書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、安堂ホセの『ジャクソンひとり』と長島有里枝の『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』をご紹介。
江南亜美子
文学の力を信じている書評家・ライター。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』。
自分はどこから来て、何者なのか。そんな問いに切実に向き合い、ある答えを出していく
偶然着ていたTシャツからQRコードが読まれ、あやしい動画の中の人物と職場で噂されてしまうジャクソン。ブラックミックスの風貌は特徴的であると同時に、多くの日本人に個人の識別を難しくさせる。
その動画がもととなり、容姿や性指向の似た4人の男たちが出会ったとき、自分たちの交換可能性を利用した遊戯的な「復讐」が始まる。「誰が本人役となるか」を決めるのだ。
多様性が尊ばれる社会も、ひと皮むけば、外国人でありゲイである彼らへの差別は歴然とある。その反転をジャクソンたちは一体となって企図するが、彼らのなかにも国籍の違いがあり、同一ではない。
融合したり、個に戻ったり、入れ替わったりしながら、警察や世論やモラルを相手にあざむくジャクソンたちの戦いが、高い熱量で様々に描かれていく。暴力的なシーンも多いが不思議と目が離せず、もっとやれと、けしかけたくなる。グルーヴ感に酔うような読書体験を味わえるのが本書の魅力だ。
「いつの間に自分は力を奪われたのか分からない」
本作でデビューし、芥川賞の候補ともなった新鋭の話題作をぜひ。
『ジャクソンひとり』
安堂ホセ著
河出書房新社 1540円
「実際に生きてるってこと」当事者問題を新鮮な角度で
ブラックミックスのジャクソン、ジェリン、イブキ、エックスはある流出された動画に導かれて知り合い、入れ替わりのゲームを始める……。怒りと痛みに対する繊細な感覚が光る、話題のデビュー作。
これも気になる!
『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』
長島有里枝著
白水社 2530円
「今日こそは大丈夫だろう」母を理解したい娘の葛藤
写真家の著者は母親と協働で新作に挑む。母のお針子の夢、10代からの鬱屈をも内包するテント作りだ。恋人の母とのもうひとつの制作過程も日記形式で記録。個々の家族関係から普遍的物語が立ち上がる。
イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2023年4月号掲載