文芸評論家の三宅香帆が、バイラ世代におすすめの本をピックアップ! 今回のテーマは「SNSとのつきあい方」。「Xを開く回数を少し減らしている」という三宅さん。SNSをのぞくのがしんどいときはどうすればいい? つきあい方を探る作品をご紹介。
【三宅香帆の働いていても読みたい本】SNSとのつきあい方
朱喜哲『バラバラな世界で共に生きる リチャード・ローティの哲学』

『バラバラな世界で共に生きる リチャード・ローティの哲学』
朱喜哲著 NHK出版 1023円
性別も出身も思想も異なる人が共存できるSNSという世界で、他者を敵にしないために。アメリカの哲学者が説いた、それぞれが持つ“正しさ”を認めて会話をすることの重要性とは。哲学者の著者によって再解釈される注目の新書。
SNSに疲れたら読んでほしいアメリカ哲学者の言葉たち
ここ最近、Xを開く回数を、少しだけ減らしてみている。
あんなにXが好きだったのに。諸行無常。というのも、なんだか自分のタイムラインに、これまで以上にゴシップが流れてきているような気がしたからだ。どうやらアルゴリズムが私をゴシップ好きだとみなしているらしい。そんな人間だと思わないでくれとXに向かって叫びたくなるが、まあ正直流れてくると、どうでもいい芸能人同士のもめごとも見てしまうのである。ど、どうでもいいのに! というわけでXを開く回数を少なくしようとしている。代わりにインスタや動画を見てしまっている気がするけれど。
その中で読んだのが、哲学者・朱喜哲さんの『バラバラな世界で共に生きる リチャード・ローティの哲学』。NHKテキスト『100分de名著 リチャード・ローティ「偶然性・アイロニー・連帯」』をもとにした、アメリカの哲学者・ローティの思想を現代に伝える一冊だ。帯に書いてある「〈正しさ〉で殴りあう世の中で、『会話』の可能性を問いなおす」という一文が、SNSを連想せずにいられない。
ローティは述べる。クラブ(私的空間)とバザール(公共空間)で言葉づかいをわける、と。よく知った仲間内でしゃべる言葉と、誰がいるかわからない公的な場で語る言葉は、違うものであるし、どちらも大切なものだと。……これ、大切な話じゃないか。
SNSは、仲間内の人に向けて書いたつもりの言葉が、突然文脈を切り離してものすごい人数の目に触れるようなことがある。そこに私はどうしても疲れてしまう。「まったく知らない他人の日常を知ることができる」ことは楽しい一方でそこにこそ、しんどさを感じることが増えた。私たちはそういうとき、私的なクラブの存在を思い出していいのだ。そう本書は語る。
みんなに伝わらないのなら会話を止めるのではなく。みんなに伝わる言葉でみんなに向けてしゃべり、仲間内で語りたいことは仲間内に向けた言葉づかいを採用する。そうすれば会話は楽しく続いていく。ローティの思想は、現代のSNSに疲れてしまう私たちに響く。
たしかにXで情報を得るより、最近は読んだことのなかった雑誌をふらっと書店で買ってみたり、好きなスタイリストさんのジュエリー動画を見たりするのが楽しい(百々千晴さんの動画が素敵!)。公共にひらかれたXで知らない人の買ったものを見るのも楽しいけれど、動画や雑誌のほうが特定の人に向けた私的空間という感じがして心地いい。そういう気分なのかもしれない。
あとは、旅行中に使った「setlog」というVlogを仲間内でつくるアプリもよかった。友人同士で動画を撮るのだが、2秒だけの動画をつなげ、加工もしないので、手間暇かけずに素敵な思い出づくりになる。写真アルバムよりも気楽なところも今っぽい。友人複数人で旅行に行く方、おすすめです。こういう、友人同士だけが見られるアプリのほうが、今後は誰が見るかわからないSNSよりも流行していくんだろうなあ、とぼんやり感じる。仲のいい友人同士に閉じられた、クラブの言葉のほうが、今はみんな居心地いいのだろう。
そういう意味だと、本は究極の私的空間だ。作者と読者の一対一の語り合い。感想を作者に伝える必要もない。
SNSがしんどくなったときは、雑誌を読んで本を読んで、自衛しようね。約束だ。
これも読んでほしい!
『界隈経済圏 「平成女児」「風呂キャンセル」から「伊能忠敬」「皇居ラン」まで』

『界隈経済圏 「平成女児」「風呂キャンセル」から「伊能忠敬」「皇居ラン」まで』
牧口松二著 日本経済新聞出版 1100円
SNSで広がる「〇〇界隈」という言葉を経済圏として捉えた一冊。マーケティング実務に長年携わってきた著者が、界隈の形成メカニズム、従来のコミュニティとの違い、商品が「界隈の必須アイテム」になる流れ、そして界隈とは何か、最新事例とともに解説する。
『ソーシャルメディア・プリズム SNSはなぜヒトを過激にするのか?』

『ソーシャルメディア・プリズム SNSはなぜヒトを過激にするのか?』
クリス・ベイル著 松井信彦訳 みすず書房 3740円
SNSで同じ意見が共鳴し合う「エコーチェンバー」が分極化を生むという定説に、計算社会科学の手法で反論した人文書。対立勢力の投稿に触れさせても融和は生まれず、むしろ反感が増してしまうのはなぜなのか。SNSが人を過激にする本当の仕組みを解き明かす。
『残されたつぶやき』

『残されたつぶやき』
山本文緒著 KADOKAWA 858円
2021年に急逝した小説家・山本文緒のエッセイ集。2008年~’21年までの13年間に、SNSでつぶやいた言葉や日記、新聞・雑誌に寄稿した言葉が、まるごと収録されている。作家によるエッセイ未満の「生の言葉」が残る、というSNSの魅力を伝える一冊。

撮影(くま)/久々江満 ※BAILA2026年8・9月合併号掲載

BAILA編集部
30代の働く女性のためのメディア「BAILA」。ファッションを中心にメイク、ライフスタイルなど素敵な情報をWEBサイトで日々発信。プリント版は毎月28日頃発売。















































































