「落ちるの一秒、ハマると一生」と言われる歌舞伎沼。その深淵をのぞき、沼への入り方を指南するこの連載。今月から短期連載で、若手の注目俳優のリレーインタビューがスタート。第一回目の登場は、若手の女方として大注目の中村壱太郎(かずたろう)さん。上方歌舞伎らしい柔らかい色気と愛らしさで人気急上昇。コロナ自粛と向き合う姿から、貪欲に芸を学び、前向きに進む壱太郎さんの素顔が見えてきた!!
↑なかむらかずたろう●1990年、東京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。屋号は成駒家。1991年11月、京都・南座で初お目見得。1995年1月、大阪・中座で初舞台。2014年9月、吾妻徳陽として日本舞踊吾妻流七代目家元襲名。上方歌舞伎の継承者として、人気、実力ともに急上昇。2016年、アニメ映画『君の名は。』のヒロインと踊る巫女舞の創作を担当。2018年には、YouTube都営交通公式チャンネルが発表した都営地下鉄浅草線の新型車両登場記念動画「KABUKI UNDERGROUND」に出演するなど、歌舞伎以外にも活躍の場を広げている。
↑2018年4月名古屋・御園座『廓文章 吉田屋』(くるわぶんしょう よしだや)で傾城・夕霧を演じた壱太郎さん。素顔から、この変わりよう!! 華と艶があって色っぽい♪『吉田屋』は、上方を代表する芝居で、祖父・坂田藤十郎(とうじゅうろう)さんや父・中村鴈治郎(がんじろう)さんもたびたび出演している作品。松本幸四郎さん演じる伊左衛門とのイチャイチャ、たまりませんでしたわ~♪
■久々に企画書を書いたりして、今何ができるか、考えています
ばったり小僧 部長、たいへんです!! コロナ自粛のせいで、歌舞伎の舞台も3月から全部休演になってしまいました。5月からの團十郎襲名も延期になってしまったし……無念!!
まんぼう部長 再開の見通しもたってないから、俳優もスタッフもみなさん、辛い思いをしているに違いないわ。こんなときだからこそ、歌舞伎のために、私たちも動くわよ。若手俳優たちの魅力をしらしめて、新たなファンをつかむのよ。
小僧 そんなこといっても、みんなstayhomeだから取材もできないじゃないですか。私たちだって、この1か月、画面越しでしか話してないし。
部長 そう、だから取材もリモートでやればいいのよ。じつは今日は中村壱太郎さんにSkypeで取材できるようにもうお願いしてあって。
小僧 ええっ、マジですか!? お会いしたこともないのに、いきなりリモート取材なんて緊張する~。
部長 大丈夫よ。壱太郎さん、すごくお話上手らしいから。
↑緊急事態宣言期間中だったため、壱太郎さんとの取材は、Skypeを通して行われました!! 途中、家のそばを救急車が通って、話が聞こえなくなったり、リモートならではのハプニングも。画面は小僧がスマホで撮影しましたが、写真がヘタで申し訳ないです。コロナが明けたら、ぜひ素敵なお写真を特写させてください!!
(というわけで、ぞれぞれの自宅からSkype通話することに)
部長 壱太郎さーーん!! 今日は、リモートでの取材ということで、どうぞよろしくお願いいたします。壱太郎さん、聞こえますか~!?
