テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第27回目は「家計調査」について大江さんと一緒に深堀りします。
今月のKeyword【家計調査】
かけいちょうさ▶総務省が実施している統計調査。全国約9000世帯を対象に、家計の収支、貯蓄・負債などを調べている。景気動向の重要な要素である個人消費や家計収支の実態を把握し、国の経済・社会政策の立案のための基礎資料を提供することを目的としており、総務省統計局ホームページにて公表されている。
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2002年1月
家計調査の対象が単身世帯を含む約9千世帯に拡大
単身世帯が調査対象に含まれ、より重層的に国民生活における家計収支を計ることができるようになった。二人以上の世帯では貯蓄・負債の調査も開始された
2014年4月
消費税率が8%に上がり、家計調査に注目が集まる
17年ぶりの消費税率引き上げの前と後で、駆け込み需要や買い控えがどれくらいあったかという国民の消費動向がわかるため、家計調査が報道に活用された
2020年7月
5月分の調査で、消費支出が過去最悪の落ち込みとなる
コロナ禍の影響と前年の大型連休で消費が大きく伸びた反動などで、消費支出が1年前と比べ実質で-16.2%と、比較可能な2001年以降で過去最悪の落ち込みに
バイラ読者102人にアンケート
Q 総務省の「家計調査」という統計を知っていますか?
認知度は半数弱。「ニュースで聞いたことがある」「耳にしたことはあるが詳しい内容はわからない」との声が。家計について不安や期待を聞いたところ、物価上昇に対して収入が増えないという心配が多数
Oeʼs eyes
認知度が高くて驚きました。皆さん情報感度が高いですね。コロナ禍以降、家計がどうなっているかを把握するために家計調査がニュースで取り上げられることが増えました。消費税率の引き上げ時にも注目されましたが、そうした社会情勢が反映されてこのような数字になっているのかもしれませんね
Q 最近の食料品やガソリンなど身近なものの値上げによる生活への影響をどのくらい感じますか?
ほぼ全員が影響あり。昨年の同時期に比べて支出が増えた感覚がある人は7割。支出が増えた項目は、1位食費、2位光熱費。理由として多くの人が「値段が上がったため増えてしまった」と回答
Oeʼs eyes
様々な食品が値上げされていて、電気やガスも使わざるを得ないもの。支出が増えた項目は生活に欠かせないものが多く、値上がりしても消費しないわけにはいかないのだと思います。ウクライナ情勢にコロナ禍以降の資源や原材料の高騰、円安など、物価が上がる要因が複数重なっているのが現状です
Q 2021年と比べて収入の変化はありましたか?
増えた 20%
変わらない 59%
減った 21%
約6割が「変わらない」、増減した人が各約2割。なかには「物価は上がっていくのに収入は変わらず、生活を維持するのが大変」「収入が増えないので、副業してなんとか成り立っている」との声も
Oeʼs eyes
「増えた」と「減った」が拮抗する結果となりました。物価が上がっていく局面で、収入が減るのはとてもきついこと。本来はこういうときこそ賃上げが必要なんです。消費の背中を押すものがないと、消費者が節約志向に舵を切り景気が冷めてしまうので、今、日本経済は踏ん張りどころだと思います
Q これから日本の景気はよくなると思いますか?
