スピード感あふれる、闊達な人物描写とダイナミックな作風で斎藤道三を描いた歴史小説。
寺を飛び出し京都の油商を乗っ取った後、その巨富をもって、どこかの国をねらって大名になる。野望を抱いた彼は美濃を制する者は、天下を制すると目を付け成り上がっていく。
その半生は、謀反の連続で、その巧緻さは謀反を芸術化した男、といっていいほどだ。
彼は言う。わしは慾つよく生まれついた。体も、人の三、四倍は強靭である。意思も力も人の数倍はつよく、知恵も、十人額を集めてもわからぬことを一瞬に解くことができる。
しかしながら、寿命だけは愚夫とおなじ五十年だ。
不公平ではないか、と天をも恨みたいほどである。
一代では国盗りという大仕事はおわらない。彼の主題と手法は、ふたりの「弟子」にひきつがれる。一人は彼がもっている新世代へのあこがれ、独創性、権謀術数、経済政策など世を覆してあたらしい世をつくってゆくすべてのものを、もう一人は道三のもつ古典的素養にあこがれた。
この相弟子がのちに主従になり、さらには本能寺で相搏つことになる。そう、後半は信長と光秀の物語である。