壱太郎 はい、聞こえます。よろし………がい……します。
小僧 すみません、ちょっと声が途切れ途切れです。
壱太郎 電波が悪い……で移動します。(と、しばし家の中をずんずん進む) はい、大丈夫です。よろしくお願いいたします。
部長 では、早速ですが、新型コロナウィルスの影響で、歌舞伎の公演も3月以降、すべて中止になってしまいました。本当に残念です。
壱太郎 そうですね。本当に悔しいです。でも、ここで立ち止まってはいけないと思っています。今、我々歌舞伎役者は、舞台の仕事がゼロです。もちろん舞台以外の場でさまざまなアクションを起こしている方はいらっしゃいますが、ほとんどの方が何もできずにいるかと思います。その中で何ができるか、日々考えています。
舞台ができるようになるまで待つというのも一つの手だと思います 。あえて何もしないで、満を持して舞台に臨むという考えもあるかもしれません。でも、僕は、今動かないといけないなという思いがあるので、久々に企画書を書いたりして、今できることは何なのかを探っています。
↑自宅でパソコンで作業をする壱太郎さん。企画書を書いたり、映像を見たり、仕事でもプライベートでも必需品。舞台のときとは全然違う、お仕事モードの表情も素敵。「役者は事務的な仕事をするもんじゃない、という考えもありますが、コロナ自粛の今、自分のスキルが活かせてよかったと思っています」。
部長 おおっ、さすが壱太郎さん、アグレッシブですね。
壱太郎 自分たちから発信して、何か仕事が欲しいというよりは、歌舞伎の動きを止めてはいけないという気持ちがすごくあります。 足踏みはいいとしても後退してはいけない。ここから何とか先に進みたいという思いでいっぱいです。 たとえば今の時代、有名人の方々は自分のSNSでいろいろ発信して、それを自己アピールにつなげることが当たり前になっていますよね。
もちろん歌舞伎でも個々に情報を発信している人はいるし、それも意味あることだと思うのですが、僕たちの強みというのは、歌舞伎というひとつの世界の中にいるということだと思うんですね。だから役者やスタッフを含め、今こそ歌舞伎界が一団となって闘うことができるんじゃないかと考えています。
小僧 なるほど。何かこれまでとは違う発想のものが生まれそうですね。
壱太郎 そうですね。制限のあるときだからこそ、新しく生まれるものもあると思います。僕たち歌舞伎役者は、普段は一か月芝居をやったら、また次の一か月も芝居をやるというハードスケジュールなので、いつもだったら、なかなかできない企画やアプローチの方法も今だから思いついたり、実現することができる。だから今はピンチだけれど、逆にチャンスだとも言えます。
そしてこのコロナ自粛のときだけの企画ではなくて、今後、公演が稼働するようになっても動き続けるようなものをやるべきなんじゃないかと。そうすることで、この先の動員にもつながるのではないかと思っています。
↑長年、読めずに山積みになっているという雑誌&書物の山を壱太郎さんが激写。「最近、読んでおもしろかった『遊女』に関する研究本を添えました」。雑然としているところが男子の部屋っぽい♪
小僧 何とも頼もしい発言! 壱太郎さんは、舞台では、すごくおしとやかな雰囲気だけど、じつはガッツのある性格なんですね。
部長 本当ね。どんな新企画が出てくるのか、すごく楽しみだわ。
小僧 ところで「stayhome」のこの時期、やはり家にいることが多いと思いますが、どんなふうに過ごされていますか。
壱太郎 部屋の隅に読みたい雑誌や本が積んであるんですけれど、ここ数年、忙しくて、全然読めてなかったんですね。今それを読むのが趣味です(笑)。5~6年前の雑誌もあるので、だいぶ古い情報だったりするんですけれど、意外とそこにもヒントがあったり! 雑誌の山が減っていくのがすごく楽しくて。コロナ自粛の間にゼロになるんじゃないかな。
小僧 家ばかりで、ストレスもたまると思いますが、癒しの時間は何ですか?
壱太郎 ラジオかな。元々ラジオが好きで、家にいるときは、テレビよりもラジオをつけていることが多いのですが、このコロナ自粛の時期に、ラジオはテレビ以上につながりを持てる媒体だなとあらためて感じました。一人暮らしで、ラジオに救われたという方もいるのではないでしょうか。
昔、『邦楽ジョッキー』という番組を4年やっていて、現在も毎日放送でラジオ番組をやらせていただいていますけれど、パーソナリティとしてもそういうつながりを大事にしたいなと思いました。
↑料理は得意で、よく作るそう。「写真は少し前に作ったもの。25分茹でなきゃいけないという、見たこともないパスタとホタルイカのパスタです(笑)」。これはおいしそう!! でも、このパスタ、どう見てもうどんでしょ!?
