大人同士のわかり合えなさを描き、昨年BAILA9月号での特集も大きな反響を呼んだ、『トーキョーカモフラージュアワー』。今回はさらに内容を深掘ってお届けします!
1.バイラ世代の共感の声続々! 刺さるエピソード
女の本音。男の理解不能な言動。刺さるエピソードを、読者の感想とともにピックアップ!
どういう意味で言ってます?
もったいないって何?
既婚男性から「彼氏いないなんて」と突っ込まれるエピソード。そこそこ生きてりゃ、こっちもいろんな経験してます。興味ない人にどうこう言われるすじあいないし、ワンチャンあると思われてたら、ゾッとする!
2巻p.44
「彼氏いないのもったいない」なんて、私の何を知ってて、言っているんだい?と思う(30歳・会社員)
モテそう=ヤレそうってこと?
とある酒場でのエピソード。気をつかってくれてるのかもしれないけれども、初対面のシチュエーションで返しに困るのが「モテるでしょ?」って言葉。結局何を言いたいんだと、脳内はこんな感じになりがち。すんごい疲れるんですけど!
2巻p.37
飲みの席での「モテそう」は褒められているようで、いろんな意味が含まれてる(35歳・美容関係)
別にそれ、褒めてませんが…
じゃあ私の何を見ている?
自他ともに認める美人OLの目黒ちゃん。初デートの場でも外見を褒められつつ、なぜか言い訳もされて……。「出会ってからわずかなのに、ルックスのほかに何がわかるのさ!?」と、相手の発言のズレっぷりにモヤる瞬間
3巻p.52〜p.53
素直に「きれい」や「可愛い」と言われることも嬉しいし、自信につながっているので…(32歳・アパレル)
彼はたぶんフォローしているつもりなんでしょうけど。別の言い方があるのでは…?(31歳・ライター)
名言炸裂! みんなの曽根ちゃん
タラ~ン
作中にたびたび登場する曽根ちゃんは、女子の本音の代弁者。「合コンではおごられたいけど言いづらい」と悩む友人らに、このひと言! そう、金額ではなく、“とことん己の負担を少なくしたがる”男の姿に、引くのが女心
5巻p.36
別にいいけど、抱かれたいか抱かれたくないかでいえば抱かれたくない。わかる(34歳・IT関係)
これは沼る!
ワンナイトの後、少し弱気になっている年下男子への、このセリフ。自分の恋愛観が確立していて、それを相手にも伝えられる曽根ちゃん。他者に振りまわされすぎないバランス感覚が、逆に相手を沼らせる!
3巻p.123
ささいな映り込みが生死を分けるインスタとの葛藤
ち・が・う・そうじゃない!!
好きな相手を嫉妬させようとSNSににおわせ投稿→不毛だったと思いあやまりのLINE連打……と、恋愛に必死なときにハマりがちなパターン。こんなのやめたいと思いつつ、ついいらぬ妄想をふくらませ、また繰り返してしまうんです(涙)
1巻p.27
よく見ると、どうでもいい人からはしっかりコメントが来てるところも激しく共感(30歳・マスコミ関係)
見なきゃいいのに見て自爆
季節のイベントの日。相手の動向が気になりインスタで探りを入れたら、楽しそうにしているのを知り、地味に落ち込むパターン。自分は誘われてないし、なんか悔しいしと――女心はSNSひとつで波のように揺れまくり
1巻p.41~42
映り込みやタグづけから一緒にいる人たちを特定し、部屋で一人勝手に落ち込む(32歳・会社員)
出たっ!! 上から目線の店選び
言語化してくれて助かる
モテを自認する職場の男がデートの店選びをするエピソード。相手が喜びそうなところを探しつつ、本音は自分がドヤれる場だったりしません? そしてそこは本当に“いい店”なのか?と、またもや曽根ちゃんのツッコミが冴える
4巻p.45
わかりすぎる‼ 都会の謎演出の食べ物たち。味はまったく思い出せない (34歳・IT関係)
生理中に優しい男って…
つらい現実(涙)
ナーバスになりがちな生理中。自分の性欲しか考えていない男も嫌だけど、この話みたいに、やたらと優しくしてくれる男の背景も、深掘りしてみると怖い! 彼らの言動に振りまわされず、己を大事にしたいもの
5巻p.61
理解してくれるのはすごく嬉しいけど、やたら優しいと確かに不安になる…(30歳・マスコミ関係)
大人の女友達って難しい
女同士もすれ違う
女3人で集まると、恋愛話をしたい人、それほどでもない人と、会話の傾向性もバラバラに。しかもそれぞれが抱えるコンプレックスを、相手へのマウントにすり替えたりも。ほどよい距離感を探るのが難しい!
