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吉本ばななの短編小説『ミトンとふびん』をレビュー【バイラ世代におすすめの本】

書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、心の温まる小説2冊、吉本ばななの『ミトンとふびん』と吉田修一の『ミス・サンシャイン』をお届けします。

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江南亜美子

江南亜美子


文学の力を信じている書評家・ライター。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』。

 「 淋しかったんだね」いたわり合う言葉たち  大切な人を喪失し、立ち直ることの過程にあるとき、必ず読みたい短編集。ローマで、台北で、金沢で、ヘルシンキで。痛みをゆっくりと溶かしていく人々の姿が描かれる。真四角の造本も美しい一冊。

長患いの末に母を亡くした30歳のちづみは、何も手につかない三カ月を過ごしたあと、友人のライブに合わせた台北旅行を決断する。それは「母の魂をモバイルな母としていっしょに持ち歩いている」と感じるような旅。しばし心身の休息をとったあと、友人の紹介でシンシンという、大きな体軀の男の人を紹介される。

ライブまでの短い午後、台北の暑さのなか、急速に惹かれ合う二人。ただ、喪失から回復途中のちづみには恋は現実味がない。シンシンはそれをも包容する。「人が意思を持ってそっとしておいてくれるということに、こんなに安心したことはない」

涙と汚れものを伴う過酷な死の体験にすり減っていた感情を、他人との出会いが色づかせてくれる。そんな短編「SINSIN AND THE MOUSE」以外にも、子どもの持てない夫婦がヘルシンキで存在を肯定される表題作など、優しい希望に満ちた作品が6作収録される。

親しい人の死は経験しないに越したことはないが、早かれ遅かれやってくる。「なくなることは決してない真実」。しかし生きている限り、その悲しみが遠のく瞬間は訪れるはずだからと、本書はメッセージしてくれる。お守りのような小説集だ。

『ミトンとふびん』

吉本ばなな著

新潮社 1760円


「淋しかったんだね」いたわり合う言葉たち 
大切な人を喪失し、立ち直ることの過程にあるとき、必ず読みたい短編集。ローマで、台北で、金沢で、ヘルシンキで。痛みをゆっくりと溶かしていく人々の姿が描かれる。真四角の造本も美しい一冊。

これも気になる!

『ミス・サンシャイン』 吉田修一著  文藝春秋 1760円 

『ミス・サンシャイン』
吉田修一著
文藝春秋 1760円

「宝物のような時間」特別な人と過ごした半年
大学院生の一心は往年の映画女優・和楽京子の荷物整理を手伝うことに。現在の彼女の優しさ、作品内の激しさの両方に魅了されるが、デビューに隠された悲しい歴史も知り……。引き込まれる長編小説。

イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2022年3月号掲載

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