■『ハチミツとクローバー』にハマり、一瞬、美大に憧れた!?
部長 壱太郎さんは、おじいさまは坂田藤十郎さん、お父さまは中村鴈治郎さんという歌舞伎の名門のお家に生まれたわけですが、学生時代はどんな感じだったんですか?
壱太郎 とてつもなく騒がしかったでしょうし、だいぶやんちゃだったと思います(笑)。とにかくマンガとかに影響を受けやすくて、中学生の頃は、『クローズ』というヤンキー漫画にのめりこんで髪を染めてみたり(笑)、『SLAMDUNK』を読んで、壁にぶつかっても諦めない主人公たちに憧れたり。高校生のときには、『ハチミツとクローバー』に夢中になって、一瞬、美大に行きたいと思ったりもしました。
↑1991年11月京都・南座〈三代目中村鴈治郎襲名披露興行〉『廓文章』の藤屋手代で初お目見得。まだ1歳で、よちよち歩きの頃に、すでに舞台に立っていたなんてすごいっ。「もちろん当時の記憶はまったくありません(笑)」
小僧 『クローズ』と『ハチクロ』では、だいぶ世界観が違いませんか?
壱太郎 『ハチクロ』は、高校のときに読んでる友達がいて、最初は「穏やかな漫画なんて面白くないでしょ」と思っていたんですけれど、借りて読んだら、その世界観にすっかりハマッてしまって。まあ、とてつもなく単純だったでしょうね。
部長 いや、でもすごく真っすぐで熱い性格なんだなというのはわかります。マンガと歌舞伎は、何か通じるところがあったんでしょうか。
壱太郎 歌舞伎のためにマンガを読んでいたということはまったくないんですけれど、その後、マンガが歌舞伎になったりしたし、マンガも歌舞伎もどこかでファンタジーの要素が入っていて、ぶっ飛んでるところがある。そういうところは歌舞伎に通じるところがあったのかもしれないですね。
↑1995年1月大阪・中座〈五代目中村翫雀・三代目中村扇雀襲名披露興行〉『嫗山姥』(こもちやまんば)の一子公時で初代中村壱太郎を名のり初舞台。「小さい頃から祖父や父の楽屋に遊びに行っていたので、ごく自然に歌舞伎の世界に馴染んでいきました」
部長 大学生活の思い出はありますか?
壱太郎 高校生のときも仲間と学園祭を作ることをやっていたのですけれど、大学でも学園祭を作る実行委員に入っていて、それにも奔走していました。大学の学祭は、学校からはお金が一銭も出なくて、地域の方々から協賛金をもらうというところから始めなければならなかったので、まさにゼロから作り上げる感じでした。これまでの先輩方と地域とのつながりも大切にしながら何かを「創り上げる」こと、 その経験が今まさに活かされている気がします。
部長 コロナ自粛の今、ということですか。
壱太郎 そうですね。企画書の書き方、人の巻き込み方、プレゼンの仕方、イベントの起こし方……というのが、今すごく生きています。PowerPoint、イラストレーター、フォトショップなどのソフトを使えるのも実行委員をやっていたおかげで、僕は普通の会社員経験がありませんので、もしこれをやっていなかったら、できなかった。
小僧 確かにイラレが使える歌舞伎役者はあまりいなさそうですね(笑)。それにしても充実した学生生活ですが、歌舞伎役者としてやっていこう、と決めたのはいつ頃だったんですか。
↑2000年2月歌舞伎座で、舞踊の人気ナンバー『手習子』(てならいこ)に挑み、愛らしい娘お駒を熱演。まだ10歳ながら、すっかり女方の雰囲気が身についているのにびっくり。目元のあたり、今の壱太郎さんの面影が感じられる!!
