アジアのなかでも「セルフラブ」にあふれた国・タイ。そんなタイの人々の真摯な生き様が描かれるタイ文学は、きっと私たちに刺激を与えてくれるはず! タイ文学に精通する翻訳家・福冨 渉さんにナビゲートしていただきます。
翻訳家・福冨 渉さんが案内!セルフラブの姿勢に刺激を受ける、 真摯なタイ文学にハマる

翻訳家
福冨 渉さん
1986年生まれ。タイ文学研究者であり、タイ語の翻訳・通訳者、講師としても活躍。訳書には『新しい目の旅立ち』(プラープダー・ユン著、ゲンロン)などがある。
30代の作家が続々誕生中! ZINEで感じるタイ文学の勢い
僕がタイの本を初めて読んだのは2005年。日本でも人気のキャラクター・マムアンちゃんの生みの親、ウィスット・ポンニミット(愛称・タムくん)の漫画『ヒーシーイット』シリーズ(❶)でした。シュールでありながらも泣ける物語に衝撃を受けたことを覚えています。その後、当時カルチャーアイコンとして注目を集めていたプラープダー・ユンの短編集『鏡の中を数える』に出合い、タイの文化により深く惹かれていきました。
実は、世界で最もタイの小説が翻訳出版されているのは日本です。現在、その数は約400作品。翻訳家が少ないため、韓国や台湾の作品ほど多くはないですが、タイ文学を語る上で欠かせない1970年代生まれの作家、先ほど挙げたプラープダー・ユンたちの作品(❷〜❹)には、日本語で触れることができます。近年は’80〜’90年代生まれの作家の活躍も目覚ましい! こうした作家の小説やエッセイなどを読むと、タイの人々が真摯に生きていることが伝わってきます。自分を大切にしながらも社会の一員としての意識を持ち、日常の出来事に疑問を抱く姿が印象的です。重いテーマが描かれることもありますが、悲観的になることなく、必ずユーモアや希望が添えられているので、気になる作品からぜひ手に取ってみてください。残念ながら日本の出版社から刊行されている作品はとても少ないですが、毎年発行の現代タイ文学紹介ZINE『はじめてのタイ文学』(❺)では、新世代作家の作品を読むことができます。特におすすめは、2022年版に載っている、1992年生まれの女性作家でアクティビストでもあるルークケーオ・チョーティロットの話題作『Black Cherry』から厳選した3編。女性が欲望を表すだけで非難されるタイ社会を背景に、日常で抱く悲しみや怒りを洒脱な言葉で紡いだ、とても面白い作品です。
さらに、BL作品に関心のある方には、ドラマ化もされた小説『The Miracle of Teddy Bear』(❻)もおすすめ。ぜひこちらもチェックしてみてください。
最後に、タイでは2010年の反政府デモをきっかけに独立系書店が盛り上がり、2020年のデモ以降は若者の読書人口が増えています。バンコクを訪れる際には、「SPACE BAR ZINE」や「Fathom Bookspace」をのぞいてみてください。タイ国内外の作家による作品(❽)がそろっており、タイ語が読めなくても楽しめる空間ですよ。
タイの国民的キャラ“マムアンちゃん”の生みの親、漫画家・タムくんの原点!

❶『ヒーシーイット オレンジ』 ウィスット・ポンニミット著/ナナロク社
ショート17編とイラストエッセイ17編。
日本語で読める! タイ文学を代表する作家の作品

❷『新しい目の旅立ち』 プラープダー・ユン著、福冨渉訳/ゲンロン
内なる旅に出た記録。

❸『プラータナー 憑依のポートレート』 ウティット・ヘーマムーン著 福冨渉訳/河出書房新社
タイの現代史と、その中で生きる芸術家の姿を描く。

❹『絶縁』 ウィワット・ルートウィワットウォンサー著他 福冨渉訳他/小学館
村田沙耶香ほかアジアの作家9名によるアンソロジー『絶縁』に収録の「燃える」は、タイ人作家による民主化運動のかたわらで生きる者の物語。
現代文学作家の作品を翻訳! 福冨渉さんが毎年発行するZINEが面白い!

❺福冨さんが2015年から定期発行している、タイ現代文学の作家を紹介するZINE「はじめてのタイ文学」。福冨さんの公式サイト(https://shofukutomi.base.shop/)から一部購入可能。
盛り上がるBLドラマ&映画を小説で楽しめる!

❻『The Miracle of Teddy Bear 上・下』 Prapt著、福冨渉訳/U-NEXT
ドラマ化もされたBL小説。
クラウドファンディングで出版!“ボーイ&ボーイ”グラフィックノベルが素晴らしい!

❼『Pointillism』 Koong著、(TT)press訳
イラストレーターKoongのグラフィックノベル日本語版。仲よしカップルの日常を描いた作品で、(TT)pressが出版。
❽気鋭の出版社が手がけるフェミニズム文学

タイの若者に大人気!
若手女性作家を中心に新しい才能を次々と紹介し、10代〜30代の読者に支持を集めている、新進気鋭の出版社「P.S.publishing」の書籍。刊行作品の多くは、女性や性的マイノリティの人々が抱える悩みや葛藤を繊細に描き出している。洒落た装丁と、持ち運びしやすいハンディサイズも人気を後押し。作品によっては英語版も。

独立系書店で手に入る眺めるだけで楽しい一冊
日本でも個展を開催している、タイで人気のアーティスト、juli baker&summerのアートブック『everywhere girl』。資本主義社会や女性としての生き方について、美しい絵とともに綴っている。
今行きたい! タイ本の躍動を感じられる場
【東京・東中野】platform3
「loneliness books」の店主と出版ユニット「(TT)press」がタッグを組んだ独立系書店。アジアを中心に世界各地から集められた書籍やZINEが並び、クィアや社会、アートなどテーマは様々。一角にはタイの書籍やZINEだけを集めた棚もあり、『はじめてのタイ文学』もある。定期開催している本のイベントも要チェック!

店主がセレクトしたタイ発のZINEも豊富にラインナップ


DATA
東京都中野区東中野1の56の5401号室
営業:14時~22時(土・日曜、祝日12時~22時)
不定休
Instagram:@plat_form3
撮影/坂田幸一(物)、wacci 取材・原文/海渡理恵 編集/久保田梓美 ※BAILA2022年12月号掲載

BAILA編集部
30代の働く女性のためのメディア「BAILA」。ファッションを中心にメイク、ライフスタイルなど素敵な情報をWEBサイトで日々発信。プリント版は毎月28日頃発売。

























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