読者から届いた「迷惑をかけたくないけれど、本当は頼りたい」という思いを解決すべく、一歩を踏み出すためのマインド、相手の負担を減らすお願いの仕方、頼り頼られる人間関係のつくり方を賢人たちのアドバイスから探ります。
1. お願い下手さんの"あるある"な実情とは?
「私たちもお願い上手になりたい…」読者からの声
「人に頼むよりも自分でやったほうが早いと一人で抱え込んでは追いつめられてイライラ。逆に効率が悪い…。」(34歳・機械メーカー)
「上司から仕事をまる投げされるのがストレスなので、部下への振り方が悩ましいです。」(37歳・IT営業)
「お願いされると断れない。でも助けてほしいときSOSが出せない。」(38歳・サービス業)
「声をかけるタイミングを計るうちに時間がどんどんたってしまう。気軽に頼める人がうらやましい。」(32歳・金融)
「相手に負担をかけるのが申し訳なくて自分さえ我慢すればと思ってしまいお願いができません。」(30歳・医療事務)
「こんなことで頼ったら甘えてると思われて無責任な人だと嫌われるんじゃないかと心配してしまう。」(33歳・公務員)
事前アンケートでは、95%の読者が「人にお願いしづらい」と感じた経験が!
(2022年1月21~25日@BAILAにて82人が回答)
Q 人にお願いしづらい、人を頼るのが難しい、と感じたことはありますか
とてもある 55%
どちらかといえばある 40%
どちらかといえばない 4%
まったくない 1%
Q 人を頼ることができず、結果後悔した経験はありますか
とてもある 35%
どちらかといえばある 38%
どちらかといえばない 21%
まったくない 6%
Q できればお願い上手になりたいと思いますか
とても思う 72%
どちらかといえば思う 22%
どちらかといえば思わない 5%
まったく思わない 1%
Q 誰に対してお願いしづらいと感じますか(複数回答あり)
同僚 51人
上司 50人
部下 39人
友人 38人
取引先 24人
家族 19人
恋人 16人
その他 1人
Q お願いしづらいと感じる理由は(複数回答あり)
相手に負担をかけたくない 54人
自分でやったほうが早い 45人
伝え方が難しい 43人
いつ言えばいいかタイミングがわからない 32人
嫌われたくない 29人
無責任だと思われたくない 24人
断られるのが怖い 18人
借りをつくりたくない 13人
その他 2人
読者アンケートによると、大半がお願い下手である結果に。9割以上が「お願い上手になりたい」と回答。7割以上が人を頼れず後悔した経験アリ。「自分のせいで相手に時間をとらせるのが申し訳ない」「相手の反応が気になり頼るのをためらってしまう」といった声が多く、オン・オフともに一人で抱え込んで心身が疲れてしまっている人も。「本当はもっと気軽に頼めるようになりたい」との声が多数。
2. 精神科医 水島広子先生がアドバイス
お願いの仕方がわかれば、誰でもお願い上手になれます
精神科医
水島広子先生
対人関係療法専門クリニック院長。「対人間療法」の第一人者。『つい、「まわりに合わせすぎ」てしまう人へ: もっとスッキリ生きられるヒント』(三笠書房) など著書多数。
相手を主役にしたコミュニケーションがポイント
アンケート結果に、「私の周囲にも同じような人が多いです」と水島先生。お願い下手ってどんな人なのでしょうか?
