まじめでストイックなイメージそのままに、かつてはピンと張り詰めた空気をまとっていた林 遣都さんから、この日は驚くほど力が抜けていた。「何もない自分」にコンプレックスを抱えていたという過去を振り返り、その訳を教えていただいた。
自分を否定して悩むよりは、受け入れて肯定してあげたい
人の弱い部分に寄り添える人間であり俳優でありたい
ドラマ「初恋の悪魔」では、ちょっと変わり者の刑事を熱演。脚本家の坂元裕二さんが林さんにあて書きしたキャラクターのセリフの中に、とても好きなひと言があったとか。
「3話の決定稿に、準備稿の段階にはなかった『君は人から気持ち悪いと言われたことはないだろ?』というセリフが足されていたんです。同僚に、コンプレックスや弱さを吐露するシーンなんですが、とても強い言葉で、説得力がなければ言えないと思いました。そういったセリフを坂元さんが与えてくださった気がして嬉しかったです。自分自身、人の弱い部分に寄り添える人間であり、俳優でありたいという思いがいつも軸にあるので、コンプレックスをユーモアに変換できるこの作品や役を、大切に演じたいと思いました」
デビュー以来、多くの話題作に出演してきた林さん。順風満帆なキャリアを築いてきたように見えるが、“弱い部分に寄り添える人間でありたい”という思いがあるのは、林さん自身も、弱さや悩みを抱えてきたから。
「怖い仕事だな、という思いがずっとあって。何か資格があるわけでもないですし、プロのライセンスを持っているわけでもない。目に見える商売道具がないので、常に不安があったんです。それに、かなわないなって思う人の作品を見ると落ち込んだりしますしね。かといって僕は映画も人並みの知識ですし、趣味もない。この世界には個性的な人が多いので、何もない自分に思い悩むことが多かったです」
そんな林さんを救ったのは、舞台で共演した先輩の存在だった。
「鈴木浩介さんから言われたんです。『急に奇跡的なお芝居ができるなんてことが起こらないのが演劇の世界。遣都はコツコツ技術を身につけていく俳優でいてね』って。その言葉はすごく大きかったですね。以前は『今日はダメだった』と悔しい思いをすることが多かったけど、『近道せずに毎日お仕事に向き合った結果、これが今の自分のベストなんだ』と思えるようになりました。焦らず、自分を信じて努力を重ねるしかないんだなって。
それに、自分を常に高めようとされている先輩方は、単純にずっとご活躍されていますから。その姿を見ていると希望がわきますし、苦しくても仕事がしたくなります(笑)」
かつてコンプレックスだった“何もない自分”も、“芝居にしか興味がない自分”なんだと考えを切り替えられたことで、楽になったという。その表情は充実感に満ちていて、穏やかだ。
「『うまくいかないな、苦しいな』と思うと、いい方向に向かうように無理するじゃないですか。でも人ってやっぱり、そう簡単に変われないんですよね。年齢を重ねていくと、弱点だと思っていた部分を人柄として受け入れてくれたり、面白がってつきあい続けてくださる方もいる。自分を否定して悩むよりは、思い切って受け入れて肯定してあげたいなと思っています」
30歳を機に俳優として、人間として、大きな転換点を迎えた林さん。目標は、「死ぬまで求められる俳優になること」。お芝居に対する熱意は、これからも変わることはなさそうだ。
ドラマ「初恋の悪魔」
脚本/坂元裕二 出演/林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑ほか
推理マニアで凶悪犯罪愛好家の鹿浜鈴之介(林遣都)は、停職処分中の刑事。総務課の馬淵悠日(仲野太賀)、生活安全課の摘木星砂(松岡茉優)、会計課の小鳥琉夏(柄本佑)という捜査権のない3人とともに、難事件の解明に乗り出すことになる。
俳優
林 遣都
はやし けんと●1990年12月6日生まれ、滋賀県出身。2007年に映画『バッテリー』で主演を務め、俳優デビュー。近年の主な出演作はドラマ「姉ちゃんの恋人」「ドラゴン桜」「愛しい噓〜優しい闇〜」、映画『私をくいとめて』『犬部!』『恋する寄生虫』、舞台『フェードル』『友達』『セールスマンの死』など
シャツ¥63800/アクネ ストゥディオズ アオヤマ(アクネ ストゥディオズ) ニット¥15400/ユハ パンツ¥52800/レインメーカー シューズ/スタイリスト私物
ニット¥46200/エンケル(ヨーク) パンツ¥275 00(ラッピンノット)・シューズ¥10450(オポジット オブ ブルガリティ)/HEMT PR リング¥308 00/ギャラリー・オブ・オーセンティック(エンド) その他/スタイリスト私物
撮影/峠 雄三 ヘア&メイク/主代美樹 スタイリスト/菊池陽之介 取材・原文/松山 梢 ※BAILAhomme vol.2掲載
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