読書の秋、新しい読書体験をしてみたいなら、今人気の韓国文学はいかが？ 韓日翻訳家・清水知佐子さんがおすすめする、韓国女性作家の作品をご紹介。

キム・ソヨン著　姜信子監訳　奥歯翻訳委員会訳　
かたばみ書房　￥2420
「〈わたしは母がずっと嫌いだった。〉から始まる、詩人キム・ソヨンさんの散文集。複雑な関係だった母が認知症になり向き合う中で、繊細に変化していく心模様や、詩を書く喜びが綴られています。理屈ではなく、心で読んでいただけたら。普段食いしばっている奥歯をゆるめる体験ができるはず」（清水さん、以下同）

ハン・ガン著　きむ ふな訳
評論社　￥1650
「アジア人女性初のノーベル文学賞を受賞した作家ハン・ガンさん。本作は大人のための童話で、予測できないところで涙を流す子どもと、色とりどりの涙を集める男性が旅に出るところから物語が始まります。灰色は噓で流す涙、ピンクは嬉しさの涙……自分の涙は一体何色？　感情と向き合うきっかけになる作品です」

チョン・ジヘ著　原田里美訳
葉々社　￥2200　
「たった一人のために本を処方する『私的な書店』の店主が、自分に合ったサイズで好きを仕事にするまでの10年余りの奮闘を綴ったエッセイ集。不要なものを削ぎ落とし、本質的な喜びに集中する姿勢に刺激を受けるはず。日本の本屋の話も登場し、親しみやすい一冊です。パジュにある書店にもぜひ足を運んでみて」

ペク・スリン著　カン・バンファ訳
書肆侃侃房　￥2200
「1960年代から、失業問題や外貨不足の解消策として韓国から西ドイツへ派遣された看護師の歴史を背景に、ソウルで暮らす30代の主人公がドイツでの幼少期を振り返る長編小説。孤独や苦しみと向き合い、癒されていく姿が洗練された文体で書かれ、過去と現在を行き来する構成も魅力的。読後に深い余韻が残ります」

パク・ソルメ著　斎藤真理子訳
河出書房新社 ￥2640
「冬眠が人間の治療法として存在する未来を舞台に、人々が互いに支え合いながら自分を癒す姿を描くケアの物語。疲弊して冬眠する人と、それを見守るガイド、さらにガイドを見守る影犬の関係が印象的です。冬眠で自分を取り戻す人を見ると、自分も試したくなるかも。文章も抑制が効いていて美しく惹き込まれます」

イ・スラ著　清水知佐子訳
CEメディアハウス ￥1870
「就職難もあり家庭を築くことに躊躇してしまう今の韓国社会で、1992年生まれの著者は自ら稼いで出版社を立ち上げ、親を雇用。MZ世代が憧れる、スタイリッシュで自立した生き方を体現する“家女長”の日々を半自伝的に描いています。ホームコメディのような軽快さがあり、登場人物が固定観念を覆す様は痛快です」

クァク・ミンジ著　清水知佐子訳
亜紀書房　￥1760
「『ビホンセ（ビヨンセと「非婚の世の中」をかけた造語）』というポッドキャスト番組で注目を集めた放送作家のエッセイ集。推し活や保護犬活動など、非婚ライフの日常や、非婚を宣言したものの悩み迷う姿は共感の嵐。結婚しても／しなくても、自分の生き方は自分で選び決めればいい。そう最後に思わせてくれる一冊です」

スシンジ著　渡辺麻土香訳
玄光社　￥1980
「ドラマ化もされた漫画。“ミョヌラギ”とは、嫁が義実家から“よい嫁”と思われたいと必死になる期間のこと。主人公のサリは、家父長制が色濃く残る義実家での役割にモヤモヤしながらも巻き込まれてしまいます。同じ経験があるなら、夫の前にそっとこの本を置いてみても。読後に誰かと話し合いたくなる作品です」

撮影／坂田幸一（物）、wacci　取材・原文／海渡理恵　編集／久保田梓美 　※BAILA2022年12月号掲載