閉塞感や生きづらさを抱えて生きている現代の女性たち。風穴をあけるには? 作家・桐野夏生さんと村田沙耶香さんに、バイラ編集部が聞きました。今回は「女性だったらこうあるべき」など、世の中にあふれる「べき」とのつきあい方について。
Q.「女性だったらこうあるべき」「30代だったら結婚するべき」など、世の中にあふれる「べき」とのつきあい方を教えてください
A.
村田 不妊治療をしていた友達が本当に苦しそうで、そこまでして子どもが欲しいんだろうなと思って聞いたら、「わからない」って言っていて。みんなから期待されているし、子どもがいるのが普通だから不妊治療しているって。それがすごくショックだったんですけれど、同時に生々しく感じたんです。きっとこれが本音なんだろうって。
桐野 リアルですね。自分では、本当に子どもが欲しいか「わからない」けれど、社会の「べき」にそう思わされてる。そういう人、少なくないんじゃないかしら。だけど、ほかにやりたいことがあるなら、「『べき』にしばられずにやりたいことをやりなよ」と言えるけれど、何もなければアドバイスも難しいのよね。ちなみに友達は、今どうしているの?
村田 子どもができて、今は育児に追われています。
桐野 それはそれで幸せかもしれない(笑)。達成感もあるだろうし、あるべき姿に向かって決然と生きていけるわけだしね。私自身、若い頃、「自立すべき」ということにとらわれて、ものすごく苦しい時期がありました。大学卒業後、自立の道を探って、さまよい続けました。でも、私にとって、その「べき」は必要なものだったので、苦しんだけれど、それでよかった。だから「べき」が必ずしも悪いものじゃないと思います。
村田 私はあまり「べき」にとらわれるほうではないのですが、小さなことでいえば、ファッション雑誌の企画で「痛いアラフォー」特集とかありますよね(笑)。「こういう若づくりはダメ」とか。そうすると、それが苦しくなって、「もうこのレギンスは着られないんだ」とか思ってしまいます。年齢に関係なく、自分の好きなものを着られたらいいですね。
桐野夏生
きりの なつお●1951年石川県生まれ。1999年『柔らかな頬』で直木賞を受賞。『OUT』『グロテスク』『砂に埋もれる犬』など話題作多数。2021年、女性として初めての日本ペンクラブ会長に就任。
村田沙耶香
むらた さやか●1979年千葉県生まれ。2016年『コンビニ人間』で芥川賞を受賞。『授乳』『ギンイロノウタ』『しろいろの街の、その骨の体温の』『殺人出産』『消滅世界』などの作品で独自の世界観を描く。
撮影/中村和孝 ヘア&メイク/佐藤エイコ〈ilumini.〉 取材・原文/佐藤裕美 ※BAILA2022年8月号掲載