「まじめで責任感があって、他人からの評価を気にしがちな人が多いです。小さい頃から『自分のことは自分でやりなさい』と言われてきた人が多いと思うので、そういった背景からも自力でやらないと人として弱いとか無責任だと感じるんだと思います。『自分がほかの人にお願いなんかしていいんだろうか』と考える自己肯定感が低い人もいるんじゃないでしょうか。お願いばかりして『ずうずうしい』と悪口を言われたくない人もいると思います」
お願いしづらい理由として「相手に負担をかけたくない」との声が多かったです。
「特に日本人がなのかもしれませんが、お願いとなると申し訳なくなってしまうのかもしれないですね。でもそういう謙虚さも日本人のよいところだとは思うの で、かたちはできるだけ謙虚に丁寧に、でも内容は明確に相手に伝わるようにお願いできるといいと思います。」
「どういうお願いが相手にとって負担が少ないのかがわかってないから申し訳なく感じているところもあるかもしれませんね。お願いしやすい関係づくりは頼まれる側に立って考えてみれば簡単で、何を頼まれているのかがはっきりわかることが重要 なんですね。申し訳ないと思っている人ほど、余計な言葉がぐちゃぐちゃついてきて依頼内容がよくわからなかったりすることも。『やってほしいならやってほしいと言って』と言いたくなるような曖昧な頼み方だったり、頼んでいるのかどうかもよくわからない人もいます。」
「『自分がどう思われるか』とか『こんなことを頼んだらなんて言われるだろう』といった自分のことばかり考えている人はお願い下手ですね。一方、自分ではなくお願いする相手のことを考えられる人、たとえば『これをお願いしたいんだけれど、このままだとやりにくくないかな』『やりやすいようにやり方を変えてね』といった、相手を主役にしたコミュニケーションがとれる人がお願い上手だと思います」
まずはお願いのとらえ方を変えるところから始める
お願い下手を卒業する第一歩とは?
「『お願い』と考えると、他人に迷惑をかけるといった空気が出てしまいがちなので、仕事であれば『役割期待を伝える』、プライベートであれば『関係性をつくるためのコミュニケーション』など、まずはお願いのとらえ方を変えるところから始めるといいんじゃないでしょうか。」
「相手に何をやってほしいのかをはっきりさせた上で、それはお願いしていいことなのかいけないことなのか、相手が断ることのできる選択肢を含めたできるだ けやりやすい環境をつくるように話し合えるといいですね。コミュニケーションがあまり得意じゃない人にとってお願いすることは、相手とのやりとりプラス、 お願いまでするということで二重のハードルなんですよね。ただ、お願いの仕方がわかれば誰でもお願い上手になれると思いますので、誠実なコミュニケーションを積み重ねながら学習し、上達することが大切だと思います」
3. 「お願い上手」になるためのケース&スタディ【プライベート編】
公認心理師
大野萌子さん
日本メンタル支援機構代表理事。人間関係改善コミュニケーション、ストレスマネジメントが得意分野。
大野さんの近著『よけいなひと言を好かれるセリフに変える働く人のための言いかえ図鑑』(サンマーク出版 1540円)。
「心の声に耳を傾けて、依頼内容を明確に」
お願いをするときは「何をどうしてほしいのか」をハッキリ言うことが大事。ところが遠慮したり我慢したり、どう見られるかを気にしていると、自分の立場や相手の反応に意識が向くため自分の気持ちがつかめません。自分が把握できていないことを相手に伝えるのは不可能なので、まず心の声をよく聞くことが第一歩です。
【プライベートで友人に】自分の結婚式の二次会のスピーチを友人にお願いして断られました。それ以来なんとなく話しかけづらくなって自然に疎遠になってしまった。(32歳・IT)
決めゼリフ 「残念だけどほかの人に頼むね。煩わせちゃってごめんね」
NOは拒絶ではなく、コミュニケーションの一環です。だから断られたからといって話しかけづらくなる必要はまったくありません。スピーチや人前が苦手な人もいますし、相手の理由や都合は言える場合と言えない場合があると思うので、断られたらまずはさっと引けばOK。
【プライベートで友人に】友達と集まるときの日程調整&店予約を大抵私がしています。ほかに進んでやってくれる人がグループにいないので仕方ないと思いつつ、本当はお願いしたい。(35歳・事務)
決めゼリフ 「来月は繁忙期だから誰か代わってくれる?」
