモチーフを用いながら、それを幾何学的なデザインに落とし込んでいるところが素晴らしく、グランプリにつながったそうです。
市川 なるほど、ヴァン クリーフ&アーペルといえば、今も植物や動物のモチーフジュエリーがすぐに思い浮かびます。アール・デコの時代には、亀や猿など思わずクスッとするモチーフが、最高級の素材と職人技を結集して、ジュエリーとして制作されていたのも面白かったです。これこそ本当の贅沢!
方波見 そうですよね。メゾンの歴史が、まさにアール・デコ最盛期と重なるので、時代の遊び心を今に受け継いでいる部分があるように思います。
市川 展示室のインテリアとジュエリーがマッチしていたのも印象的でした。
方波見 アール・デコの時代は、作品単体ではなく全体と空間を調和させる手法が特色です。今回も、会場の要素と展示物に関連を持たせる展示を意識しました。
市川 なるほど、広間や朝香宮一家の居室など、部屋の役割や室内の装飾と、ジュエリーの関わりにも注目すると、ここでしか味わえない楽しみがありますね!
訪れたのは…東京都庭園美術館

【展覧会DATA】
「永遠(とわ)なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル —— ハイジュエリーが語るアール・デコ」
〜2026年1/18
東京都庭園美術館
東京都港区白金台5の21の9
10時〜18時(11/28〜29、12/5〜6は〜20時。入館は閉館の30分前まで)
休館日/月曜(祝日の場合翌火曜)、12/28〜2026年1/4
入館料/一般¥1400ほか
※日時指定予約制
https://art.nikkei.com/timeless-art-deco/
カーディガン¥60500・スカート¥38500・パンツ¥46200/MAEDA DESIGN LLC.(ポンティ) シャツ(ケープつき)¥42900・ネクタイ(メンズ)¥14300・靴¥35200/アー・ぺー・セー カスタマーサービス(アー・ペー・セー) バッグ¥30800/リンク イヤカフ¥70400(ボヘム)・リング(右手)¥23100・(左手)¥18700(アトリエコバ)/ゲイザー
撮影/柴田フミコ ヘア&メイク/猪股真衣子〈TRON〉 スタイリスト/辻村真理 モデル/市川紗椰 取材・原文/久保田梓美 ※BAILA2026年1月号掲載

BAILA編集部
30代の働く女性のためのメディア「BAILA」。ファッションを中心にメイク、ライフスタイルなど素敵な情報をWEBサイトで日々発信。プリント版は毎月28日頃発売。



























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