文芸評論家の三宅香帆が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回のテーマは「家族を考える本」。「家族について客観的に考えたいときは小説を読むのがいい」という三宅さん。家族に対する価値観が多様化する今、気になる4冊とは?
【三宅香帆の働いていても読みたい本】家族を考える本
瀬尾まいこ『ありか』

『ありか』
瀬尾まいこ著 水鈴社 1980円
シングルマザーの美空は、幼い娘・ひかりとともに暮らしている。母娘二人を気にかけて支えてくれるのは、別れた夫の弟・颯斗。血のつながりとは?家族とは? さらに「人がともに生きていくこと」にも思いをはせることができる小説。
大人だから、あらためて考えたい。「家族って、なんだろう?」
いやもう気がついたらあっという間に春。新年度を迎えるにあたり、新しい生活について考えたくなる人も多いはず。そんな中で、今月のテーマは“家族を考える”。生まれ育った家族について思うこと。結婚とはなにか?子どもを産み、育てるとは? 私たち30代って、家族について考える機会が多いような気がします。かくいう私は今、夫氏と二人暮らしの生活を送っています。誰かと一緒に暮らすのは楽しいのと同時に、試行錯誤の連続でもあるなと感じています。いまだにお互いの違いに驚いたり、ケンカもします。相手に歩み寄るのが大事だな、とわかっていても難しい。
そして家族って、「育ってきた家族」と「結婚した人or産んだ子ども」だけの人間関係とは限らない。たとえばシェアハウスや会社の寮などに住んでいる人は、シェアメイトや寮の仲間たちも大事な家族ですし。犬や猫といったペットも、ファミリーの一員。そんな中で自分の家族を客観視することは意外と難しいですよね。そんなときにおすすめなのが、家族について書かれた小説を読むこと。「こんな家庭があるのか」「これもまた、家族なのだな」と、自分の中にある思い込みやこだわりが解き放たれたり、想像を超えた世界を知ったり……。家族の小説から視野を広げてもらえることは多いです。特に推したいのが、瀬尾まいこさんの『ありか』です。
主人公の美空は20代後半のシングルマザーー。浮気性の夫と離婚してからは、働きながら幼い娘・ひかりを育てています。ひかりとのなにげないやり取りを通じて、家族や親子の幸せを感じている美空。と同時に美空は、自分と母親の関係に対しては圧や抵抗を感じることがあるんです。母親は、彼女に対して「育ててやった」などと恩着せがましい表現をすることがあり、、読者としても「……この人、もしかして毒親?」と感じられてしまう部分が。そんな中で、美空たち母娘を優しくサポートしてくれるのが、元夫の弟・颯斗。血のつながりがある母親に悩みつつ、血縁関係ではない颯斗の存在に助けられる――。この小説を読んでいると、「世の中、いい人だけではないけれども、悪い人だけでもない」と思わせてくれます。自分の生まれ育った環境に葛藤を覚えている人、今、家族に対して「難しいなあ」という気持ちを抱えている人が読むと、救いになる一冊です。
また美空の娘・ひかりの存在も、すごく丁寧に描かれています。私は自分の友人の子どもの話を聞いていると「すくすく育っていってね~」と祈るような気持ちになるのですが、ひかりのことも、まさにそんな感覚で見守ってしまいました。美空とママ友とのシーンも、女友達との新しい関係性が丁寧に描かれていて、読みごたえがあります。
作者の瀬尾まいこさんは、今は専業の作家さんですが、もともとは中学校の教員をされていた方。家族や親子関係についての著作が多く、ほんわかとしたイメージもありますが、実はシビアな現実を描くのが得意な作家さんだと思っています。本著でも、子育ての厳しさや、親が子どもを育てるのは“甘いことじゃない”部分も、きっちりと描かれている。ファンタジーに終わらない、厳しい世界も表現できるからこそ、読み手の家族観に新鮮な希望を与えてくれるのではないでしょうか。ぜひ手に取ってみてください!
これも読んでほしい!
湊かなえ『暁星』

『暁星』
湊かなえ著
双葉社 1980円
式典の最中に殺された文部科学大臣で作家の男。彼を刺したのは、新興宗教に恨みを持つ人物だった――。「宗教2世を題材のひとつにした物語。家族へモヤモヤを抱える人に読んでほしい。小説としては凝った構成になっていて、湊さんの引き出しの多さに驚かされます」
村田沙耶香『殺人出産』

『殺人出産』
村田沙耶香著
講談社 715円
「10人産んだら1人殺せる」近未来の日本が舞台。主人公・育子の姉も10人目の出産が近づいているが――。「バイラ世代は、出産、子育ても含めて家族の形に向き合う機会が多い年代。ぜひこのSFも読んでみてください。表題作ほか、3作を収録した短編集です」
今村夏子『星の子』

『星の子』
今村夏子著
朝日新聞出版 1540円
中学3年生のちひろ。病弱だった彼女のために、両親は「あやしい宗教」にのめり込み、信仰は家族をゆがめていくことに。「実社会と家庭とのギャップを描き出す話。また私の場合、この作品で初めて触れた世界も多かったです。今村さんの文体にも惹き込まれました」

撮影(くま)/久々江満 取材・原文/石井絵里 ※BAILA2026年5月号掲載

BAILA編集部
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