出版の仕事に関わる人は、どんな視点から本を選び、読んでいる? 今回はブックデザイナーの名久井直子さんに、「自分にとってスペシャルな本」を教えてもらった。
ブックデザイナー
名久井直子さん
なくい なおこ●1976年生まれ。美大を卒業後、広告のアートディレクターを経て現職に。小説はもちろん、漫画、絵本、歌集など幅広いジャンルでデザインを手がけている。
(名久井さんが手がけた本)
『オーラの発表会』
綿矢りさ著 集英社 1540円
近年では小説家・綿矢りささんの作品を手がけることも多い。これは華やかさのなかにも、どこか余白を感じさせる表紙が印象的。題字や模様がキラキラと光る加工も。
【ブックデザイナー】が読む本
(とっておきの本)
『The Little Mermaid and Other Fairy Tales』
Hans Christian Andersen著 MinaLima絵 Harper Design
$32.50
(中段左から)『The Secret Garden(秘密の花園)』、『The Beauty and The Beast(美女と野獣)』、『The Won derful Wizard of Oz(オズの魔法使い)』など、世界の名作を集めたラインナップ
文芸作品を中心に、数々の本のデザインをしている名久井さん。特別な一冊としておすすめしてくれたのは、鮮やかな色合いと遊び心、クラシックな雰囲気も感じられる仕掛け絵本。ページを開くと、イラストが飛び出してくる。
細部までこだわった世界にわくわくさせられる
「アンデルセンの童話『The Little Mermaid and Other Fairy Tales』。洋書コーナーが充実している書店で見つけました。映画『ハリー・ポッター』の制作チームに参加しているミナリマというグラフィックデザインユニットが好きで、この本も、彼らが手がけたシリーズ。入り口は好きなデザイナーが作っているから、という感じでしたが、開けば開くほど、物語の世界を、本という物質の外側まで広げようとしているなと、惹きつけられてしまう絵本シリーズですね。あと、この一つひとつをすべてデザインし、印刷・製本しているのを想像すると途方もない気持ちに(笑)。楽しい気分になりたいときに読みますが、わざわざ選ぶというより、本棚の中で見つけたら寄り道のように手に取り、眺めてまた戻す、という感じです」
心のコリがほぐれるとっておきの詩集
職業柄、「日々、多くの文章を読んでいますが、仕事以外のプライベートの時間でいちばん多く触れているのは、詩集かもしれません」とも。その中でも好きなのが写真家・佐内正史さんの詩の本。
「佐内さんの写真は、自然な瞬間が切り抜かれているようで、それだけではない美しさもある気がしていて。文章にも、同じ感想を抱きます。詩って読むたびに感想や好きな作品が変わり、永遠に楽しめるものだと思っているのですが、『人に聞いた』は、なんてことない言葉のつらなりが、どこか遠くに連れていってくれるような気がしますね。読むと心がストレッチされる感覚もあります」
仕事として詩集を作るときに心がけているのは、こんなこと。「密度の濃い言葉の邪魔をせず、その空気感を伝えられたらと思っています」
『人に聞いた』
佐内正史著 ナナロク社 1760円
撮影/kimyonduck イラスト/naohiga 取材・原文/石井絵里 ※BAILA2022年11月号掲載