「落ちるの一秒、ハマると一生」と言われる歌舞伎沼。その深淵をのぞき、沼への入り方を指南するこの連載。今月、バイラ歌舞伎部のまんぼう部長とばったり小僧は、花形歌舞伎俳優のみなさまに無謀にもアンケート調査を試みました!! お答えいただいたのは、中村壱太郎(かずたろう)さん、尾上右近(うこん)さん、中村米吉(よねきち)さん、中村橋之助(はしのすけ)さん。今注目の4人は、南座「三月花形歌舞伎」で『義経千本桜』に出演します。若者だけで歌舞伎の名作に挑む今の気持ちや、お互いについて知っていることなどをなんと直筆で回答してくださいました! 舞台にかける4人の熱い気持ちをまるごとお届けします!!
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ばったり小僧 部長、3月の南座、壱太郎さん、右近さん、米吉さん、橋之助さんの花形4人で『義経千本桜』って、めっちゃ楽しそうなんですけど。
まんぼう部長 そうなの!! 『義経千本桜』といえば、歌舞伎を代表する演目。 その中の「吉野山」と「川連法眼館」(四の切)を上演するんだけど、プログラムがAプロ、Bプロに分かれていて、4人がいろいろな役を演じ分けるのよね。
小僧 狐が出てくるアクロバティックな場面、出てきますか?
部長 もちろん。Aプロでは、壱太郎さんが静御前、右近さんが佐藤忠信実は源九郎狐、Bプロでは、米吉さんが静御前、橋之助さんが佐藤忠信実は源九郎狐を演じて、源義経は、全員が日替わりで演じるのよ。どれも大役だから、全員すごく気合が入っているはず……というわけで、アンケートをお願いしたら、 4人からとっても胸アツな回答がきたわ♪
小僧 本当にみなさん、お忙しいのにこんなに書き込んでくださって感謝ですね。
部長 みんなの回答を読むと、文面から心が弾んでるのが伝わってくるもの。本当にみなさま、ご協力いただいてありがとうございました。感謝感激です。では、早速アンケート、いってみよ~!!
■リーダーの中村壱太郎さんはダイナミックな筆致
↑中村壱太郎(なかむら かずたろう)。1990年東京都生まれ。屋号は成駒家。父は歌舞伎俳優の中村鴈治郎(がんじろう)
↑壱太郎さんの回答。筆ペンで勢いのある文字がインパクト大。サインも入れてくださいました♪
部長 舞台ではあんなにたおやかなのに、この文字の凛々しさ!! 若手のリーダーとしてみんなを引っ張っていく頼もしさを感じるわ~。
小僧 壱太郎さんの静御前は美しいでしょうねぇ。間違いないって思います。でも、壱太郎さんの義経は、ちょっと想像つかないのでこっちも楽しみ。
部長 Q3も注目よ。物知りな壱太郎さんに「物知り」と言われる米吉さんってすごい。しかも「妹分」って(笑)。
小僧 さすが米子さん!! そしてQ4、持って行くものが『日本書紀』っていうのが素敵。さすがインテリですね。
部長 壱太郎さんは脚本も書くから、何か新作のヒントを得ようとしているのかも。勉強家だわ。そしてQ5の「一生青春」は、確か昨年亡くなった祖父の坂田藤十郎さんの座右の銘だったはず。バイラ歌舞伎部も一生、壱太郎さんについていきます!!
↑2018年9月巡業公演にて「吉野山」で、静御前を演じる壱太郎さん。惚れ惚れするほど美しい☆彡
■書き込みびっしり。思いがあふれる尾上右近さん
↑尾上右近(おのえうこん)。1992年東京都生まれ。屋号は音羽屋。父は歌舞伎の伴奏音楽「清元」の家元・清元延寿太夫(きよもとえんじゅだゆう)
↑右近さんの回答。「ここからが始まりだ、うん」というところに覚悟を感じます!!
小僧 右近さん、めちゃくちゃ書き込んでるじゃないですか。熱気が半端ないですっ。
部長 じつは松竹の方から一度「ただいま執筆中です!」と連絡がきたのよ(笑)。執筆?と思ったけど、届いたアンケート用紙を見たら裏面に回答だけをびっしり書き込んでくれていて。まさしく執筆!それを読者の方が読みやすいように、編集部でほかの方と同じQ&A形式に整えさせてもらったの。Q1に「がんばれ己!」ってあるけれど、アンケートでも本気モード。 熱い男なのよね。素敵☆
小僧 米吉さんには暑苦しいと書かれてましたけどね(笑)。
部長 右近さんの狐忠信は、本当に楽しみよね。この前、テレビのクイズ番組でコンコン言ってたけど、もうかわいかったもの(笑)。
小僧 Q2でも狐しぐさを勉強するためにYouTubeで、本物の狐の映像を観てるって。もう徹底的に極めてほしいです。
部長 そしてQ3で明かされる橋之助さんの玉突き珍事件!! 想像して吹き出しちゃった(笑)。
小僧 Q4の荷物が大量というのもびっくり。ホテルから劇場までの服装にもこだわりたいなんて、さすがおしゃれな右近さん♪
↑2015年8月、国立劇場小劇場で行われた自主公演『第一回研の會』にて、「吉野山」で佐藤忠信実は源九郎狐を勤めた右近さん。キマってる! このとき、静御前を勤めたのは市川猿之助さんだったそうで超ゴージャス!!
