BAILA11月号の表紙を飾ってくれた榮倉奈々さんにインタビュー。大切なものを愛しながら、自分のことも愛してあげる。年齢を重ね、経験を積み、ライフステージを変えながら榮倉奈々さんが見つけた“心地よい人生の歩み方”とは。
端正なネイビーのニットとホワイトシャツ。愛すべき永遠の定番といえるエッセンシャルなファッションアイテムを、極端に袖を長く、襟は大きくとバランスを変えることで、モードにアップデート。ありふれたもののなかにある新鮮な美しさを探して。ニット¥215600・シャツ¥169400・スカート¥228800・靴¥196900/ザ・ロウ・ジャパン(ザ・ロウ)
あれもこれもと欲張らず、いらないものは潔く手放して大切なものと向き合うことを決めた
「筋トレやピラティスをはじめ、以前の私はわりとストイックに自分の体と向き合っていました。実は最近、それを全部やめたんです」
カメラの前で変わらぬ美しさを披露してくれた榮倉奈々さん。その秘訣を尋ねたとき、返ってきたのが冒頭の言葉。今の彼女は“いかに手放すか”を考え大切にしながら生活を送っているそうだ。
「よくも悪くもまじめで完璧主義。振り返ると、私の中には“こうでなければならない”がたくさんあって。その苦しさに気づいたのが約5年前、一人目の子どもを産んだときだったんです。状況は変わっているのに、それまで築いてきた自分のリズムや生活を手放すことができない。だからこそ“あれもしなきゃ、これもしなきゃ”と頑張っては“なんで、できないんだ”とストレスを抱えたりして」
「そんな経験を踏まえて、二人目の子どもができたときに決めたんです。欲張らず、いらないものは潔く手放して、本当に大切なものと向き合おうって」
今の榮倉さんにとっての“本当に大切なもの”、それは“子どもと過ごす時間”だ。
「ファッションはトレンドより“動ける、洗える”が基準。毎日が慌ただしく過ぎていくので、自分の小さなこだわりを貫くような余裕もない。そして、仕事でも取捨選択を迫られる場面があったりして……。手放したものはたくさんあるけど、そこに迷いはありませんでした。だって、それは“一生”ではなく“今”だけ。10年後、20年後、いつかまた選び手にしてもいいんですから」
手放したようで、手に入れたものもたくさんある。
「トレーニングをやめたら“体づくりのため”だった食事が“自分のため”のものに。一汁三菜で充分に満たされる自分に気づいたり。仕事も手放すことでより一つひとつと丁寧に向き合えるように。今の私は自分の好きなもの、大事なものを選び、大切にできている感じがするんです」
「また、手放すことで未来の楽しみが増えた実感も。たとえば、旦那さんと一緒に映画を観に行って、その帰りにお寿司を食べながら感想を言い合う……。子ども中心の生活の今は難しいけれど、そんな時間を持てる日がまたきっとやってくる。そんな“いつかまた”が増えていくのも悪いことじゃないのかなって」
クラシックな柄を温かみのあるベージュで。チュニックトップ¥140800・パンツ¥140800/メゾン・ディセット(ロゼッタ ゲッティ) 靴¥150700/セルジオ ロッシ カスタマーサービス(セルジオ ロッシ) グローブ¥22000/ビオトープ(エクストリーム カシミア) リング¥31900(ボーニー)・ピアス¥42000(ルメール)/エドストローム オフィス
疲れていること、飽きていること、苦しいこと、自分の負担になっていることを、一度、とりあえずやめてみる
「今日は朝から台所の断捨離をしたんです。気を抜くとものであふれがちな冷蔵庫やパントリーは日頃から整理。以前の冷蔵庫は常にパンパン。必死になって料理した作り置きが詰まっていたのですが今はそれもやめて。その時々、必要なものだけが入るようになりました」
潔く手放すのは日常生活でも同じ。「今さらですが、こんまり(近藤麻理恵)さんの本を読み影響を受けて。今朝も台所に並ぶホームベーカリーやジューサーを眺めながら“一年に一回ほどしか使わないこれは本当に必要なのか?”ずっと考えていました」と笑う。
「“手放す”って簡単に聞こえるけど、いざ実践するとなると勇気が必要なんですよね。そこで私が心がけたのが、疲れていること、飽きていること、したくないことを“一度やめてみる”こと。疲れているなら運動をやめてみる、掃除だってやりたくないなら限界まで汚してみればいいんです(笑)。そこで、続けたいと感じるのか、必要ないと感じるのか、やめたときに答えが見えてくる気がして」
