昭和から令和にかけて、私たちの仕事観はどう変わった? 名作マンガからその変遷をひもとく! まずは、80年代の代表作「『悪女(わる)」、90年代の代表作「美少女戦士セーラームーン」を語る。
漫画研究者、ライター
トミヤマユキコさん
とみやま ゆきこ●1979年生まれ。早稲田大学法学部卒業。同大学院を経て、東北芸術工科大学芸術学部文芸学科准教授。漫画や小説から現代を考察する著書多数。
「女も働けばいいことがある!」そう思わせてくれた『悪女(わる)』
まずはバイラ世代の上司たちにあたる世代が、新入社員だった頃の作品から。
「『悪女(わる)』は男女雇用機会均等法が施行されたばかりの時代を背景に、女性が働くことでレベルアップする姿を描いた作品です。この世代は恋にも仕事にもまっしぐらで、そのけなげに努力する姿は、今、私が教えている令和の大学生に読んでもらっても受けがいいんです。
彼女たちは、昭和の上司やバイラ世代に比べると仕事で自己実現したいという欲がさほど強くないですし、むしろ失敗しないことがなによりも大事だと考えています。でもこの作品に通底する“頑張れば報われる”感覚は好きみたいですね。ヒロインのミスも、成長につながるとわかっているから、安心して読めるようです。
今あらためて読み返してみると、当時は女性も働くことで男性のように出世できるかもしれないという期待感があり、仕事に対して前向きに頑張るロールモデルが求められていたとわかります」
『悪女(わる)』
深見じゅん著 講談社
全37巻 電子版 各528円
おちこぼれ新入社員の麻理鈴が、ひと目ぼれの恋の成就のために社内出世を目指す物語
1988〜 働いて出世すれば自由が得られると思われていた頃
『悪女(わる)』深見じゅん
男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年。女性の仕事には夢と可能性があった!
『美少女戦士セーラームーン』は仕事観もジェンダー観も先取り
1991年に『なかよし』で連載が始まったこの作品は、戦う=働く女性の姿はもちろん、理想の男性像の描き方が変化するひとつのターニングポイントにもなっているとか。
「セーラームーンたちは言ってみれば女子が多い職場で働いているわけですが、“女の敵は女である”というような描かれ方はしていないんですよ。“女が多くて風通しのいい職場だってある”という描き方をしているところに価値観のアップデートを感じます。
それから注目したいのは、王子様キャラクターとして描かれるタキシード仮面。彼は女性の手柄を横取りすることなく、サポートに徹しています。とはいえタキシード仮面は弱々しいわけではなく、彼女たちの戦いを支え、勝つ術も教えられる。今のジェンダー観にも通ずるような、新しい男性像ですよね。
理想のパートナー像や職場、そして働くこと自体に、今でも夢を持てる作品だと思います」
『美少女戦士 セーラームーン』
武内直子著 講談社
完全版 全10巻 各1650円
セーラー戦士に選ばれ、変身する中学生・月野うさぎ。仲間とともに戦い、成長していく
1991〜 女性同士が助け合いながら働く世界が登場
『美少女戦士セーラームーン』 武内直子
うさぎをはじめ、セーラー戦士を助けるタキシード仮面。女性の邪魔をせず働く姿は、新たなロールモデルを提示
取材・原文/石井絵里 ※BAILA2023年1月号掲載