昭和から令和にかけて、私たちの仕事観はどう変わった? 名作からその変遷をひもとく! 今回は、氷河期世代を舞台にした『ハッピー・マニア』『働きマン』から対照的な2人の女性の生き方を見てみよう。
漫画研究者、ライター
トミヤマユキコさん
とみやま ゆきこ●1979年生まれ。早稲田大学法学部卒業。同大学院を経て、東北芸術工科大学芸術学部文芸学科准教授。漫画や小説から現代を考察する著書多数。
『ハッピー・マニア』と『働きマン』は氷河期世代の二極化を描く
バブル崩壊後の1990年代半ばから2000年代の女性たちのリアルをすくい取ったのが『ハッピー・マニア』と『働きマン』。
「前者が1995年、後者が2004年と発表時期はずれていますが、どちらもヒロインは同じ就職氷河期世代であると読み解けます。
『ハッピー・マニア』のヒロインは定職につかないまま恋愛に夢中になり、刹那的に生きている。
一方で『働きマン』の主人公は、記者の仕事が自己実現に直結。就活をくぐり抜けたのはいいけれども、少数精鋭で仕事がキツい上に、上司からは“自分たちの感覚がわかる最後の世代”としてタスクを投げられる。後輩は、仕事よりもプライベート優先でノリが違う――と、このあたりは、今のバイラ世代と重なる感覚かもしれません。
ちなみにどちらの作品も令和の学生には衝撃的なようで。『ハッピー・マニア』は、計画性のないヒロインの生き方が怖いという声も(笑)。規定路線から外れたからこその自由な生き方を面白おかしく楽しめたのも、この時代ならではなのかもしれないですね。
そして『働きマン』のヒロインに描かれるような、職場の男性たちに負けじとバリバリ働く姿には、スポ根的に仕事をする感覚が支持されていた時代の空気感が。やっぱりこういう働き方に憧れる学生は、減少傾向にあると感じます。
ともあれこの2作は、同じ時代を生きる女性の労働観がコインの裏表のように描き分けられているのがすごく面白いんですよね」
1995〜 従来の仕事観が崩壊し始めた頃。自由を選ぶ人も
『ハッピー・マニア』
安野モヨコ著 祥伝社
新装版 全8巻 各792円
最高の幸せを求めて、恋愛に全力疾走する20代女性・重田カヨコの暴走ぶりを描く!
『ハッピー・マニア』 安野モヨコ
日本経済の凋落が一気に進んだ1990年代半ば以降が主な時代背景。カヨコは仕事への意欲は低く、己の幸せ=恋愛を追求していく
2004〜 男スイッチを入れて働いていた頃…!?
『働きマン』
安野モヨコ著 講談社
全4巻 電子版 各660円
30歳までに週刊誌の編集長になるのが目標の松方弘子。奮闘ぶりがリアルなお仕事漫画
『働きマン』安野モヨコ
就職難をくぐり抜けた人は、少数精鋭の激務が。“女性だから”と優遇されていた職場のローカルルールなども崩壊した頃。だからこそのスイッチに、当時の時代の空気が伝わる!
取材・原文/石井絵里 ※BAILA2023年1月号掲載