今回ご紹介するのは、奥田英朗さんの『空中ブランコ』です。
第131回直木賞を受賞した作品としても知られている一冊ですが、私がこの本を何度も読み返している理由は、クスッと笑える軽やかな作品で、短編になっているのでとても読みやすいところです。
「直木賞受賞作」と聞くと、少し難しい作品を想像するかもしれません。
でも『空中ブランコ』は、そんなイメージとは少し違います。
気負わず読めて、思わず笑ってしまって、読み終わったあとには少し心が軽くなる。
そんなところが、この作品の大きな魅力だと思います。

ちょっと変わった精神科医・伊良部一郎
物語の中心となるのは、精神科医の伊良部一郎。
患者の悩みを真面目に聞いて分析する……という、一般的な精神科医のイメージとはかなり違います。
とにかくマイペースで、ちょっと子どもっぽくて、患者の悩みにも独特な方法で向き合っていきます。
「本当にこの人、大丈夫なの?」
と思ってしまうような場面もあるのですが、そんな伊良部に振り回されるうちに、患者たちは少しずつ自分自身の悩みと向き合っていきます。
表題作「空中ブランコ」では、サーカス団員が突然それまでできていた空中ブランコの技を失敗するようになってしまいます。
「また失敗したらどうしよう」という恐怖から、身体が思うように動かなくなってしまうのです。
そんな患者に対して伊良部が取る行動は、やっぱり型破り。
深刻になりそうなテーマなのに、読んでいると思わずクスッと笑ってしまいます。
笑いながら、少し心が軽くなる
『空中ブランコ』に登場する患者たちは、それぞれ違った悩みを抱えています。
でも、読んでいると、
「分かるな」
「私も考えすぎてしまうことがあるな」
と思うところがたくさんあります。
大事な場面ほど、
失敗したらどうしよう。
もっとちゃんとしなければ。
そんなふうに考えすぎることで、いつの間にか自分で自分を苦しくしてしまうことは誰しも経験があるはず。
そんなとき、自由すぎる伊良部を見ていると、
「そんなに深刻に考えなくてもいいのかもしれない」
と、自然に肩の力が抜けていきます。
印象に残っていること
この作品の魅力は、伊良部が患者に「こうすれば治ります」と答えを与えるところではありません。
むしろ、患者たちは伊良部に振り回されながら、自分自身の考え方や思い込みに気づいていきます。
その過程がユーモラスに描かれているので、精神的な悩みを扱った作品なのに、決して重たくありません。
私がこの作品から感じたのは、
「完璧じゃなくてもいいし、少しくらい力を抜いてもいい」
ということ。
悩んでいるときは、そのことばかりを考えてしまいがちですが、少し距離を置いてみるだけで、見え方が変わることもある。
そんなことを軽やかに気づかせてくれる作品です。
何度も読み返したくなる理由
私にとって『空中ブランコ』は、読むたびに少し気持ちが軽くなる本です。
短編なので、時間がないときでも「今日はこの一話だけ」と気軽に読めるのも嬉しいところ。
そして、内容を知っていても、伊良部の言動にはやっぱりクスッと笑ってしまいます。
重たい気分のときに、気軽に手に取れる。
そして読み終わる頃には、ほんの少し肩の力が抜けている。
直木賞を受賞した作品でありながら、決して堅苦しくなく、何度でも読み返したくなる。
そんな親しみやすさも、この作品の魅力なのだと思います。
「今日はちょっと本を読みたいな」
そんな日に気負わず手に取れる『空中ブランコ』。
何かに疲れたときや少し笑いたいときにおすすめしたい一冊です。
📚 書籍情報
『空中ブランコ』
著者:奥田英朗
出版社:文藝春秋
価格:本体660円+税(税込726円)
第131回直木賞受賞作
ジャンル:小説・短編集
















































