小説やエッセイ、コミックまで、現代作家の翻訳本が続々刊行されている台湾文学。そんな今アツい台湾の作品について、文芸評論家・三宅香帆さんと誠品生活日本橋 書店員・村田朋美さんが語ってくれました。

文芸評論家
三宅香帆さん
1994年生まれ。文芸評論、社会批評などの分野で幅広く活動している。近著『「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか』(新潮社)がある。

誠品生活日本橋 書店員
村田朋美さん
2022年〜2023年まで台湾在住。誠品書店では、中文書を中心に、台湾関連書籍、雑誌、コミックを担当。本を通じて台湾の魅力を広める活動を行う。
ノスタルジーと食欲を誘う、美しき台湾ブックスの世界

対談した場所は…
誠品生活日本橋(誠品書店)
DATA
東京都中央区日本橋室町3の2の1 COREDO室町テラス 2F
☎03(6225)2871
営業日:平日11時~20時 土・日曜、祝日10時~20時
定休日:COREDO室町テラスの定休日に準ずる
https://www.eslitespectrum.jp/
小説、エッセイ、コミックも! 現代作家の翻訳本が続々刊行
三宅 台湾の作品を紹介するイベントの増加や、楊双子(ようふたご)さんの活躍を目にして、「台湾文学が今アツいのでは?」と感じるようになり、昨年から本格的に読むようになりました。
村田 たしかに、この数年で注目度がグッと高まりましたよね。現代作家の作品が次々と日本語に翻訳されるようになり、三宅さんのおっしゃるとおり、日米で翻訳大賞を受賞した楊双子さんの『台湾漫遊鉄道のふたり』(❶※三浦裕子訳 第10回日本翻訳大賞受賞&リン・キン訳 第75回全米図書賞 翻訳文学部門受賞)や『四維街一号に暮らす五人』(❷)といった作品の登場も、盛り上がりを後押ししていると思います。書店でも幅広い層の方が手に取っていかれます。
三宅 食べ物の描写がすごく素敵な作品なので、台湾文学がはじめてというバイラ読者にも、ぜひおすすめしたい一冊ですよね。

『四維街一号に暮らす五人』 の原書と日本語版の 装丁の違いに注目!
村田 そういえば、楊双子さんは『綺譚花物語』(❸)という百合マンガの原作も手がけていて、それも魅力的な作品なんですよ。
三宅 知らなかったです! 気になる。マンガといえば、高妍(ガオ・イェン)さんの『隙間』(❹)が本当に素晴らしかった。台湾と沖縄の歴史というデリケートなテーマを扱っているけど、美しい絵のおかげで、スッと心に入ってきて学びにもなりました。小説でも映画でもなく、マンガだからこそ伝わる表現の力を感じましたね。ほかにおすすめのマンガはありますか?
村田 人気なのは『守娘』(❺)です。台湾の怪奇伝説をモチーフにしていて、高妍さんの作品とはまた違うタッチの美しい絵も魅力です。
三宅 中村明日美子さんの絵を思い出させる雰囲気。今すぐ読みたいです。マンガは台湾作品への入り口として最適ですが、文学に踏み込むなら、早川書房が刊行する台湾文学の精選シリーズ《台湾文学コレクション》の第1弾『台湾文学コレクション1 近未来短編集』(❻)がおすすめ。選りすぐりの作家が集められていて、アンソロジーなら自分好みの一冊や作家も見つけやすいですし。
村田 間違いないですね。ちなみに、三宅さんが最初に触れた台湾作品は何ですか?
三宅 『ピアノを尋ねて』です(❼)。音楽が好きでピアノ経験もあったので、グレン・グールドのようなアーティストが登場する点が興味深かったです。これは台湾の作品全般に感じることですが、“どこか懐かしい感じ”にも惹かれました。
村田 ノスタルジーを感じるというのはよくわかります。

三宅 あと、台湾の作品は、村上春樹作品のように、日常の中にふと不思議な世界が現れる、マジックリアリズム的な要素も感じるんですよね。
村田 すごくわかります。台湾でも村上作品が大人気で、今活躍している作家の中には影響を受けている方も少なくないようです。それこそ私が初めて読んだ台湾を代表する作家・呉明益(ご めいえき)さんの作品も、特に村上イズムを感じますね。
三宅 では村上春樹ファンの方は、呉明益さんから台湾文学デビューをするのもいいですね。村田さんが初めて触れた呉明益さんの作品とは?
村田 『歩道橋の魔術師』(❽)ですね。現在は、若者の街として人気の西門エリアにかつて存在した「中華商場」というショッピングモールを舞台に、そこで暮らす人々の姿が描かれています。今はもう取り壊されてないのですが、台湾を旅した際には、実際にその跡地周辺を歩いてみるのもおすすめです。
三宅 それは楽しそう!
村田 ですよね。ちなみに台湾は食文化が本当に豊か。だから、楊双子さんの作品のように食の描写が素晴らしい小説やエッセイもとても多い! たとえば『オールド台湾食卓記』(❾)や『味の台湾』(➓)、『台湾レトロ氷菓店 あの頃の甘味と人びとをめぐる旅』(⓫)など。旅に出る前に読んでおけば、作中に登場する料理を実際に味わったり、描かれたローカル店を訪れたりすることもできます。
三宅 素敵。本で出合った世界と旅がつながって、より深く台湾を楽しめますね。3作品とも写真やイラストつきで、食欲がそそられます。

村田さんが大切にしている、物語の舞台の写真を使った希少な装丁の呉明益著『歩道橋の魔術師』
台湾旅で訪れたい盛り上がる独立系書店
村田 誠品書店は、台湾に造詣の深い方々が手がけた台湾関連書籍の展開にも力を入れていて、イチ押しは『台湾文学の中心にあるもの』(赤松美和子著、イースト・プレス刊)。日本語で読める約50作品を、物語の背景にある歴史や社会問題なども含めて紹介していて、何を読もうか迷っている人にぴったりの一冊です。
三宅 名著ですよね。私は同性愛を扱った小説『亡霊の地』(陳思宏(チンシコウ)著、三須祐介訳、早川書房刊)を読んだあとに手に取りましたが、「そういうことか」と納得できる部分が多く、読んで本当によかったです。
村田 理解が深まりますよね。また、最近の台湾では独立系書店が元気で、そうした書店を紹介したZINEもおすすめです。私自身も台湾に行くとよく本屋巡りをするのですが、レトロな建物が並ぶ迪化街にある「郭怡美書店(グォーイーメイシューディエン)」と、観光エリアの中山区にある、アート系の書籍やZINEがそろう「朋丁 ponding」は特におすすめです。
三宅 どちらも気になります。本を携えて台湾に行きたくなりました。
村田 ぜひ訪れてみてください!

誠品書店は原書や日本の作品の中文訳も豊富にラインナップ!

日本の台湾ラバーの想いが詰まったガイド本やZINEも誠品書店には大充実!
撮影/坂田幸一(物)、wacci 取材・原文/海渡理恵 編集/久保田梓美 ※BAILA2022年12月号掲載

BAILA編集部
30代の働く女性のためのメディア「BAILA」。ファッションを中心にメイク、ライフスタイルなど素敵な情報をWEBサイトで日々発信。プリント版は毎月28日頃発売。

























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