情報やものにあふれている世の中。ボンヤリしていると、自分は何を求め、何をしたいと思っているのか、見えなくなることがある。
「自分の意思に反したことをやっている。それって、気づかぬうちに自分を傷つけてもいるんですよね。だからこそ、何か選択するときは“それでいいの?”と自分自身に問いかける。本当の思いをちゃんと拾い上げる。それは私なりの“自分の愛し方”でもあるんです」
たとえば、甘い/辛い、コンサバ/カジュアル、いろんな要素の中間にあるグレー。生地の表情を生かしてシンプルに仕上げたニットドレスは、ニュートラルな色の印象の先にある着る人の個性を引き立てる。ドレス¥92400・靴¥129800(参考価格)/マックスマーラ ジャパン(スポーツマックス) ピアス¥39380/トムウッド プロジェクト(トムウッド)
その場の感情で白黒ハッキリつけてしまわない。“いったん、保留”の先にきっと愛は見つかるんじゃないかな
「今作も丁寧に向き合うことができた作品のひとつ。コロナ禍での撮影だったので、撮影はゆっくり進み、贅沢な時間を過ごさせてもらったなって」
そう語る作品がAmazon Originalドラマ「モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~」だ。様々な7つの愛の物語をオムニバス形式で描く今作。榮倉さんが主演を務めるエピソード「私が既婚男性と寝て学んだこと」。そこでメガホンを握ったのが『余命1ヶ月の花嫁』や『娚の一生』でも現場をともにした廣木隆一監督。
「初めてご一緒したのは二十歳の頃。最初は怖くてまともに話すこともできなかったのに今では飲み友達に。プライベートで会うことのほうが多いんです」とほほえむ。
14歳でこの世界に飛び込み約20年。「いつの間にか大人になりました」と笑う彼女に、女優の仕事の楽しみについて尋ねるとこんな答えが返ってきた。
「何もわからないままこの仕事を始めてしまったので。正直、女優のお仕事は好きのか嫌いなのか、向いているのか向いていないのか、自分ではよくわからないんです。ただ、今作の廣木組もそうですけど、現場に行けば10年前も一緒に撮影したスタッフさんたちが、今もカメラを持ったり照明機材を持っていたりして。そんな彼らが“元気だったか?”“変わりはないか?”とまるで親戚のように話しかけてくれる……。今まで築いてきた人間関係が現場にあるから、私はきっとこの仕事を続けているんだと思うんです」
たくさんの出会いと愛に支えられてカメラの前に立ち続けている、榮倉さんに最後に質問してみた。「誰かを愛するために、誰かに愛されるために、必要なものってなんだと思いますか?」
「うーん、その答えを出すのは難しいけれど……。私が人間関係を築く上で大事にしてることをひとつ挙げるとしたら“いったん、保留すること”」
「たとえば、“この人苦手だな”って思うことや“なんでそんなことを言うんだろう”と傷つくことがあるとする。本当ならばそこで“嫌い‼”と扉を閉めてしまいたくなるけれど、それをせずに扉を少し開けておく。すると、実は相手には悪意がなかったり、ただの不器用な人であることがわかったりして」
「その時々の感情で物事を決めてしまいがちだけど、大事なのは“白黒つけずに、いったん、保留”。その先にきっと愛は見つかるんじゃないかな」
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「モダンラブ・東京〜さまざまな愛の形〜」
Prime Videoにて10月21日(金)世界同時配信
ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたコラムをもとにドラマを制作。アメリカで大きな話題を呼んだ「モダンラブ」。その舞台を東京に移し新たな7つの愛の物語を描いた「モダンラブ・東京」。「私が既婚男性と寝て学んだこと」で榮倉さんが演じるのはセックレスになり離婚した大学教員加奈。彼女が模索しながら見つけた愛と答えが描かれている。
榮倉奈々
えいくら なな●1988年2月12日生まれ。俳優デビュー後、映画『余命1ヶ月の花嫁』や『図書館戦争』シリーズをはじめ、数々の話題作に出演。近年の主な出演作はドラマ「Nのために」「東京タラレバ娘」「テセウスの船」「オールドルーキー」などがある。
撮影/伊藤彰紀〈aosora〉 ヘア/SHOTARO〈SENSE OF HUMOUR〉 メイク/松井里加〈A.K.A.〉 スタイリスト/影山蓉子〈eight peace〉 取材・原文/石井美輪 ※BAILA2022年11月号掲載