壱太郎 これを一生突き詰めていくんだ!と思ったのは高校1年生のときです。祖父が70歳で坂田藤十郎を襲名しまして、その襲名公演に私も東京と大阪で出演していたのですが、一般的には60歳で定年退職という時代に、歌舞伎役者は70歳という年齢から、あらたに舵を切って、スタートすることができる。なんて素晴らしい職業なんだろうと思いました。
また、僕は今9割方、女方ですけれど、祖父は主役の立役もできて、女方もできるということを襲名公演で見事に体現しており、その祖父の生き様に感動しましたし、こういう人になりたいと強い憧れを持つようになりました。それで一生をかけて、この仕事をやっていこうという思いになりました。
↑2010年3月京都・南座『曽根崎心中』(そねざきしんじゅう)のお初に役柄と同じ19歳で挑む。お初は、祖父・坂田藤十郎さんが1300回以上演じた大切なお役だけに、それを受け継ぐ壱太郎さんの緊張と喜びはマックスに。それにしても可憐で初々しくて素敵♪
■「粋」(いき)というより「粋」(すい)。それが上方歌舞伎です
部長 壱太郎さんは、女方をやることが多いというお話でしたが、それは壱太郎さん自身が女方に惹かれるものがあったということでしょうか。
壱太郎 自分で望んでそうなったというよりは、いただいたお役が、たまたま女方が多かったということもあるし、僕は東京で生活していますけれど、もともとは上方歌舞伎(かみがたかぶき)の人間ですので、上方の若手で、女方をやる人がいなかったというのも大きいかもしれません。
部長 上方歌舞伎って、京都・大阪の関西で発展した歌舞伎のことですよね。いわゆる江戸で発展した江戸歌舞伎とは、全然違うものなんですか?
↑2015年6月博多座『連獅子』(れんじし)にて、父・中村鴈治郎(左)さんと親子獅子を演じる壱太郎さん。女方の舞踊も素敵だけど、勇壮な踊りも躍動感があっていい!! 「父は立役がほとんどです。僕も女方をやりつつ、父が得意とするカッコいい立役にもいずれ挑戦してみたいと思っています」。
壱太郎 僕は違うと思ってやっています。上方の芝居というのは、やっぱり濃いですね。独特の柔らかさや色気があって、さっぱりというよりはねっとり。粋(いき)というより、粋(すい)。もともと上方歌舞伎の作品には、殺人や心中なんかがよく出てくるんですが、人間の業だったり、欲だったりをすごく濃く描かれているものが多いんですね。だからこそ、芝居も色濃く演じたいという思いが強いのかもしれないです。でもそこに颯爽とした気立てもある。
僕が一番芝居を習ってきたのも祖父(坂田藤十郎)をはじめとして、片岡秀太郎(ひでたろう)のおじさまであり、坂東竹三郎(たけさぶろう)のおじさまであり、 上方に鎮座する最強布陣ですから、その伝統はやはり貪欲に習っていきたいという思いはあります。
↑2017年9月歌舞伎座『仮名手本忠臣蔵』(かなでほんちゅうしんぐら)<道行旅路の嫁入>で小浪を演じ、戸無瀬役の祖父・藤十郎さんと共演した壱太郎さん。ちなみに藤十郎さんの奥さまは、女優で政治家の扇千景さん、そして妹は女優の中村玉緒さんという、超芸能一家なんです~!
小僧 壱太郎さんは、自分の強みは何だと思いますか?
