書評家・ライターの江南亜美子が、アラサー女子におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、秋の夜長をわくわくと過ごさせてくれる小説2作品をご紹介します。
ナビゲーター
江南亜美子
文学の力を信じている書評家・ライター。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』。
いつの世も読者を魅了する光源氏は、在原業平がモデルとされる。業平を描く『伊勢物語』の現代語訳にも取り組んだ川上弘美が、現代の梨子、江戸時代の花魁・春月、平安時代の女房の三者を混然一体にした語り手により、千年超の愛の様相を仔細に描き出したのが、本作だ。
梨子は最愛の夫の浮気を知り、心を閉ざすが、久しぶりに再会した高丘さんに「物語」という魔法を教えてもらう。それは夢を見る力。夢の中で、吉原の廓で花魁となり、死んでもいいと激情に駆られて男と出奔。無情にも連れ帰される。平安の世では、業平の姫君に仕え、彼に魅了されることも。梨子のままで別の女たちの人生を二重写しに体験していく。
「人が人を好くとは、考えてみれば、あやういことです」。恋はどう始まり、変遷するのか。愛と憎悪はなぜ両立するのか。梨子/花魁/女房の私は、高丘さんがその時代時代に姿を変えた男とも繰り返し逢い、胸の高鳴りを覚える。愛の形はさまざまでも、芯に本能のスパークがあればこそ、人は愛を伝える文化を洗練させ、心理分析を深めてきたのだ。
単純ながら奥深い、人を好きになることの不思議を、小説特有の世界観で見せた、秋にぴったりの一冊だ。
『三度目の恋』
川上弘美
中央公論新社 1700円
人を好きになるあやうさを。千年を旅する物語
2歳から大好きだったナーちゃんと結婚した梨子。愛の持続性に疑問を持ったころ、ある人に教えられた「魔法」によって、愛の何たるかを感得していく。『伊勢物語』をモチーフとした優美な恋愛小説。
これも気になる!
『マナーはいらない 小説の書きかた講座』
三浦しをん
集英社 1600円
センスは後天的に獲得せよ。小説家の頭の中、開陳
短編と長編では事前の用意が違う?一人称で自分の容姿を語るには?ユーモアの塩梅とは?人気作家が手の内を惜しげもなく披露する小説の創作術。偏愛対象についてのエッセイとしても読める。
イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2020年12月号掲載
【BAILA 12月号はこちらから!】