シンプルにやってほしい内容とできない事実と理由を伝えましょう。「私ばかり予約している」と友達を責めたり、「申し訳ないんだけど」と心苦しそうに言い出すなど余計な気持ちは言わないこと。「たまにはお願い」といった漠然とした頼み方では相手が困るので「来月」など時期は明確に。
【プライベートで夫に】子どもの具合が悪いとき、自分ばかりが仕事を休むハメに…。自分さえ我慢すれば…と思い、夫になかなか頼めずうまくヘルプが出せない。(38歳・アパレル)
決めゼリフ 「今月の後半にもし子どもの具合が悪くなったら相談できる?」
予測しにくいことほど先にお願いするほうが、頼む側も頼まれる側も楽です。感情より事実優先で情報共有し、どの程度、どこまでお願いしたいのかを具体的に話し合うことが大切。責任感が強い人は抱え込みがちなので「私が〇〇するべき」と思ったら頼るサインと考えて。
【プライベートでパートナーに】パートナーから「もっと頼ってくれていいのに」と言われてもある程度のことは自分でできてしまうし、相手に悪いという気持ちがどこかにあって、頼ることが難しい。(35歳・小売業)
決めゼリフ 「コーヒーを淹れてもらってもいい?」
典型的な人にものを頼めない人の思考パターンですね。お願いのトレーニングには4段階あり、①言いやすい人に言いやすいことを②言いやすい人に言いにくいことを③言いにくい人に言いやすいことを④言いにくい人に言いにくいことを順に伝える積み重ねが有効です。
4. 「お願い上手」になるためのケース&スタディ【仕事編】
リクルートエージェント カスタマーサービス3部 部長
中村果代さん
カスタマーサービス部門の管理職として、仕事を見立て誰にアサインしてどう動いてもらうか「見立てる・仕立てる・動かす」を日々設計するプロフェッショナル。
「配慮と遠慮の使い分けが大切です」
生産性や質を上げる共通の目的がある仕事において、相手の強みが発揮できたり、成長につながるお願いは、頼む側にも頼まれた側にもメリットがある機会になります。弊社では「巻き込む」という言葉を使いますが、周囲の力を頼ってこそ大きな価値やアウトプットが生み出せるので、相手をおもんぱかる配慮は必要ですが遠慮は無用という心がまえを!
【仕事でチームメンバーに】チームメンバーに仕事を任せたい。でも、忙しそうにしていて話しかけるタイミングや伝え方を見計らっているうちに躊躇してしまい、ストレスがたまります。(32歳・飲料メーカー)
決めゼリフ 「Aさんが得意と聞いてお願いしたいことがあるんです」
相手の忙しい状況をわかっていることを最初に伝えた上で「それにもかかわらずなぜお願いをしているのか」という理由を相手の強みとつなげて切り出してみては。相手の成長や周囲に感謝される機会につながるなど、相手のメリットを伝えると理解してもらいやすいです。
【仕事で同僚に】同僚に仕事を振りたいとき、上司でもないのに指示していいのか、言い方が上からになってしまわないかなど、いつも考えすぎて結局頼めない。(34歳・商社)
決めゼリフ 「(お互いさまの精神で)次何かあったら私が力になるからお願い」
日頃から感謝と理解のコミュニケーションを積み上げていると頼み頼まれやすい関係に。同僚の強みを普段から伝えることで、相手も自分のことを理解してくれる人の力になりたいと思えるもの。次は自分が行動する姿勢を見せることも今後の関係を育む上で大切です。
【仕事で上司に】話しかけづらい上司にお願いをしなくてはいけないとき、仕事上必要でも、言うタイミングやそれに対しての反応などを気にしてしまい、話しかける勇気が出ません。(30歳・医療系)
決めゼリフ 「〇〇の件でご相談があるので、10分お時間をいただけますか」
一回の声かけだけで完結せず「アポ取り」と「本題を話す」の2段階に分けて行動するのがおすすめ。声をかけるときは「ご相談」という言葉を使うと「お願い」よりもソフトな印象に。ただ上司が相手でも仕事の進行が最優先。反応を気にせず覚悟を持って言い切りましょう。
【仕事で部下に】自分がやったほうが早い&楽なので、後輩に任せてもいいことまでついつい抱え込んでしまう。まる投げで無責任な先輩と思われないかにも気をつかう。(36歳・官公庁)
決めゼリフ 「やってみよう!私もサポートするから」
後輩の成長を考えて範囲を決めて任せる一方で、仕事の進行が滞らないようにサポーターとして関わる姿勢を見せましょう。まる投げにならずかつ口出ししすぎないために報告項目を事前に二人で決めてアジェンダ化し、後輩から自発的に情報共有してもらうといいですよ。
