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宇佐見りん、芥川賞受賞第一作『くるまの娘』が描く家族の姿【バイラ世代におすすめの本】

書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、あきらめない力強さを示す小説2冊、宇佐見りんの『くるまの娘』とルシア・ベルリンの『すべての月、すべての年』をお届けします。

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江南亜美子

江南亜美子


文学の力を信じている書評家・ライター。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』。

『くるまの娘』   宇佐見りん著 河出書房新社 1650円

基本は優しいが、一度怒りに火がつくと手が出て罵倒も始まる父親。脳梗塞の後遺症から、記憶障害があり、感情の起伏が激しい母親。女子高生のかんこは、両親が繰り出すコミュニケーションとしての暴力に、日々苦しんでいる。しかし家を出た兄と弟のように両親からの逃亡は考えず、一人、踏ん張るのだ。

ある日、父方の祖母の危篤の報を受け、車中泊での旅が始まる。車に泊まることは小さい頃の一家のお楽しみだった。母は華やぐ。しかし兄はホテルをとるという……。

ロードノベルとなる本作で描かれるのは、この家族なりのやり方だ。甘えと憎悪、緊張と相互依存がこんがらかった不健全な家庭であると理解しながら、かんこは逃げない。〈あのひとたちはわたしの、親であり子どもなのだ〉

望むのは、ともに地獄から抜け出すこと。向き合うのではなく、車の中で横並びになり、同じ風景を見て、互いの呼吸を感じる濃度で、ずっと生きていくこと。死といった安直な救済も遠ざけるかんこの覚悟は、なによりも気高く感じられる。

この複雑な親子関係を力強く描き出した著者の力量に、感嘆だ。

『くるまの娘』

宇佐見りん著
河出書房新社 1650円


「熱は幾度も体を通り抜ける」家族の悲哀を見すえた強さ
車で父の実家に向かう道中、17歳のかんこの前で両親が見せる人間くさい姿の意味とは……。記憶、弱さ、互助精神など人間の根源を描き出す小説。『かか』『推し、燃ゆ』で注目される俊英の、第3作。

これも気になる!

『すべての月、すべての年』 ルシア・ベルリン著  岸本佐知子訳 講談社 2640円

『すべての月、すべての年』
ルシア・ベルリン著 
岸本佐知子訳 講談社 2640円

「二人一緒には生きられない」傷ついた魂のもがきと再生 
3度の結婚と離婚、貧困、アルコール依存。著者の波乱の実人生をもとに紡がれた短編小説集。救急治療室や警察やトレーラーで人々はうごめく。抒情的ながら、ヒリつき挑発的な筆致は、中毒性をもつ。

イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2022年8月号掲載

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