書評家・ライターの江南亜美子が、アラサー女子におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、非現実的人間にふりまわされて。心のありかやその作用など、本質的な問いに立ち返らせてくれる、小説2作をご紹介します。
江南亜美子
文学の力を信じている書評家・ライター。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』。
超高性能AIを搭載したアンドロイドが、人間の男女と三角関係に!そんな突拍子のない設定も、現代英文学界の人気作家の手にかかれば上質なサスペンス&恋愛小説になる。
30歳過ぎのチャーリーは、アパートの上階のミランダに片思い中。遺産で大金を得た彼は、最新アンドロイドのアダムを購入し、ミランダとともに設定することを思いつく。無事に彼女と親密になれたものの、今度はアダムとミランダが体の関係をもったことで問題が勃発し……。
アダムは、瞬時に最適解をもたらす頭脳を有し、詩も読めば、家事にも一生懸命だが、噓をついたり不正を容認したりができない。しかも自意識過剰ぎみ。愛すべきキャラクターだが、空気は一切読まないのだ。「わたしは彼女を愛するようにできているんです」
物語は、秘密を抱えたミランダの魂の救済はどのように可能か、意思と感情を持つアンドロイドに人はどれだけ生存権を認めることができるか、倫理や正義とは何かなど、人間が生きる上での本質的なテーマをめぐって進行する。様々に苦悩するアダムの姿は、人間がいかに複雑な存在かをかえってあぶり出すだろう。
高度な文明が怖くなる傑作小説。
『恋するアダム』
イアン・マキューアン著 村松潔訳
新潮社 2750円
「もう後戻りできない」アンドロイドと人間の差は?
架空の1982年、イギリス。購入した人型アンドロイドと恋人との三角関係に陥った男は、電源を切ろうとするが拒まれて……。生命倫理や愛の問題にユーモラスに切り込んだ、一気読み必至の長編作。
これも気になる!
『コンジュジ』
木崎みつ子著
集英社 1540円
「心底彼の恋人になりたい」ささやかな憧れと成長
奔放な母に逃げられたダメな父と暮らすせれなは、今は亡きミュージシャン・リアンに恋をする。妄想はつらい現実を凌駕してせれなに幸せをもたらすが……。新人デビュー作にして、好評の小説。
イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2021年4月号掲載
【BAILA 4月号はこちらから!】