2巻p.125、p127、p132
昔は仲がよかったはずなのに。大人になってからの男の話題はお互い探り合いになることも…(36歳・会社員)
既婚/独身で生じるズレ
中高時代の同級生が久しぶりに会うエピソード。一人は既婚で一人は独身。それぞれが思いを秘め、お互いの会話はズレまくり。同性同士も、もう少し相手の状況を俯瞰する&自分の本音を伝え合ってもいいのかも?
4巻p.62〜p.63
ないものねだりなのか、ちょっとした嫉妬心なのか…これも思いやり不足かも?(36歳・会社員)
2.ニッチェ 近藤くみこさんが松本千秋先生に直撃!
『トーキョーカモフラージュアワー』が刺さりすぎる女たちについて…
大の漫画好きで知られるニッチェの近藤くみこさん。『トーキョーカモフラージュアワー』もかねてから愛読中とか。作者・松本先生と作品について本音トーク!
ニッチェ
近藤くみこ
1983年生まれ。三重県出身。相方の江上さんとともにお笑いコンビ「ニッチェ」として活動中。TV「王様のブランチ」(TBS系)など、多数の番組に出演中。
松本千秋先生
東京都出身。コミックエッセイ『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』でデビュー。『トーキョーカモフラージュアワー』は『ヤングキング』で連載続行中。
30代以上が読むから、「あるある」の感情と、その先の癒しも得られる
近藤 私が『トーキョーカモフラージュアワー』を読んだきっかけは、表紙のイラストが可愛かったからでした。SNSの前評判などではなくて、完全なるジャケ買いだったんです。
松本 そうだったんですね。
近藤 先入観ゼロの状態でページを開いたら、「なんだこの刺さるエピソードの連続攻撃は!」と。衝撃を受けまして。ソッコーで女芸人たちとのグループLINEに「すごい漫画を見つけた」「ここには私や、あなたたちのことが描いてあります」と連打しました!
松本 ありがとうございます~。
近藤 そこからは読んでくれたみんなで、感想を送りまくりでしたね。
松本 書き手として、近藤さんには何が刺さったのか知りたいです……!
近藤 デートしたあとに女性が本音を言う話がありましたよね。まんま同じではないですけれども、「あるな~」って感じで。相手は完全に受け身で私だけが手間と時間を使い、心も疲弊……みたいな過去のデート経験と重ね合わせて読んでました(笑)。それと、誰と結婚してもよかった風な既婚男性が出てくる回があったじゃないですか。
3巻p.35
男が結婚を決めるタイミングが謎すぎる件
何年かぶりに連絡を寄こしてきた、既婚者の元カレ。今の妻と結婚した理由が「相手がどうしてもって言うから」。そのぼんやりした決め方やのらりくらりとした態度に「……じゃあ誰でもよかったのか?!」と、思わずツッコミを入れたくなってしまう
松本 元カレとのエピソードですね。
近藤 そう。あの話のヒロインと同じように、結婚の言葉をあえて出さずに彼氏とつきあっていた女友達がいて。でもその男、最終的には彼女ではなくて、浮気相手とデキ婚したんです。
松本 えー!
近藤 本当に「えー」状態なんですよ! でもそのときに思ったのは、「私の女友達が、もう少しわかりやすく結婚を切り出していたら、ソイツはどうしていたのだろうか?」って。
松本 結局は誰がよかったのかがわからないところが、よく似てますね。
近藤 もうね、そんな「あるある」ばっかりでした。ちなみにこの話、先生の実体験なんですよね。ほかにも色々とありそうですけれども……。
松本 既婚女性が夫から「嫁の買い物につきあい中(笑)」と、SNS上に投稿されたやつも私の身に起きたことです。
近藤 そうだったんですね。
3巻p.21
嫁ネタで「(笑)」のオチつけるの、面白いのか?
SNSに勝手に投稿されていた自分の写真。添えられていたのは「奥さんの買い物につきあってます」というネタっぽい文章。令和の今も鬼嫁トークって有効なのか? こっちはまったく楽しくないんですけどと、いらだつのみ!
松本 20代前半~30代後半まで結婚してたんですが、これは元夫とハワイに行ったときの記憶がベース。全部私が予約し、現地でのアテンドもやってた旅、SNS上では“嫁の散財につきあわされる俺w”みたいに書かれてたんです。もちろん、買い物も自分のお金でしてましたよ。一体何が「w」なんだ? と、ブチ切れた記憶を引っぱりだしてきて描きました。
近藤 私は今、結婚して2年ほどなんですが、もともと結婚願望はあまり強くなかったんです。その理由のひとつとして、「一体何が面白いんだ?」っていう、謎の嫁ネタをちょいちょい耳にしていたのもあったかもしれない。
松本 私ね、今でもこういう嫁落とし話の「w」の意味がわかんないです。
近藤 「つきあってやってる俺、いいヤツ」ってアピールなんですかね。
松本 そうなのか。やられた立場としては、あのときの回収できなかった恨みを、出してみた話でした(笑)。そういえば今日は近藤さんに、最新刊の感想も聞いてみたくて。どうでしたか?
