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三宅香帆が選ぶ「エッセイの楽しさに浸る本」4選【働いていても読みたい本】

三宅香帆が選ぶ「エッセイの楽しさに浸る本」4選【働いていても読みたい本】

文芸評論家の三宅香帆が、バイラ世代におすすめの本をピックアップ! 今回のテーマは「エッセイの楽しさに浸る本」。他人の視点を通して“場所”を眺めることで、住むことや暮らすことの面白さが見えてくる4冊を、三宅さんが解説します。

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三宅香帆

文芸評論家

三宅香帆


みやけ かほ●1994年生まれ。文芸評論家。ヒット作に『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社)など。最新刊『推したちとどう生きるか』(新潮社)が発売中。

【三宅香帆の働いていても読みたい本】エッセイの楽しさに浸る本

米澤穂信『談話室米澤』

『談話室米澤』

『談話室米澤』
米澤穂信著 日本経済新聞出版 1980円

歴史、食べ物、建造物——ともすれば見逃してしまいそうな好奇心の種は、人気ミステリ作家の目にはどう映るのか? デビュー以来様々な媒体で記した選りすぐりのエピソードを集結させた25周年記念エッセイ集。

人の視点を通してその土地の暮らしを想像してみたい

どこに住むか、ということに頭を悩ませたことのない現代女子は少ないのでは。

もちろん生まれてからずっと同じ場所に住んでいる、という方もいるだろうけれど。現代に生きる私たちは、住む場所を自分で決められることが多い。が、この「自分で決められる」というのが案外厄介で、なぜなら職場や学校あるいは家族の希望する場所は自分で決められないことがほとんどだからだ。転職や結婚や出産を経て引っ越しを検討したり、あるいは海外に住むことを考えたりする人もいるだろう。——そんなふうに悩んだとき、私がおすすめなのは、エッセイを読むことだ。

住む場所に悩んでいるのに、読むのはスーモじゃなくてエッセイ?と首を傾げられるかもしれない。いやもちろんスーモも読んでいただいてかまわないのだが! 一方で私はエッセイを読むと、その人が住んでいる土地に思いを馳せてしまう。そして「こんな場所に住んだら、私もこんな生活ができるのかなあ」と妄想する。私にとっては、その試み自体がエッセイを読む面白さのひとつなのだ。

たとえば米澤穂信さんのエッセイ集『談話室米澤』。本書は『黒牢城』や『氷菓』(〈古典部〉シリーズ)で知られる小説家の米澤さんが、日頃考えたことや調べたことについて書いたエッセイを集めた一冊。エッセイを読むよろこびに満ちた本で、私は本書が好きすぎて新刊なのにすでに繰り返し読んでいる。

どんなところが好きかと言えば、米澤さんによる場所の説明のうまさ! たとえば吉祥寺に住んでいたときの井の頭公園の思い出、岐阜に行ったときのクレープの味、鎌倉の東慶寺に行ったときに考えたこと……。米澤さんの手にかかると、土地が魅力的に見えてくる。不思議なものである。目立った特徴がない場所に見えても、実は固有の歴史があり、素敵な食事があり、面白いエピソードに満ちている。そのことを思い出させてくれる傑作エッセイなのだ。

エッセイを読むと、その人の視線から見た土地の面白さを知ることができる。旅行に行ったり物件を探したりする中でも、たしかに私たちはその場の固有性を発見することはできるけれど。でも、自分で発見するより、ときに人の視線を借りたほうが、実は場所の魅力に気づくことがある。私は『談話室米澤』を読んであらためてそのことに気づいた。歴史オタクぎみの自分からすれば、「歴史を知ると世界の面白さが増える」というのが持論なのだが、それは場所についても当てはまるものらしい。

引っ越しを検討するとき、誰もが前向きになるとは限らない。会社や家族の事情で泣く泣く住居の条件を妥協する人もいるかもしれない。実は私も引っ越しを検討していて、この原稿を書いている段階ではまったくどうなるかわからないのだが、しかし物件を探すということの果てしなさをひしひしと噛み締める日々である。この世には間取りを見るのが好きという不思議な人もいるらしいが、残念なことに私はそういう類の人ではない。物件探しの道のりは遠く感じられる。

だけど、そんなときに本書を読んで、「いろんなところに住んで、その土地の文化を知ることって、面白いもんだよな」と前向きな気持ちを取り戻すことができたのは本当なのだ。今回はほかにも、海外に住むことになった人たちのエッセイもあわせて紹介した。住めば都、読めばさらなる都になるかも。住む場所を妄想するのも、また都なのです。

これも読んでほしい!

『大草原の小さな農家』

『大草原の小さな農家』

『大草原の小さな農家』
中谷美紀著 幻冬舎 825円

俳優の中谷美紀さんのエッセイ集。彼女はなんとオーストリアの田舎で、築百三十年の農家をリノベして暮らしているのだ。日本と海外を行き来しながら仕事や家事や健康管理を見事にこなすタフな様子に、きっと働くBAILA読者もパワーをもらえるはず!

『LAフード・ダイアリー』

LAフード・ダイアリー

『LAフード・ダイアリー』
三浦哲哉著 講談社 990円

最近文庫化した、映画研究者の三浦哲哉さんがロサンゼルスに住んだときのエッセイ。タコスやハンバーガーやピザなど普通の食生活からアメリカ文化について考えた珠玉の一冊。アメリカやカナダにいつか住んでみたいなと思うあなたにぜひ読んでほしい。

『ニューヨークの林檎をむいて食べたい』

『ニューヨークの林檎をむいて食べたい』

『ニューヨークの林檎をむいて食べたい』
大橋未歩著 大和書房 1980円

アナウンサーの大橋未歩さんが、ニューヨークに渡って試行錯誤する日々を魅力たっぷりに綴る。パートナーの話や演劇学校の話から、不妊治療や海外で遭遇するタフな出来事に至るまで、現地での試行錯誤が軽やかに語られている。読むとふしぎと元気になる文体。

くま

撮影(べあら)/久々江満 ※BAILA2026年11月号掲載

BAILA編集部

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30代の働く女性のためのメディア「BAILA」。ファッションを中心にメイク、ライフスタイルなど素敵な情報をWEBサイトで日々発信。プリント版は毎月28日頃発売。

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