デビュー作は二番手役。だが、その翌年には一人三役という難役で早くも主演。以来、ずっと主人公を演じ続けている俳優 ヤン・セジョン。今年、兵役から戻ってきた彼の頭をのぞいてみれば、そのほとんどが演技のこと。今の彼を作り上げているものは、演じることへの深い思いだった。
いちばんの興味は演じること。噓のない演技を心がけることを大切に
実力派ひしめく韓国若手俳優の中で瞬く間にエースの座へと上り詰めた人、ヤン・セジョンさん。彼が、’20年の春に突然の入隊。そのニュースに驚いた日本のファンも多いはずだ。あれから2年。彼が再び私たちの前に帰ってきてくれた。青年のような爽やかな面立ちのなかに、ちょっぴり精悍な大人の表情を宿しながら。
「自分ではそんなに変わっていないと思うのですが、軍隊は本当にいろんな人がいて、多くの経験をさせてくれる場所でした。だから、精神的に成長したかもしれません。忍耐力もついたし、判断スピードも速くなった。何より自分の価値観がはっきりしましたね
この12月、俳優としてさらに脂の乗る30歳を迎える。そんな今のセジョンさんは、どうつくられているのだろうか。取材中、“あなたの頭の中を教えてほしい”とお願いすると、下のように、自らそのパーセンテージを書いてくれた。
「僕の頭を占めているのは、当然ですが演技です。特に撮影に入っている間はそれ以外のことは考えられません。撮影が終わったら“ごはん”が90%になったりするかもしれませんが(笑)」
セジョンさんの頭の中・2022
「いちばん興味があるのは演技。演じているときにいちばん幸せを感じています。それと、新しい作品『イ・ドゥナ』にハマり中。出演者が同世代ばかりなので、ならではの楽しさがあります」
演技というものに興味をもったきっかけは高校2年生のときの演劇観賞教室で観た舞台だった。
「観ている間に思わず泣きそうになったんです。気づくとケラケラ笑っているし、ふと、まわりを見たら、他の生徒も同じように泣いたり、笑ったり。舞台の上の役者のジェスチャーや、その動き自体が人をこんなにも感動させ、共感を呼ぶことができるのかと、大きな衝撃を受けたのがこのときでした」
そこからは猛烈な努力の日々。大学は韓国トップの芸術大学として知られる韓国芸術総合学校に合格した。
「僕がその道に進むよう多くの人が手助けしてくれました。演技に対する僕の情熱が認められたようで、合格したときは本当に嬉しかったですね。それまでは塾で学んでいたのですが、高3のときの初日、8人の塾生たちが一人ずつ演技を披露する授業がありました。7人目までは『こんなふうに演じるんだ』と思いながら見ていたのですが、最後の女子生徒が演じ始めると、先生も自分も前のめりになった。ものすごく上手だったんです。すぐにその練習方法を聞きに行ったのを覚えています。まだ、自己紹介もしていなかったので怪訝な顔をされましたけどね」
教わったのは、部屋で一人、セリフなしで照明スタンドの小さな明かりの中、感情の赴くままに動いてみること。
「その日から3カ月間、一日も休まず、時間を忘れて演技の練習をしました。振り返ると、この経験によって僕なりの演技法ができたといえると思います」
今、演じる上で最も大切にしているのは“噓”をつかないことだという。
「感情を表現するシーンであれ、日常会話をするシーンであれ、噓の演技は全部バレてしまうと思うんです。コミカルなシーンも、悲しいシーンも、それぞれ伝えるべき本物の感情というものがあると思うので、それを逃しちゃいけないなって。兵役へ行く前は、演じる人物に合わせて自分を取り巻く環境自体を変えて、取り組んでいましたが、今は、もっと想像力を働かせるようにしようと。え、その方法ですか? 全部話すと3時間以上かかってしまいます(笑)。とにかく、その人物の持つ本質的なものを以前にも増して想像するようにしています」
やん せじょん●1992年12月23日ソウル生まれ。身長182㎝。2016年「浪漫ドクターキム・サブ」でデビュー。翌年、事前制作ドラマ「師任堂(サイムダン)、色の日記」で一人二役、「デュエル〜愛しき者たち〜」で一人三役を務める。「愛の温度」「30だけど17です」ではラブストーリーの主人公を演じ、一躍人気俳優に。 ’19年「私の国」出演後、’20年5月に陸軍入隊。昨年、除隊し、現在、復帰作となる新作ドラマの撮影中。
撮影/KIM YEONG JUN ヘア/JUNG SUNEE メイク/HA YEONG JU スタイリスト/chaeng's company コーディネーター・翻訳/CHOI HYO JEONG〈KACHI MEDIA〉 取材・原文/山崎敦子 ※BAILAhomme vol.2掲載
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