近藤 今回も、心の中で正座しながら、一話ずつかみしめるように読んだんですけれども(笑)。絶妙だな~と刺さったのが、初めて一人暮らしをする男性に、不動産屋が「女を連れ込むならばこの街!」と、いろんな入れ知恵をしてくる話。〇〇はいい、〇〇だとこんな感じとか。住んでいる街の人気の理由やブランドイメージって、わりと下世話な話題ではあるんですけれども……。実際には私も気にして引っ越した経験もあるし。あまりパリピ感が出る場所はちょっとな、とか。
松本 私は昔、恵比寿に住んでいる男に抱かれたら、すっごい遊ばれているような気がしましたね。少しずれて代官山だったら罪悪感もゆるんだのかな。
近藤 代官山なら、それはそれでしゃれっ気に金をかけてる感じが、ちょっとイラッとしませんか?
松本 漫画で描いた「オシャンボーイ」ですね。ハイスぺリーマンだと、豊洲タワマン住みのほうがモテる?。
近藤 バイラ世代だと、豊洲よりもまだ中目黒のほうが刺さるかも……?
松本 恵比寿近辺は最強だなあ。
6巻p.50
本音まる出しな不動産業者のトークに苦笑い…
男が実家を出て一人暮らしをする理由とはなんなのか!? 「自由にヤレる」を軸に、都内の街を紹介してくれる不動産業者。その言葉は身もふたもなさすぎるが、かえって潔いとすら思えてしまう……
近藤 こうやってたわいない雑談中でも、先生の作品への熱量が伝わってきます。それにみんながぼんやり思っていることを絵と言葉で表現できるのは、やっぱりすごい! 先生が最近の話で思い入れがあるのはどれですか?
松本 人は経験や年齢を重ねるなかで、どうにもならないことに対して無関心になる……という気づきを入れた話。ただしその一方で、心の折り合いをつけるために、無関心なことが増えていくのもつまらないなとも思って。今の自分の、素直な感覚を入れました。
近藤 このバランス感覚ですよね。『トーキョーカモフラージュアワー』って、ひがみや自己嫌悪も受け入れて「でもそれだけじゃないでしょ?」って言ってくれるから好きなんです。
松本 よかった! SNSでエゴサすると「夜中に読むと寝られなくなる」みたいなご意見も多いから。
近藤 アハハ! リアルですからね~。
松本 でも待って、と。どん底があるから次に光がくるんでしょ、と。闇をもって制す、みたいな。この作品は起承転結をつけたくないし、総論めいたこともないんですけれども。「その瞬間に悩んでるのは、一人だけじゃない」とは伝えたいですね。私の中では癒し漫画を描いているつもりです。
近藤 確かに。恋愛や人づきあいでそれなりのを思いを味わってきた人が読めば、“癒される”意味がわかるんじゃないかな。作品に共感をし、刺激も受けて。そこからまた新たな景色が見えるようになる気がします。
6巻p.107
自分に関係ないことを「嫌い」認定する本音は?
自分が興味のない出来事について盛り上がる女友達たち。共感しつつも……。「でもこれって、心の防御策なのかも」という、一人のキャラの指摘が鋭い! 30代以上の大人の女性の心の揺れがリアルすぎて、自問自答したくなる
3.30代男女4人で“読書会”してみました
「このシチュエーションわかる!」「これは個人の見解の違いなのか?」と、大人だからこそ気になった、作品内の男女間のあれこれについて自由に意見交換! みんなで分かち合い、それぞれの感想を話し合ってみました。
渋谷さん(仮) 30歳・女性・独身(マスコミ関係)
品川さん(仮) 32歳・女性・独身(IT関係)
馬場さん(仮) 37歳・男性・既婚(デザイン関係)
上野さん(仮) 31歳・男性・独身(レジャー関係)
女のモヤモヤに、男の下心。私たちはこのすれ違いをどうやって埋めていく!?
品川 『トーキョーカモフラージュアワー』って、若い頃だったら相手に不満や思いをぶつけたり、軌道修正していたことも、黙ってのみ込むがゆえにすれ違う風景が多く描かれてて。まさに大人世代の恋愛模様だよなと。たとえば割り勘になったデートの後で、ぐるぐると思いを巡らすお話。さぞかしつまんないデートだったんだろうなあ~。
渋谷 !(笑) 間違いないよ。
品川 本当に楽しかったら、脳内にこんなモノローグ入らないよね(笑)。
渋谷 うん(笑)。あと私が震えたのは、その後相手の男が「昼間から会えば体目的だと思われない」と、計算しつつ次を誘う描写。本当にここまで確信犯?