5. 「お願い下手」を卒業した二人の先輩からメッセージ
犬山紙子さんからのアドバイス
【人を頼るための第一歩】お願い下手な自分を責めないで、いい人間関係をつくるために頼ると考える
お願い下手な人は、まじめで自分に厳しく相手の負担になりたくない気持ちの持ち主だと思うので、まずは責めないでほしいです。その上でお願い上手になることは、わがままではなく、頼り頼られるいい人間関係をつくるためと考えられるとお願いのハードルが下がるのではと思います。
イラストエッセイスト
犬山紙子さん
著書に『アドバイスかと思ったら呪いだった。』(ポプラ社)など。20代に母親の介護を経験。結婚、出産後に、児童虐待問題に声を上げるタレントチーム「#こどものいのちはこどものもの」を立ち上げるなど社会問題にも取り組んでいる。
お願い下手の人は、とにかくまじめで自分のせいで人に迷惑をかけるのが怖かったり、迷惑をかけた結果、嫌われるのが怖かったりする優しくていい人なんですよね。
私たちって、人に迷惑をかけないように生きなさいと育てられてきたと思うんですが、迷惑かけないで自分の人生を生きられるわけがない。だから、これは私の勝手な持論ですが、自立の定義を変えてみることを提案したいです。
自立とは、人の手を借りずに一人で立てるという意味合いだと思いますが、それは無理なので、自分が困ったときにSOSを出せる力がある。人のSOSを受け取ったら適切な機関につなげられる。といった力があることを自立ととらえるとよいのではと私は実体験を通して感じています。
20代で介護を10年間経験したのですが、最初、誰にも相談しないで自分でできると思っていて一人で迷惑かけないでと考えすぎてしまった先に抱えきれず、メンタルがぼろぼろになり、もっと人にお願いできたら違ったと学びました。迷惑はかけちゃいけないものなんじゃなくて、かけられるものだしかけるもの。そういうものだと。「自分さえ我慢すれば」の先に待っているのは孤独しかないから、まずその精神を捨てましょう。人に頼むときに罪悪感を持ちすぎないことはめちゃくちゃ大事なことだと思います。その分、相手に何か頼まれたときに自分も返す気持ちを持てたらいいんじゃないかなと。
お願いができるようになって、自分の心の健康と仕事やプライベートの質がぐっとよくなり、周囲へのリスペクトと感謝の気持ちが強まりました。そして、自分が人に頼られたときにちゃんとこたえられる人になりたいと心がけることで人間関係にいい循環が生まれている気がします。
私はお願いをするとき、まずチーム単位で考えます。家族や友人のことだったら、どうやったらみんながハッピーに過ごせるか。仕事だったら、プロジェクトがどうしたら成功するか。合理的に考えて人に頼ったほうが効率や質が上がることを見つけて、チーム全体の負担がどうすると減って、よりよい関係が結べるのかという視点で見ていくと、自分の中の罪悪感が減るんですよね。
お願い上手な人は物事を俯瞰できる人という印象があります。「今、目の前の感情としては相手にお願いするために勇気がいるけれど、先を考えて頼り頼られる関係性をつくっておくと相手にも自分にもメリットがある。じゃあ目の前のちょっとしんどい気持ちを乗り越えて相手にお願いを伝えてみよう」と勇気を持てる人。だからお願いするときは、お互いに頼り頼られる関係性になることを目指して声をかけています。相手へのリスペクト、尊敬し尊重する気持ちを伝えることはもちろん、これからもよい関係を続けるために相手が断ることのできる余白や選択肢をつけたり、お願いしたあとに、感謝の気持ちを丁寧に示しています。
普段の関係性によって頼りやすさも変わってくるのでなんでもない毎日のコミュニケーションの中で褒め合うことも心がけています。たとえば、夫がゴロッとソファに寝ているだけでも「寝っ転がってるだけでも、なんかいいわぁ」と伝えたりも(笑)。やっぱりベースの関係性がいいとお願いしたときに余計なネガティブな感情がなく、そのままちゃんと伝わるので大事だなと思いますね。
小さなお願いからスタートして、自分がお礼を言えたり、相手のお願いを聞けたりといったお願いしあう成功体験を積み重ねることで、お互いに弱い部分を知ったからこそ支え合えるいい人間関係ができていくのかなと感じています。
佐久間宣行さんからのアドバイス