■初役に期待と緊張で胸がいっぱいの中村米吉さん
↑中村米吉(なかむら よねきち)。1993年東京都生まれ。屋号は播磨屋。父は歌舞伎俳優の中村歌六(かろく)
↑米吉さんの回答。まっすぐにそろった文字から折り目正しい感じが伝わってきます。ユーモアセンスも抜群♪
小僧 米吉さんの言葉使いって、独特の美しさがあるじゃないですか。古式ゆかしいというか。その感じが回答からも伝わってきますね。
部長 本当にね。でもQ2にあるように、今回は全部初役。静御前を坂東玉三郎さんに教えていただけることになって、「ありがたさに胸がいっぱい」って。感動が伝わってくるわ~。
小僧 米吉さんの静御前、かわいいだろうなぁ。義経をお父さまに習っているというのもほっこりします。
部長 Q3の右近さん評で「求ム! ソーシャルディスタンス!」っていうのが最高。こーゆーところが米吉さん、天才的よね。 あとQ4のドラマは、私が観てるのと、ほぼ一緒でうれしかった(笑)。
小僧 『その女、ジルバ』が入っているところがさすがです。ところでQ5の「偏に」って漢字、なんて読むんですか?
部長 わからない……待って調べるから……「ひとえに」か!! さすが米吉さん、勉強になります~。
↑2020年3月国立劇場『義経千本桜』の「鳥居前」で静御前を演じる米吉さん。美しく憂いのある表情にうっとり。3月南座では、同じ演目でも「吉野山」「四の切」の静御前は初役とのこと。
■弟二人も一緒に出演。うれしさ爆発の橋之助さん
↑中村橋之助(なかむら はしのすけ)。1995年東京生まれ。屋号は成駒屋。父は歌舞伎俳優の中村芝翫(しかん)
↑橋之助さんの回答。筆使いはやさしいタッチ。唯一ブルーのインクで書いてくれました。
小僧 一番若い橋之助さん。「南座を逆立ちして3周できる位うれしかったです!」って。喜びの大きさが伝わってきますね。
部長 本当に。右近さんと同じく、狐忠信は尾上菊五郎さんに習うのね。すごい楽しみだわ~。
小僧 Q2で、「前の忠信の花道を見込みキマル所が大好きで」ってありますけれど、この意味は?
部長 前の忠信というのは、狐じゃなくて、本物の忠信のことね。その忠信が花道を見込んだ形で決めている場面っていうこと。橋之助さんは狐の忠信より、本物の忠信の場面の方が好きなんだそうよ。この場面、弟の福之助さんと歌之助さんと兄弟3人一緒というところもうれしいだろうなぁ。
小僧 Q3の壱太郎さん評。台本の字がぐちゃぐちゃと暴露されてます(笑)。壱太郎さんは、やっぱワイルドなんですねぇ。
部長 そしてQ4はやっぱり出ました宝塚!! そしてゲームのフォートナイト!! 夜更かしに気をつけてください♪
↑2020年5月巡業で上演予定だった「川連法眼館」佐藤忠信実は源九郎狐の橋之助さん。子ぎつねの愛らしさがあって、とってもキュート♪
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部長 ということで、アンケートは以上で終了。
小僧 みんなの熱意が伝わってきて、おもしろかった~。これは絶対観なくちゃ。
部長 最初に言ったように、 AプロBプロで配役が違うから、チケットを買うときはよく見て買うようにしないとね。まあ、Aプロ、Bプロぶっ続けで観ればいいんですけど、ふっふ。
小僧 アンケート読んで、歌舞伎愛に火がつきましたね。
部長 それから公演の冒頭には、歌舞伎の魅力を解説する『歌舞伎の魅力』というコーナーが設けられていて、こちらも4人が日替わりで登場するっていうから楽しみ。コロナ対策はきっちりしつつ、南座に足を運びましょう!!
◆「三月花形歌舞伎」
日程:2021年3月6日(土)~21日(日)
場所:京都 南座
一、歌舞伎の魅力
中村米吉(Aプロ偶数日)、中村橋之助(Aプロ奇数日) / 中村壱太郎(Bプロ偶数日)、尾上右近(Bプロ奇数日)
ニ、義経千本桜 「吉野山」
静御前:中村壱太郎(Aプロ)、中村米吉(Bプロ)
佐藤忠信実は源九郎狐:尾上右近(Aプロ)、中村橋之助(Bプロ)
三、義経千本桜 「 川連法眼館」
佐藤忠信実は源九郎狐:尾上右近(Aプロ)、中村橋之助(Bプロ)
源義経:中村橋之助(Aプロ偶数日)、中村米吉(Aプロ奇数日) / 尾上右近(Bプロ偶数日)、中村壱太郎(Bプロ奇数日)
亀井六郎:中村福之助
駿河次郎:中村歌之助
静御前:中村壱太郎(Aプロ)、中村米吉(Bプロ)
取材・構成/バイラ歌舞伎部
まんぼう部長……ある日突然、歌舞伎沼に落ちたバイラ歌舞伎部部長。遅咲きゆえ猛スピードで沸点に達し、熱量高く歌舞伎を語る。
ばったり小僧……歌舞伎歴1年。やる気はあるが知識は乏しい新入部員。若いイケメン俳優だけでなく、オーバー40歳の熟年俳優も大好き。