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三宅香帆が選ぶ「妊娠・出産を考える本」4選【働いていても読みたい本】

三宅香帆が選ぶ「妊娠・出産を考える本」4選【働いていても読みたい本】

文芸評論家の三宅香帆が、バイラ世代におすすめの本をピックアップ! 今回のテーマは「妊娠・出産を考える本」。人生の大きなターニングポイントについて深く考えるときに手に取りたい4冊を、三宅さんが解説します。

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三宅香帆

文芸評論家

三宅香帆


みやけ かほ●1994年生まれ。文芸評論家。ヒット作に『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社)など。最新刊『ニュー日本文学史』(淡交社)が発売中。

【三宅香帆の働いていても読みたい本】妊娠・出産を考える本

綿矢りさ『グレタ・ニンプ』

『グレタ・ニンプ』

『グレタ・ニンプ』
綿矢りさ著 小学館 1870円

不妊治療をやめて、妻の由依と二人で生きていこうと思っていた俊貴。その矢先に由依の妊娠がわかる。だが彼女の変容ぶりに俊貴は驚きを隠せず——。妊娠・出産を男性を主人公にして描いた小説。表題作ほか1編を収録。

妻の変化を夫目線から描く、斬新な妊娠・出産小説

あっという間に季節は夏に! 今年も猛暑が続くのだろうか。心地よい場所で本を読み、知識や視野も広げていく時期にしたいですね。今月は、妊娠や出産について捉え方を広げてくれる作品を選んでみました。人間の心と体、社会とのつながりについて……。30代のバイラ世代は、子どもがいてもいなくても、妊娠や出産について考える機会は多いのではないでしょうか。

綿矢りささんの『グレタ・ニンプ』は、そんな妊娠・出産を夫(男性)側の視点から追った小説。まずはこの“男性目線”というアイディアがすごい! 妊娠・出産に関する小説やエッセイは、女性目線である、という何となくの思い込みに、新しい風を吹き込んでくれたような気がします。主人公の俊貴は、控えめで可愛らしいタイプの由依と恋愛をし、結婚したと思っていたところ——。妊娠を機に、由依のキャラが豹変! この小説、カバーのイラストも秀逸なんです。陽性反応が出たその日に、自宅で俊貴の帰りを迎えた由依は、妊娠検査薬を頭につけて“ツノ”のようなビジュアルに。以来、由依はこのイラストみたいな姿へと、どんどん変わっていくんです。同時に、話し言葉も態度も、前時代がかったヤンキーっぽい感じに。夫が思い込んでいた“清楚な女性”とは真逆の方向へと進化する妻。戸惑いながらもその姿を見せられる夫。この描写が面白いんです。

さらにこの小説の読みどころは、物語の中で、文字のサイズが大きくなったり、小さくなったりするところ。雑誌で強調したい文字を大きく目立たせるデザインはよくありますが、小説では珍しいのでは? 俊貴の心の葛藤、由依の(俊貴の目からすれば)理解不明な言動……。次から次へと異なる大きさの文字や書体が、読み手の目に飛び込んできます。夫の俊貴のキャラクターも、「こういう人、いそうだな〜」と。基本的には善人だし妻を愛しているけれども、妄想しがちでミーハーな部分も。二人が住むのは神奈川県にある、武蔵小杉という住宅地ですが、いつかは都内でおしゃれに暮らしたい気持ちもあったりして。今どきっぽいリアルな感じなんですよね。そんな夫から見たら、妊娠してどんどん豪快になり、おしゃれスポットへ出かけるよりも、地元で居心地のいい場所をつくろうとする妻は、タイトルどおりに“グレた!?”と感じられるのではないだろうか。

終始ファンキーで、楽しく読めてしまう物語だけど、一方でこのお話は、30代以降に結婚をした夫婦の、不妊治療の話でもあって。由依の、4年間という長期間にわたるクリニック通いの心境なども描かれています。不妊治療の最中にいる人が読んでも共感する部分はあるだろうし、通院中の友人がいてもわかることがあるかもしれません。まさに今、自分が妊娠している、もしくは親しい友人や姉妹が妊娠している、という人が読んでも心に響くものがあるはず。また義実家とのつきあい、女性が妊娠・出産することと今の社会について、求められる妊婦や母親像などへの問題提起もたくさん。妊娠と出産にはセンシティブな側面がたくさんあり、“誰も傷つかずに話し合う”ことはとても難しいと思う。ポップな切り口で描くことができる、綿矢さんの筆の力はすごいなと思いました。

今回は、妊娠・出産を切り口に紹介しましたが、小説としても抜群にレベルが高い。「しばらく読書をしてないけれど読みごたえのある作品はないかな?」という人も、お手に取ってみてください。

これも読んでほしい!

『ミステリ作家、母になる』

『ミステリ作家、母になる』

『ミステリ作家、母になる』
辻堂ゆめ著 小学館 1815円

東大卒でミステリ作家の著者と、データサイエンティストの夫が織りなす育児エッセイ。「令和を生きる理系夫婦のロジカルな子育ては目からウロコ。3人の子どもに恵まれるも『作家業が忙しいのにどうなるの?』と。職種問わず全女性の心に響く作品だと思います」

『わっしょい!妊婦』

わっしょい!妊婦

『わっしょい!妊婦』
小野美由紀著 CEメディアハウス 1870円

”自分をママというタイプではない”と思う著者が、30代半ばで経験した妊娠・出産について。「超初期から妊娠の過程を追っていくので、産院の選び方など具体的な参考になる部分も。小野さんの軽快な文体を味わえるとともに、妊娠・出産の解像度が上がるはず」

『きみは赤ちゃん』

『きみは赤ちゃん』

『きみは赤ちゃん』
川上未映子著 文藝春秋 1430円

2014年に発表され、今でも読み継がれている、川上未映子さんの妊娠・出産・育児エッセイ。「夫とのパートナシップ、妊娠中や産後の仕事との両立、自身のメンタルケアなど、今も学びになる話がたくさん。働きながら子育てをすることについて考えさせられます」

くま

撮影(くま)/久々江満 取材・原文/石井絵里 ※BAILA2026年7月号掲載

BAILA編集部

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30代の働く女性のためのメディア「BAILA」。ファッションを中心にメイク、ライフスタイルなど素敵な情報をWEBサイトで日々発信。プリント版は毎月28日頃発売。

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