閉塞感や生きづらさを抱えて生きている現代の女性たち。風穴をあけるには? 作家・桐野夏生さんと村田沙耶香さんに、バイラ編集部が聞きました。今回は「仕事への情熱」について。
Q.この先もずっと仕事を続けたいです。どうしたら仕事への情熱を持ち続けられますか?
A.
桐野 私は書くことをやめたいと思ったことはないですね。スランプはあるけれど、でもやっぱり噓話を考えるのが好きなの(笑)。結局、自分の中で遊んでいるだけなのね。だから実際に書くのは、精神的にも肉体的にもつらいけれど、考えているときは楽しくて。
村田 私は小説を書くことを「仕事」だと、あまり思ってないですけれど、以前、コンビニでバイトをしていたときは、マニュアルにすっかり洗脳されて、ものすごく情熱的に働いてたんですね。サービス残業も喜んでやっていたし、常連のお客さまには「神対応の村田さん」と呼んでくださる方もいて、今思うと怖いくらいでした。
桐野 村田さんの小説(『コンビニ人間』)の主人公みたい(笑)。
村田 はい。でもその後、バイトをやめて気づいたのが、情熱と思っていたものが、実は危険なものだったなと。本当にその仕事が好きということでなく、店長やお客さんに「ありがとう」と言われるのが嬉しくて働きすぎて、結果、体を壊して店を辞めるみたいなことになったんです。だから利他的な尽くす喜びにハマると怖いので、利己的な喜びで行動したほうがいいんだろうと思います。
桐野 サービス業の人は、際限ないものね。そういう意味で、私はあくまで自分が楽しくて書いてるから、まさに利己的。だから長く続いたんでしょうね。
桐野夏生
きりの なつお●1951年石川県生まれ。1999年『柔らかな頬』で直木賞を受賞。『OUT』『グロテスク』『砂に埋もれる犬』など話題作多数。2021年、女性として初めての日本ペンクラブ会長に就任。
村田沙耶香
むらた さやか●1979年千葉県生まれ。2016年『コンビニ人間』で芥川賞を受賞。『授乳』『ギンイロノウタ』『しろいろの街の、その骨の体温の』『殺人出産』『消滅世界』などの作品で独自の世界観を描く。
撮影/中村和孝 ヘア&メイク/佐藤エイコ〈ilumini.〉 取材・原文/佐藤裕美 ※BAILA2022年8月号掲載