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【作家・綿矢りささん】スランプを経て辿り着いた、初めから完璧を目指さない仕事術【長く続けている人のことば】

働き方の選択肢が多い今だからこそ響く「長く続けている人のことば」。今回は、作家の綿矢りささんにインタビュー! 21年の道のりの中には、小説家として苦しい数年間を過ごした忘れられない記憶も。

「いいものを書こう」という気負いを手放したらスランプから抜け出せていた

綿矢りさ

芥川賞の受賞後は書けない時期が続いた

17歳のときに初めて書いた小説『インストール』で文藝賞を受賞し、華々しくデビューした綿矢りささん。2年後に発表した『蹴りたい背中』で芥川賞を史上最年少受賞するなど、順調なキャリアを築いてきた。けれど、21年の道のりの中には、小説家として苦しい数年間を過ごした忘れられない記憶がある。

「芥川賞受賞後の3作目『夢を与える』を発表するまでに、かなり時間がかかってしまったんです。一つひとつの文章に真心を込めたいとか、精度を高めたいという気持ちが強くなりすぎて、連続性のある文章が書けなくなってしまって。きっと小説家として『これが仕事や!』という気負いが出て、緊張してしまったんでしょうね。次の作品の帯には、必ず“芥川賞受賞後第1作”とつくはずなのに、いつまでたっても書けへんから、焦りましたね」

机の前にいることがいちばん苦痛だったその時期は、海外旅行をしたり、バイトをしたり、ドストエフスキーなどの文豪の著書を読んでみたりと、あらゆる方法を試したそう。時間がいくら過ぎ去ろうと「3作目を出す」という目標だけは揺らがなかった綿矢さん。歩みを止めず、苦悩した先で見つけたトンネルの出口は、「いいものを書こうと思わない」という意外なものだった。

「試験だったら一発勝負じゃないですか。でも小説は書いた後に見直して精度を上げていくことができるから、最初から100点じゃなくていいということに気づいたんです。初めは『これ、絶対無理やろうな』とヤケクソ(笑)。でも、編集者に見せたらいい反応をもらえて、緊張感から解放されました。

私がなんとか書くことができるのは、戦争とか政治とか世界情勢とか大きなテーマではなく、身近な日常。そのことに気づいてからは、自分らしくいられるようになったんです」

初めから完璧を目指さない仕事術は、今も変わらず続けていること。ただし、キャリアを積むなかで次第に変化していった仕事に対する意識もある。

「小説家という職業の魅力は、自由さだと思うんです。倫理的に『さすがにここまで書いたら怒られるかも』と思う表現を解放していっても、許される土壌が今のところある。それに、日本語をかなりくずしても、リズムがあると読めるんやということに最近気づきました。

『インストール』を書いていた10代の頃なんかは、今よりも文章を人に読んでもらうことに慣れていないから“自分はまともな人間だ”という前置きを作りたくなるんですよね。でもそれは、『ここまで書いたら引かれる』みたいな怖さがあったから自主規制していただけ。今は、より自由でいるように努力している感覚です」

綿矢りさ

©2022「天上の花」製作運動体

小説を自由に書くだけが仕事じゃない。経験を積んで苦手も受け入れられた

締め切りがあるから仕上げることができる

小説家といっても、ずっと原稿用紙に向かっているわけではない。

「今日みたいに取材を受けさせてもらったり、人に会ったり、何かを体験したり、依頼を受けてエッセイや企業向けの言葉を書くこともあります。初めは抵抗があったし『私にはできない』と思いましたが、経験を積むにつれて、それも仕事のうちと思えるように。小説家としての総合力を伸ばさなきゃいけないということにも気づきました。

もちろん、ルールやしばりのない小説を書くことがいちばん好きです。でも、締め切りがなかったら書けるのかな……(笑)。約束事を守りながら“仕上げる”。そのことも、小説家として大切にしていることかもしれません」

3年前からは中国語の勉強を始め、中華BL小説に熱中するなど“本格的な”趣味が増えたそう。「中国語に関しては、仕事にまったく生かせていない」と笑うけれど、その魅力について語る姿はとっても楽しそうで、綿矢さんの人生を潤していることは間違いない。

「長く仕事を続けてきてはいるけれど、まだできていないこともたくさんあるんです。今後は、努力しても報われないこととか、うまくいかないことをどう乗り越えていくかについて書きたいと思っています。年上の小説家の本を読んでいると、90歳、100歳になっても書きたいものを追求して書き続けている。目標となる人がいることは、すごくいいなと思っています」

綿矢さんの続けてきた道のり

17歳 高校在学中に『インストール』でデビュー。文藝賞受賞

19歳 芥川賞を史上最年少受賞
「芥川賞受賞後第1作」のプレッシャーでスランプに

『蹴りたい背中』

『蹴りたい背中』
河出文庫 495円

23歳 Turning point 大学卒業。専業作家に

24歳 芥川賞受賞後第1作『夢を与える』をついに発表

27歳 『勝手にふるえてろ』は松岡茉優主演で映画化された話題作

『勝手にふるえてろ』

『勝手にふるえてろ』
ソニー・ミュージック ソリューションズ ¥5280 Blu-ray発売中

30歳 結婚。ライフステージの変化に向き合うことで書けるものが増える

35歳 妊娠中に読んだ谷崎潤一郎の『卍』が創作のきっかけになった『生のみ生のままで』を発表

現在 中国語の授業と宿題に追われながら精力的に執筆中

あったかもしれないROUTE B

趣味の手芸を極めていた!?

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「手芸が好きで、小さい頃の息子の写真を見て羊毛フェルトを作ったりしています。もし小説家になっていなかったら、ハンドメイドサイトに自分のページを持ちたかったかも」

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コミュニケーションが苦手な大学生の海松子は、幼なじみの男子とイケメン社会人との間で、思いがけず三角関係に陥る。

綿矢りささん

作家

綿矢りささん


1984年2月1日生まれ、京都府出身。2001年『インストール』で文藝賞を受賞し、2003年発表の『蹴りたい背中』で芥川賞を受賞。著書に『勝手にふるえてろ』『かわいそうだね?』『生のみ生のままで』などがある。

撮影/榊原裕一 ヘア&メイク/YUMBOU〈ilumini.〉 取材・原文/松山 梢 ※BAILA2023年1月号掲載

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