【人を頼るための第一歩】自分の限界や苦手なものを知り、同時に他人のいいところを見つける
自分が頑張った結果、「これは他人に任せたほうが早く上がったな」と思うものに関しては、得意な人の力を借りるようにしています。まずは自分のことをよく知らないと何が足りないかがわからないのでそれを考えた上で、同時に他人のよさを見つけてオファーできるようになるといいと思います。
テレビプロデューサー
佐久間宣行さん
1999年テレビ東京に入社。「ゴッドタン」「あちこちオードリー」など、数々の人気番組のプロデュースを担当。ラジオ番組「オールナイトニッポン0(ZERO)」でパーソナリティを務める。2021年にテレビ東京を退社後、フリーランスとして活躍。
人を頼ることが20代まではできなかったですね。自分に自信がなかったのが悪いほうに出て、自信がないなら人の力を借りればいいんですけど、俺のお願いなんて聞いてもらえないだろうと勝手に思っていたというか「そんなの自分でやれよ」と言われそうだなと思っていたので頼めませんでした。
結果、20代後半に全部自分でやろうとしてパンクしたことがあって、自分の仕事量の限界で頼まないといろんな人に迷惑がかかるところから人にお願いすることが始まったんですけれどお願いに慣れて「こういう頼み方すればいいんだな」とわかるまでに、そこから2〜3年かかりました。どうせ一人じゃできないんだから、初めから人に頼むことに慣れて、経験値を積んでおいたほうがよかったと30代になってからわかりました。どんなふうにしたって、人と関わらないで生きていくわけにはいかないから、人に頼む力は現代社会に生きていくための必須能力だと思います。
パンクしてメンタルが壊れたりするのがいちばん自分の人生を生きる上でよくないので。人に頼むことは、結局、苦手なものを無理しないということになると思うんで、自分の限界とか、自分が苦手なものを把握することが大事だと思います。
仕事をしていくなかでこの分野は伸びないなとか、自分の中の得意・不得意のマトリックスがわかるじゃないですか。得意じゃない分野は時間がかかる。だったら、できないものに関してはできる人の力を借りたほうがいいな、そのほうが仕事がうまく回るなと判断するようになって、そこからは積極的に人の力を借りるようにするようにしています。自分が苦手なものに関してはちゃんと人を頼る。自分のことをよく知っておかないと人に頼めないので、まずは自分のことをよく知るっていうのが人に頼む上での第一歩だと思いますね。
頼むときは、自分の中で何を頼みたいかを明確に、「今、自分のやりたいことがこういうことで、これが足りなくて、ここを補強してほしい」といったプロジェクトの中での“足りないもの”と“たどり着きたい場所”をはっきりさせています。それは自分がどうしたいのかを決めることでもあり、それさえ決まってると人に頼みやすくなると思います。頼まれた人もわかりやすいし、判断がしやすい。やっぱりお願いしたいものを明確にするぐらい自分の中で考えている人がお願い上手だと思います。自分がいちばん考えた上であなたに頼むのが最適だから頼んでるという姿勢を見せるからこそ頼まれた人たちも本気でやってくれるんで。そして、「あなたのこの仕事を見て頼みました」など、オファーした思いや理由を伝えるようにしています。力を認めてるからお願いしている好意を伝えつつなぜ頼んだのかをはっきりさせたほうが、相手がどの引き出しを開けたらいいのかがわかるので。お願いを頼み、頼まれるいい人間関係を築くためには、「この人に頼られたら嬉しい」と思われる存在になるのがいちばんだと思います。そのために究極的には仕事でひとつずつ、自分の色や自分のできることを突き詰めていって結果を出せるといいんですがそれは一朝一夕でできることじゃないから、まずは、気持ちのいい人だなと思われるように他人のいいところを見つけるといいと思います。それが習性になってくると﹁この人はこういうところが得意だからこれを頼もう﹂と思いつくし、普段の生活の中でも人のことを褒めるくせができてくる。この人は人のことたくさん見てくれると思われるとその人がいると気持ちいい空間が生まれるんですよね。「その人が頼んでくれたんだからやろうかな」という空気になってくるんで、まずは、他人のよさを見つけられる人になることが大切だと思います。
イラスト/香川尚子 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2022年4・5月号掲載