4・5月合併号で同じ質問をしたときよりも「変わらなそう」「悪くなりそう」の割合が増え、読者の景気の見通しが悪化。「物価上昇の先行きが不安」「ウクライナ侵攻がいつ終結するのか」との心配の声が
Oeʼs eyes
ウクライナ侵攻の長期化やアメリカが急激なインフレに見舞われていることなど、世界的に先行き不透明感が高まっていることは気になるところです。コロナ禍による行動制限が緩和されてきていることは景気のプラス要素ですが、それ以上にリスク要素が多いと、半数以上の方が感じているようです
「家計の収支から国民のお財布事情を把握できる家計調査が注目されている」
「コロナ禍以降、生活様式ががらりと変わって消費の仕方が変化しているなかで、家計調査が注目される機会が増えたので取り上げました。家計調査は総務省の統計で、家計収支編や貯蓄・負債編などがあり、月や四半期、年、年度ごとの調査結果が総務省統計局のホームページで公表されています」と大江さん。具体的にどんな統計ですか。
「例として、2022年4月分の家計調査を見ていきたいと思います。まず、消費支出と実収入(世帯収入)の前年の同月と比べた増減の比率に注目してみましょう。4月分では、消費支出が実質1.7%の減少、名目1.2%の増加。実収入が実質3.5%の減少、名目0.6%の減少でした」
実質と名目とは一体何ですか。
「実質値は物価変動の影響を除いた増減を見るときに使う数字。一方の名目値は実際に取引されている価格を反映させた数字です。実質と名目の違いによって物価変動の実態を把握することができるんですね。4月分の消費支出は、物価が上がっているので、名目の数字、つまり実際に出ていくお金は1.2%増えていますが、物価変動の影響を除いた実質の数字は1.7%減少しているので、前年より消費が増えているとはいえない状況だとわかります。実質と名目は、ほかの統計でも使われますが、家計調査では自分のお財布事情と照らし合わせて肌感覚で理解しやすいと思います」
4月分の家計調査では、実収入が実質、名目ともに減少。
「ものの値段が上がっているときには、同じくらいのペースで収入も上がらないと皆さんの購買能力・意欲が減り、景気が悪化してしまう可能性があります。皆さんのお財布のひもが締まってくると、企業は原材料の値上がり分をなかなか販売価格に上乗せできなくなり、業績が悪化してしまうかもしれないのです。こうした景気の負のスパイラルに陥らないか大変気がかりです」
アンケートでも収入が増えていない人が約8割。岸田政権も賃上げを推進している。
「今後は賃金を上げるための元手を増やす動きが重要になると思います。各企業の生産性を上げる課題もありますが、日本では多くの産業で大企業の下に下請け企業が入れ子状態になっていて、下請け企業が大企業に対して価格を引き上げづらい風潮があることも課題だといわれています。政府もこの状況を注視していて、公正取引委員会や中小企業庁などで問題となる事例を把握し、対応する取り組みを始めました。賃上げ実現のためにも、今後、中小企業で価格転嫁が進むかどうかに注目しています」
また、家計調査の消費支出の内訳を見ると、社会の動きがわかると大江さん。
「4月分の消費支出のなかで、いちばん大きく減った項目は自動車購入費でした。これは半導体不足などにより新車の供給がしぼられ、消費者が買い控えたというより買えなかった要因も大きいとみられ、社会情勢を如実に物語っているといえます。一方、旅行費が増加するなどコロナ禍からの反動でポジティブなかたちでお金を使っている面も。アンケートにも『旅行にお金を使いたい』という声が多かったですが、ものの値上がりによる支出増に加えて、コロナ禍でできなかったことがやっとできるようになってきたことによる消費増もあるようです」
「ニュースや一次情報を読み解き、時流の変化の兆しをとらえられると安心感につながる」
多くの読者から景気の見通しに不安の声が。経済状況に一喜一憂しないためには?
「日本の景気は日本だけで完結しているわけではなくて、世界情勢が大きくからんでいます。特にウクライナ侵攻の長期化やアメリカの急激なインフレなど、先行きが不透明な要素が皆さんの心理に影響している気がします。一喜一憂はしてしまうものだと思いますが、『次にこういうことが起こりそうだ』とか『状況が少し変わってきた』など、潮目の変化にいち早く気づけると早く対処できる安心感につながると私は考えています。そのためにもニュースを見るといいですし、家計調査のような統計データに触れて、自分なりに分析してみるといいかもしれませんね。
また、家計調査はどの地域でどんな人がどんなものにどのくらいお金を使ったかが細かくわかるため、商品開発などビジネスの着想を得るのに使われることも多いですし、年代別のデータもあるので、自分と同じ世代の人々がどうお金を使っているか、また将来どんなものにどのくらいお金が必要になりそうかなど、将来設計を考える際に参考にすることもできます。人生の様々なシーンで役に立ちそうな情報が詰まっていますので、一度じっくり読んでみてはいかがでしょうか」
大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/木村 敦 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2022年9月号掲載