上野 そうだね。女性への下心を誠実さでどう包むか、計算はするかも。ただしこの漫画の場合は、男も盛り上がらなかった感がある。だとしたら「自分は受け入れてもらえないのか」と思って、微妙な払い方をしたり、もうかなり露骨に誘ってしまえ、みたいな言動に落とし込んでいるヤツはいそう。そもそも大事にしたいと思える子だったら、割り勘はしない!
3巻p.8
テンションの上がらないデートで我に返る瞬間
¥8700の会計を割り勘した初デート。もしかして損してる!?と、相手の払いっぷりから人柄を値踏みしてしまう。婚活あるある!
渋谷 うわ~。それはしんどい本音だわ(笑)。あとSNS映えするクリームソーダを、女の子にたとえて“半分欲しいけど半分いらない”というエピソードも、え、男は半分食べたらおしまい? と、モヤモヤしちゃって。
上野 女性の場合は一人を所有したい欲求があるような気がするけど、男はできることなら複数所持がしたい。でも経済や社会状況がそれを許さないから、“美味しいところだけをいっぱい味見したい”みたいな思考になるのかも。この感覚は、性差なのかなあ。
品川 うーん。女性にもあるような? 私はこのキャラに賛成も共感もしないけど、「結婚」ってフィルターをかませたら、少し納得。結婚は“練習がない巨大プロジェクト”みたいな部分があるから。失敗しないように、より多くの人とつきあって決めたい=半分だけをいっぱい味わいたいって考える人もいそう。マッチングアプリのおかげで、出会える相手の数も増えたし。
上野・馬場 なるほどねえ。
1巻p.46
いっぱい“味見”したい感覚は性差? それとも…
男は狙ってる子を落としたらゴールとなる生き物なのか!?複数の恋愛で味見をしたいのは女だって同じ?と、多方向に深掘りできるエピソード
渋谷 出会いでいえば、「もしよかったら」って誘いの言葉についての話も。これあるよね!って感じ。
品川 そう。同性には使わない表現。
馬場 相手にも色々と予定があるだろうし、断るときに負担にならないように気づかう言葉、と読んだけど。仕事でも使うし。もしかして、長年のパートナーがいる30代後半の僕は、出会いの機微に鈍くなってる?
上野 ビジネスはその感じで機能しますよね。恋愛だと自分を守りたい魔法の言葉かなと。「最初はそっち主導だったよね」的な、妙な上下関係ができたり、責任を負いたくないって。僕はこういう誘い方はしないけど。お互い同じくらいの熱量で恋を始めたいし。
渋谷・品川 まあ、そうだよね~。
上野 とはいえ、どのシーンの言葉や関係にも正解・不正解はないはず。
馬場 うん。その上で、人と人の間で、思いを伝え合うことの難しさや、大切さが描かれてる漫画かなと。
渋谷・品川・上野 わかる!
3巻p.65
ふんわりしたお誘いフレーズ。真意はどこにある?
恋愛が始まりそうな場面で使われる「もしよかったら」。やる気があるのかないのか。受け取るほうはひたすらモヤモヤするばかり!
BAILA的《気づき》
《1》会話で気持ちを伝えるのは恋愛関係でも大切なこと
大人になるほど言いたいことを我慢したり、逆に持論を展開するなど、恋愛も独りよがりになる。相手を大事にしたいなら、対話することを忘れずに
《2》「察してほしい」からは何も始まらない
コミュニケーションのすれ違いの原因が、“察して”という考え方。自分からは何も言わずに、相手から満足いく態度が出てくるとは思わないこと
《3》「わかり合えない」前提でもっと対話を深める
同じ性別だから、年齢が近いから、わかり合えると考えるのもすれ違いを生む。一人ずつ違う思いを持っているのを前提に、意見を交換し合う!
『トーキョーカモフラージュアワー』とは?
【STORY】
東京に住む大人の男女たちの人間模様を描いたオムニバスストーリー。無自覚な言動を繰り返す男子、心の中に思いをためがちな女子など、“あるある”な登場人物と、そのエピソードの細かさがリアル。Twitterで反響を呼び、一躍注目&人気作に!
NEW!
『トーキョーカモフラージュアワー』
松本千秋/少年画報社 6巻
電子版販売 968円
6巻でも、東京を生きている男女の瞬間を切り取ったショートコミックがたっぷり。30代女性に刺さるシチュエーション&悶絶すること間違いなしの鋭いセリフも、ますます光る一冊に。
取材・原文/石井絵里 撮影/イマキイレカオリ ※BAILA2023年4月号掲載