壱太郎 やっぱり貪欲な所ですかね。誰かに習いたい、学びたいという思いがすごく強くて、初めてその役を演じるときにそのお役を習うのが常なんですけれど、僕は2回目でも3回目でも演じるときにまた習いたいなと思うんです。
たとえば2018年に『女殺油地獄』で与兵衛の妹・おかちをやらせていただいたんですけれど、この役を初めてやったのが、2007年で、まだ17歳のときでした。そのとき、七左衛門の女房・お吉を片岡孝太郎のお兄さんが演じていらっしゃって、おかちを孝太郎のお兄さんにお習いしたんですが、一昨年、またおかちをやるにあたって、もう一度、孝太郎のお兄さんに、お話しをお伺いしました。
これは祖父から何度も言われていることですが、上方歌舞伎は、言葉のなまりですとか、芝居の雰囲気ですとか、1回習って身につくものではないので、何度でも習って、上方歌舞伎の強みを習得したいですね。…………ガーガー……ちょっと母が掃除機をかけはじめまして、うるさくてすみません(笑)。
小僧 いえいえ、これぞリモート取材の醍醐味です(笑)。
↑2018年1月、大阪・松竹座<坂東玉三郎 初春特別舞踊公演>で『鷺娘』(さぎむすめ)を踊る壱太郎さん。日本舞踊吾妻流の家元でもあるだけに踊りの実力はハンパない!! イナバウワー、じゃなくて、海老反り、美しすぎる!!
部長 逆にご自身でまだまだ自分に足りないと思うところ、ダメだなぁと思うところはありますか。
壱太郎 このインタビューでもおわかりかもしれませんが、せっかちで落ち着きがないところじゃないですかね(笑)。
部長 そうですか? すごく落ち着いていらっしゃるように見えますよ。
壱太郎 いや、芝居がせわしないというのはすごくあると思いますし、近年、(坂東)玉三郎(たまさぶろう)のおじさまにお習いさせていただいた時に、舞踊公演もご一緒させていただいているのですが、動きにしろ、セリフにしろ、どれをとっても落ち着きがなくて、悠然と構えるというのが、一番できなかったところです。
↑2018年12月歌舞伎座『於染久松色読販 お染の七役』(おそめひさまつうきなのよみうり おそめのななやく)で、ひとり七役にチャレンジ。お染、久松、竹川、お光、小糸、お六、貞昌と、娘から年配の女性、さらに男性まで、さまざまなキャラクターを演じ分け、息もつかせぬ早替りで客席を沸かせた。本人はせっかちなのが自分の短所と言っていたけれど、せっかちじゃないと、七役も演じられないですね、きっと。
小僧 ところで、楽屋でよく食べるものは何ですか?
壱太郎 ここ3年くらい地方公演がとてつもなく多くて、家で料理をする暇もなくなってしまったので、楽屋でご飯を炊くようになりました(笑)。
小僧 ええっ、そんなことが許されるんですか!?
壱太郎 昔はそれこそ、楽屋で豚汁作ったりしてる役者さんもいたらしいですけれど、今それをやるとえらいこっちゃって感じなので(笑)、ご飯を炊くぐらいにしています。朝だったらそれで瓶詰の鮭とか佃煮とかでササッと食べます。とにかく「米を食う」ということをすごく大事にしています。米を食べると力が出ますね。
↑2019年5月、新宿歌舞伎町などで上演されたオフシアター歌舞伎『女殺油地獄』(おんなごろしあぶらのじごく)では、お吉役で出演。「中学生とき、中村勘三郎さんが演じた『野田版 鼠小僧』(のだばん ねずみこぞう)(野田秀樹演出)を観て衝撃を受けた」というだけあって、古典だけでなく、新しい試みに積極的に取り組む姿勢が印象的。
部長 では、最後にバイラ読者は、歌舞伎初心者が多いのですが、歌舞伎を観るとき、どんなふうに楽しんだらいいのか、教えてください!!
