閉塞感や生きづらさを抱えて生きている現代の女性たち。風穴をあけるには? 作家・桐野夏生さんと村田沙耶香さんに、バイラ編集部が聞きました。今回はつい期待してしまう「変わらない信頼関係」について。
Q.誠実な人が不倫していたり、 友達だと思っていた人に裏切られたり…。 変わらない信頼関係は築けるものですか?
A.
桐野 これは相手のことを勝手に「そういう人だ」と思い込んでいるだけでしょう? なぜそれを「裏切り」というのか。傲慢というものよね。信頼関係だって状況によって、その都度、変わるし、不動の人間関係なんてあり得ない。人のことを一面的に見て、わかったようなつもりになってはいけないってことじゃないですかね。 もっと謙虚にならないと。 それに「不倫してたって、別にいいんじゃないの?」って私は思うんだけれど、常識にとらわれていると、そこから外れた人をそしりたくなるものなのよね。以前、作家の大先輩の筒井康隆さんと霊的体験の話をしていたとき、筒井さんが「何でもありでしょ」っておっしゃったの。そのとき、あ、そうだなと思って。それで私も解放されたんですね。人間関係も「こうでなくちゃいけない」とかじゃなくて、「何でもあり」と思っていたほうが楽になると思います。
村田 本当ですね。それとこれは信頼関係を築きたいという切実な願いを感じる質問です。なぜそんなふうに人を信じたいのか、というところにもっと根源的に問題が眠っているのでは、と思いました。
桐野夏生
きりの なつお●1951年石川県生まれ。1999年『柔らかな頬』で直木賞を受賞。『OUT』『グロテスク』『砂に埋もれる犬』など話題作多数。2021年、女性として初めての日本ペンクラブ会長に就任。
村田沙耶香
むらた さやか●1979年千葉県生まれ。2016年『コンビニ人間』で芥川賞を受賞。『授乳』『ギンイロノウタ』『しろいろの街の、その骨の体温の』『殺人出産』『消滅世界』などの作品で独自の世界観を描く。
撮影/中村和孝 ヘア&メイク/佐藤エイコ〈ilumini.〉 取材・原文/佐藤裕美 ※BAILA2022年8月号掲載