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柚木麻子の短編小説『ついでにジェントルメン』 をレビュー【バイラ世代におすすめの本】

書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、日差しを浴び前を向くために、エネルギーを充塡してくれる小説2冊、柚木麻子の『ついでにジェントルメン』と大前粟生の『きみだからさびしい』をお届けします。

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江南亜美子

江南亜美子


文学の力を信じている書評家・ライター。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』。

『ついでにジェントルメン』  柚木麻子著 文藝春秋 1540円

気取ったナンパな飲食店に生活感を漂わせてやってくる女性が次々注文する美味しそうなお料理、美容整形クリニックに置かれた世界名作全集のゆくえ……。リアルなのに、少し浮遊したような現実世界で巻き起こる出来事を、著者らしいとびきりのユーモアで描く短編集だ。

独立した短編がアソートされる一冊だが、最初と最後の2編には、自身も作家であり文藝春秋の社長も務めた菊池寛が登場。「アパート一階はカフェー」は、戦前に建てられた女性専用の大塚アパートが舞台になる。そこは女性たちのキャリア形成や自己実現のための拠点なのだが、男抜きで暮らすなんて世も末、とか、ヒステリー集団かなどと心ないそしりも受ける。しかし1階の喫茶室では今日も香り豊かなコーヒーやサンドイッチが提供されるのだ。店の出資者は菊池寛。「菊池先生のなにがいいといって、放っておいてくれるところだ。きょうび、邪魔をしない男性なんてなかなかいない」。

口を出さず、手柄を横取りもせず、さらっとお金だけ出したエピソードは、本書の全体タイトルにも通じる。陰ながらの助力者になる難しさ。元気のむくむくわいてくる一冊だ。

『ついでにジェントルメン』

柚木麻子著
文藝春秋 1540円


「この距離感が、私には救い」協力と連帯のほどよい塩梅
美容整形希望の女子、売れない女性作家、夫と離婚を考える妻。世相にも影響されつつ生き方を模索する人たちの姿をユーモラスにとらえる。自由で温かな風が吹く、読後感のいい短編小説集。

これも気になる!

『きみだからさびしい』 大前粟生著 文藝春秋 1650円

『きみだからさびしい』
大前粟生著
文藝春秋 1650円

「傷つこうって思えたんだ」もがきながら得た関係性
恋愛を恐れる24歳の圭吾に、あやめさんはこういう。わたしポリアモニーだけどいい? 相互了解の上、複数の人と関係を持つ性的指向だ。現代的価値観を鋭く描く著者による、新感覚「恋愛小説」。

イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2022年7月号掲載

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