壱太郎 古典歌舞伎の場合、内容を予習してないと、正直、何もわからずに1時間くらいが過ぎることもあると思います。でも、内容がわからなくても恥ずかしいと思う必要はありません。役者がかっこいいとか、衣裳が素敵だとか、大道具・小道具もほぼ手作りですので、そういうものに感動してもらったりとか。そんなところから入ってもらうといいのではないかなと思います。
頭でわかろうとしないで、五感で感じてください。言葉が分からなければ異国文化を見るような感覚でもいい。お客さまには、それぞれの人生経験があると思うので、何かしら自分に響くところがあるはずです。
部長 ああ、早く壱太郎さんの舞台が観たいわ。コロナ自粛解禁が待ち遠しい!!
小僧 本当に。そして歌舞伎の新しい形もぜひ実現してほしいです。楽しみにしています!
↑2019年08月、歌舞伎座ギャラリーで上演された新作舞踊劇『四勇士(よんゆうし) 友と共にあめアメふれフレ』では、壱太郎さんが、春虹(しゅんこう)の名前で脚本・演出、吾妻徳陽(あづまとくよう)の名前で振付を手がけた。共演したのは、「こども歌舞伎スクール寺子屋」の生徒たち。「時間のない中、よく頑張ってくれました。たいへんなことのほうが多かったけれど、創作する喜びを感じることができました」。
↑2019年08月、歌舞伎座ギャラリーで上演された『四勇士 友と共にあめアメふれフレ』の稽古風景。「物語を作るのは昔から好きで、以前、松本幸四郎さん、藤間勘十郎(かんじゅうろう)さん、尾上菊之丞さんの3人が、若手の研究の場として夏に開催していた『趣向の華』(しゅこうのはな)という会でも新作を書かせてもらったことがあります。今後も機会があれば、新作を書いてみたいです」。
■リレー連載なので、次回登場の尾上右近さんへのお題をお願いします!!
「『けんけん』と呼ばせていただいていますけれど、以前から、彼の芝居に対する熱量とか、普段のアンテナの張り方とかがすごく素敵だなと思っていたところ、彼も僕に対して共感してくれるところがあったようで、2018年、彼が毎年やっている自主公演『研の會』に呼んでくれて、二人で『二人椀久』を踊ることができました。僕もすごくやりたかった演目なので、実現できたのはうれしかったし、いつか必ず本公演で踊りたいねと二人で話しました。けんけんも今すごく活動の幅を広げていて、映画やテレビにどんどん進出して頑張っているので励みになります。きっと実現できる日がくるのではないかと楽しみにしています。
で、お題ですが、こんなときだから真面目な質問でいいでしょうか。『もしあなたが政治家だったら、今何をしますか?』 えっ、 答えるのが結構たいへんな質問? いやいや、けんけんだったら、きっとおもしろいことを言ってくれるでしょう!!」
■リレー連載共通質問/自分を山手線の駅にたとえると何ですか?
「何ですか、その質問は(笑)。なんだろうなぁ……そうだ、今年新しくできた高輪ゲートウェイにしておきます。その心は、『つねに最新を生きていたい』。けんけんはなんだろうなぁ。」
↑2019年12月、京都・南座『金閣寺』(きんかくじ)では、ヒロインの雪姫を初役で勤めた壱太郎さん。吹雪のごとく舞い散る桜の木に縛られた雪姫の姿は、気高く美しい中にもはかなさがあって、思わずうっとり~。ちなみに歌舞伎にはたくさんお姫様が出てきますが、そんな中で雪姫は、とくに大役とされる「三姫」(さんひめ)のひとつ。また雪姫を演じるのを楽しみにしています!!
■中村壱太郎 Official Website
取材・構成/バイラ歌舞伎部
まんぼう部長......ある日突然、歌舞伎沼に落ちたバイラ歌舞伎部部長。遅咲きゆえ猛スピードで沸点に達し、熱量高く歌舞伎を語る。
ばったり小僧......歌舞伎歴2か月。やる気はあるが知識ゼロの新入部員。若いイケメン俳優より、本当はオーバー40歳の熟年役者好き。