濃厚なキャラクターで、テレビドラマでも圧倒的な存在感を見せる歌舞伎俳優。松本幸四郎さんもそんなユニークな輝きを放つ注目の一人。今回は幸四郎さんが歌舞伎のすごさを初心者にもわかりやすく解説。想像をはるかに超えた不思議ワールドへいざ!!
幸四郎さんがナビゲート「ここがすごいよ!! 歌舞伎俳優&演目」
【ありえへん!!】演じた役は700以上!? 恐るべき、歌舞伎俳優の底力
「これまで演じた役は700以上ですね」とサラッと言う幸四郎さん。
いやいや、それ、ひとケタ間違ってません!?
「歌舞伎俳優として平均的です(笑)。今はコロナ禍で形態が変わっていますが、基本的に歌舞伎の興行では、昼の部・夜の部、合わせて7~8本の演目が上演され、役者は演目をいくつかかけもちします。月2本としても1年で24役。みんな子どもの頃からやっているので、必然的にそういう数になるんですね」。
歌舞伎俳優の経験値はまさにケタ違いなのだ!!
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2018年7月大阪松竹座『女殺油地獄』で、河内屋与兵衛を演じる幸四郎さん。凄惨な殺しの場面も美しい。昼の部では『勧進帳』の弁慶を演じていて、その役柄の幅広さにもびっくり
【ほんまやで!】メイクは自分で! お化粧品も自分で吟味します
「普通の俳優さんと違って、歌舞伎の場合、メイクは役者が自分でやりますし、メイク道具や紅なども自分で買いに行ったりします。本番前に顔をするときは、鏡の前でじっとして静寂の時間を過ごすので、心を整えるという意味でも大事な時間ですね」。
ちなみに歌舞伎の代名詞ともいわれる独特の化粧法の「隈取」。
「これは顔の骨格や筋肉に沿って描かれる陰影のことで、表情を強調することによって役柄の特徴がひと目でわかるようにしています。隈取に赤を使うのは善良な役柄のときで、正義漢や熱血漢を表すときにも使います。一方、藍色・黒・茶の隈取は、顔の陰の部分を強調するもので、悪人や鬼、幽霊に使います。観劇の際は参考にしてください」
おしろいを水で溶いた「水おしろい」で白塗りをする幸四郎さん。色っぽい
『車引』の松王丸の隈取は、勇壮でカッコイイ!
【びっくりぽん】家族総出演。振り返れば、そこに父&息子
世襲制の歌舞伎では、親から子へと家の芸が受け継がれていく。幸四郎さんも父は『ラ・マンチャの男』でも知られる松本白鸚さん、息子は大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で話題となった市川染五郎さんという役者一家。家族での共演も少なくない。
「親子の役を本当の親子で演じたり、役柄とダブらせて見ていただくのも歌舞伎ならではの面白さです。染五郎は今17歳で、自分を磨いていく時期。まずは声や体をつくっていくことが課題ですね」
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2018年7月大阪松竹座『勧進帳』で弁慶を勤める幸四郎さん。弁慶は高麗屋にとって大切なお役。白鸚さんは千回以上も演じた。染五郎弁慶も今から楽しみ
【かまへんで!】ネタバレ上等! わかった上で楽しむのが面白い
「たとえば怪談ものの場合、西洋のホラーは、突然バンッとお化けが出て驚かせますが、歌舞伎の場合、『ヒュー、ドロドロドロ~』と効果音があって、『出るよ、出るよ~』とわざわざ教えてくれる(笑)。わかっているからこその面白さを楽しむのが歌舞伎なんですね」
「早替わりで、一人二役を演じるのも歌舞伎ならではの演出ですけれど、これも違う人がやっていると思われたら、面白さは半減してしまいます。7月大阪松竹座の『祇園恋づくし』でも夫婦役を一人で演じて、あたふたするところが面白いわけです。同じ人がやっているというのをネタバレした上でご覧いただくのが歌舞伎のひとつの楽しみ方なんです」
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2015年2月博多座『慙紅葉汗顔見勢 伊達の十役』で、政岡を勤める幸四郎さん。一人十役の孤軍奮闘を楽しむのが歌舞伎なんです
【楽しみや!】新作も続々! ねずみに乗った“ちゅう”乗りも
チャップリンの名作『街の灯』を歌舞伎化したり、三谷幸喜演出の『三谷かぶき』に主演したりと、新作に果敢に挑戦してきた幸四郎さん。
「言葉がわかりやすい新作から歌舞伎に入るのもいいと思います。7月は歌舞伎座で『風の谷のナウシカ』がありますし、松竹座の『浮かれ心中』も井上ひさしさんの小説を歌舞伎にした素敵なお芝居。最後は三味線の『イッツ・ア・スモールワールド』で、ネズミに乗って“ちゅう乗り”ですからね(笑)。初心者の人にもおすすめです」
7月は大阪松竹座が熱く盛り上がること、間違いなし!みんなで劇場へレッツゴー!!
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2015年7月新橋演舞場『阿弖流為』で、阿弖流為を演じる幸四郎さん。自らが企画・主演した劇団☆新感線の『アテルイ』を歌舞伎化した。素敵!
幸四郎さんが4コマ漫画デビュー!?
幸四郎画伯がバイラのために、歌舞伎の魅力満載の4コマ漫画を描き下ろしてくれた!!見れば見るほどじわる、味のあるこのタッチ。超隈取トリオもスーパーくろごも超とぶお岩さんもめっちゃ可愛い!! 幸四郎さん、天才です
ジャケット¥231000・シャツ¥58300/コロネット(カナーリ) デニム¥113300/ヤコブ コーエン 東京ミッドタウン店(ヤコブ コーエン) その他/スタイリスト私物
『七月大歌舞伎』
2022年7月3日(日)~24日(日) 大阪松竹座にて上演
出演/片岡仁左衛門、中村扇雀、中村鴈治郎、片岡孝太郎、松本幸四郎、中村勘九郎、中村七之助ほか
「関西・歌舞伎を愛する会 第三十回」となる本公演には、東西の人気俳優が勢ぞろい。昼の部は『八重桐廓噺 嫗山姥』『浮かれ心中』夜の部は、『堀川波の鼓』『祇園恋づくし』と夏の大阪ににピッタリの演目がずらり。これは必見!!
松本幸四郎
まつもと こうしろう●1973年東京生まれ。歌舞伎俳優。屋号は高麗屋。1979年、三代目松本金太郎として初舞台を踏む。1981年に七代目市川染五郎、2018年に十代目松本幸四郎を襲名。舞台のほか、テレビやCMなど幅広く活躍。
撮影/五十嵐隆裕〈SIGNO〉 楽屋写真/野村佐紀子 ヘア&メイク/林摩規子 スタイリスト/川田真梨子 取材・原文/佐藤裕美 撮影協力/AWABEES ※BAILA2022年8月号掲載