閉塞感や生きづらさを抱えて生きている現代の女性たち。風穴をあけるには? 作家・桐野夏生さんと村田沙耶香さんに、バイラ編集部が聞きました。今回は、お二人が考える「幸せ」について。
Q.お二人が考える「幸せ」とはどんなものですか? 恋人やパートナーがいないと、幸せではないのでしょうか
A.
村田 私は大学生の頃は、見捨てられる不安と恋愛を混同していて、かなり不安定でした。だから、ある人に振られたときは、泣きながらすがったんですけれど、別れた瞬間、ものすごく世界がキラキラと輝いて見えて、新宿から飯田橋まで自転車で走りました。そのとき、これまで自分が本当に望んでいたものではないものにすがっていたことに気がついたんですね。
桐野 確かに恋愛関係が壊れたときって、屈辱はあるけれど、とらわれていた自分から解き放たれてパッと目が覚めるような感覚になりますよね。恋愛って、喜びもあるけれど、ネガティブな要素もあるから、むしろ『燕は帰ってこない』のりりこのように、アロマンティックな人、恋愛がいらないって人のほうが幸せなんじゃないかと私も思うのよね。
村田 このことを話すことは精神的に危険なことなのですが、私には昔からイマジナリーフレンドが30人くらいいて、そのことを私は人生の奇跡だと思っています。
桐野 ……えっと……それは空想上の友達ということ??
村田 現実よりも絶対的に存在している人、最近は、そこにぬいぐるみの山田が加わって幸せに暮らしています。存在を否定されると私の命が終わってしまうのでずっと誰にも言ってなかったのですが、友達にも恵まれて、作家の朝吹真理子ちゃんとかは山田のことを「本当に沙耶香氏の家族だね」って可愛がってくれて。今はとても満たされています。
桐野 だから幸せって、本当に人それぞれよね。 私が幸せを感じるのは、仕事が終わって、ワインを飲みながら韓国ドラマとかの配信を見ているときですね。ヒョンビンが好きだったんだけど、結婚しちゃったからね(笑)。今、いい人を探しています。
桐野夏生
きりの なつお●1951年石川県生まれ。1999年『柔らかな頬』で直木賞を受賞。『OUT』『グロテスク』『砂に埋もれる犬』など話題作多数。2021年、女性として初めての日本ペンクラブ会長に就任。
村田沙耶香
むらた さやか●1979年千葉県生まれ。2016年『コンビニ人間』で芥川賞を受賞。『授乳』『ギンイロノウタ』『しろいろの街の、その骨の体温の』『殺人出産』『消滅世界』などの作品で独自の世界観を描く。
撮影/中村和孝 ヘア&メイク/佐藤エイコ〈ilumini.〉 取材・原文/佐藤裕美 ※BAILA2022年8月号掲載