先送りしてしまうのは、もとの性格や能力のせいではなく、心理傾向や脳の特徴の影響もあるというのは本当? 幸せへの道は敵を知ることから!ということで、今回は「行動経済学」の観点から先送り思考のメカニズムを分析。
行動経済学者
太宰北斗さん
一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了。名古屋商科大学商学部准教授。著書『行動経済学ってそういうことだったのか! - 世界一やさしい「使える経済学」5つの授業』(ワニブックス 1540円)
行動経済学的には今の苦痛を回避、明日の自分に期待するから
【現在バイアス】と【自信過剰バイアス】が先送りを助長する!
「行動経済学は、経済学と心理学を組み合わせた学問分野で、人間の、一見非合理的に見える活動を研究しています。先送りもその対象のひとつ。多くの研究によって先送りしがちな方に見られる心理傾向が明らかになっています。それが、【現在バイアス】と【自信過剰バイアス】です。未来にある喜びよりも、目の前のことを過大に評価し優先してしまう【現在バイアス】、自らの知識や能力を過大に評価したり、根拠のない自信を持つ【自信過剰バイアス】。これらが影響していると考えられているんです」
未来よりも現在の価値を高く見積もる【現在バイアス】に要注意!
「特に重要なのは【現在バイアス】ですね。行動経済学でよくする質問なのですが、今日もらえる100万円と、1年後に101万円、どちらかを選んでもらいます。そうすると、【現在バイアス】傾向が強い人は、今の100万円を選ぶ。未来に得られる大きな価値と今すぐに得られる小さな価値をてんびんにかけたときに、とにかく“今”を選択してしまう心理が強いんです。代表的な先送りの英語学習にたとえると、勉強すれば英語を話せるようになるとしても、今は勉強したくない、別なことに時間を使いたいという目の前の欲求が勝ってしまうということです。これに【自信過剰バイアス】が加わると、なぜか“私なら今やらなくても大丈夫”と考えて、TOEICの直前まで何もしない。当てはまる節がある人は多いのではないでしょうか」
なりたい自分を思い描いて目標の解像度を上げよう
「行動経済学の視点では、先送りが幸せになれない原因だとは言い切れませんが、できると思って結果先送りしてしまうのであれば、少なくとも損をしていることは間違いありません。止めるためには、“英語を話せる”のような遠い漠然とした目標ではなく、具体的で細かい目標をセットすること。そして期日を区切ること。“いつでもいい”は危険です。そこに、“できなかったら1万円”のようなペナルティを設定するのも有効。明日の自分が先延ばしをしたくてもできなくなる工夫をすることが大切です」
イラスト/ボブ a.k.a えんちゃん 取材・原文/木村真悠子 ※BAILA2022年12月号掲載