テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第30回目は「GX(グリーントランスフォーメーション)」について大江さんと一緒に深堀りします。
今月のKeyword【GX(グリーントランスフォーメーション)】
ぐりーんとらんすふぉーめーしょん▶脱炭素の取り組みにより経済成長もできるような社会構造に変えていこうという考え方。気候変動問題を背景に世界で脱炭素社会の実現に向けた動きが加速するなか、日本は2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言しており、環境と経済の好循環が求められている。
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2020年10月
菅首相が「2050年カーボンニュートラル」を宣言
菅首相は所信表明演説で、日本は2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言。翌年4月には、2030年度の温室効果ガス目標を2013年度比46%削減と表明
2022年6月
政府が新しい資本主義の実行計画にGXを盛り込む
新しい資本主義に向けた重点投資分野にGXを掲げ、今後10年間に官民で連携して150兆円規模の投資を実現すると提言。そのために政府は「GX経済移行債」を創設
2022年8月
岸田首相がGX実行会議で原発政策の転換検討を表明
岸田首相は、原発の新増設を想定していないというこれまでの政策方針を転換し、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代型革新炉の開発・建設の検討を指示した
バイラ読者89人にアンケート
調査8/26〜8/29の期間で実施。
Q GX(グリーントランスフォーメーション)という言葉の意味を知っていますか?
認知度は低め。約6割が「聞いたことがない」と回答。ただ、気候変動に関するニュースに関心がある人は8割以上。「異常気象が増え、環境対策に本気で取り組まなければならないと肌で感じる」といった声が多数
Oeʼs eyes
GXという言葉ができたのも、ニュースで取り上げるようになったのも最近のことですので、まだ耳にしたことがない人が多いのは仕方がないことだと思います。ただ読者の皆さんは気候変動の問題や脱炭素の取り組みに興味をお持ちの方が多いので、中身を知るとよくご存じの話題ではないでしょうか
Q あなたは、日常生活で気候変動対策を意識した取り組みを何かしていますか?
約3分の2が「はい」と回答。具体的には、「エコバッグ・エコボトルを持ち歩く」「ゴミの分別の徹底」「食材を捨てない」「詰め替え商品を購入する」「不要なものは買わない」「太陽光発電を利用」「節電」といった声が
Oeʼs eyes
数字の結果からも、実際に取り組んでいる内容からも、皆さんが「持続可能かどうか」ということを意識して生活なさっているんだなと感じました。これから先、まだまだ読者の皆さんの人生が長いなかで、より快適に過ごすためには、今の自分たちのアクションが大事だとわかっていらっしゃるんだと思います
Q 多少割高でも、気候変動対策を意識した製品やサービスを購入したいですか?
半数以上が「はい」と回答。1年以内に購入したアイテムを聞いたところ、「再生素材のスニーカー」「廃材で作られたボールペン」など様々な製品が。なかには「環境に配慮したものを選びたいが物価高で難しい」との声も
Oeʼs eyes
これは驚きの数字でした。環境問題を考えなかったときに訪れるであろうリスクやそれにかかるコストを考えると、今自分たちがどういう負担をすべきかを皆さんは冷静に考えているのかもしれませんね。物価高が続いたとき気候変動対策を意識したものの割高感がどう変化するかも気になるところです
Q あなたの勤め先では、気候変動対策の取り組みを行っていますか?
昨年5月号で「脱炭素」をキーワードに取り上げた際に同じ質問をしたときの結果30%から「はい」の割合が上昇。「ここ1〜2年で企業や政府の気候変動対策の取り組みを感じる機会が増えた」と回答した人は約6割
Oeʼs eyes
脱炭素によって経済成長していくというのがGXの基本的な考えですから、どの企業にとっても脱炭素によって企業が成長していくきっかけになる取り組みが欠かせないと思います。読者の皆さんは、社内で重要なポジションにつき始めている方が多いと思いますので積極的に発信していただきたいですね
「地球環境と人間の共存共栄が欠かせない。脱炭素で持続可能な社会をつくっていく」
「最近ニュースで取り上げるようになった新しいキーワードを今回は選びました。ただ、中身を知ると『あっ、知っている話だ』と感じる人が多いと思います。GXとは、『より環境によい脱炭素社会の実現を通して、経済成長もできる社会の仕組みをつくっていこう』という考え方。要するに脱炭素の取り組みのことです。脱炭素による持続可能な社会をつくっていくために、どのように社会の構造を変えていったらいいかを考えることなんですね。政府がGX実行会議を新しく設けて開催しているので、これからより聞く機会が増えてくる言葉だと思います」と大江さん。気候変動問題を背景に、社会の基本が持続可能性に資するものであることが世界のスタンダードに。
「気候変動については意見が様々ありますが、今必要な前提として、『これ以上、人間が気候に悪い影響を与えることは減らしましょう』という考え方が、世界的な合意になっていると思います。気候変動で起こりうるリスクを減らして安心安全な将来をつくるためには、やはり今から取り組んでおかないといけないことがたくさんあります。日本は2050年までにカーボンニュートラル、つまり実質的に温室効果ガスの排出量ゼロを目指すと当時の菅首相が宣言しました。その途中の目標として2030年度には2013年度に比べて温室効果ガスを46%削減することも掲げています。日本政府はこの方針をその後も踏襲していますので、相当なピッチで温室効果ガスを削減していかなければならないんですね」
脱炭素による持続可能な社会に向けて、日本は社会の仕組みをどう変えていけば?
「まず、日本の電力をつくる方法の割合を示す電源構成に課題があります。より再生可能エネルギーの比率を高めて、今最も頼っている火力発電を将来的にどう減らしていくか。火力発電を使う場合は排出する温室効果ガスをどう減らしていけるのかを考えなくてはなりません。また原発についても議論がされています。これまでは安全が確認された原発に関して再稼働を認める方針でしたが、加えて新しい次世代型の革新炉の開発から建設を検討するように岸田首相が方針を転換しました。これをどう進めていくのか。エネルギー政策はGXのなかで大きなハードルになると思います。
ほかには、より無駄を減らしていく政策も必要です。やはりこれまでのように大量生産大量廃棄を繰り返していては持続可能ではないともう皆さん肌でわかっていると思います。これには各企業の取り組みが求められます。そして、GXの推進によって産業構造の変化が起こったときに、新たな成長分野にうまく人材が移動できるのか。社会全体としての人材流動性の向上を考えていくことも重要です。GXの実現に向けた取り組みのなかで国民の負担が出てくる可能性もあるので、政府はその点もきちんと説明をして、国民の合意を得ながら前に進めていく必要があります。自分にどう関係してくるかを把握する意味でも、GXは、皆さんに興味を持って常に耳を傾けていただきたい話題なんですよね」
「GXが成功するカギは“我慢して選ぶ”から、“快適だから選ぶ”へ。そのための知恵が重要」
読者から「環境に配慮した製品を選びたいが割高感があり物価高で難しい」との声が。
「おっしゃるとおりだと思います。特に物価高のなかだと、これまで以上にゆとりがなくなってくるのは確かで難しいですよね。まずは、自分の生活が持続可能であることが前提で、無理をする必要はないと私は考えています。その上で“快適”ということがキーワードになるのではないでしょうか。『コスト的には我慢して環境にいいもの買わなくちゃ』といったこれまでの“我慢”という観念から、より“快適”だから積極的に選ぶとなるのが理想だと思うんですよね。たとえば、最近なるべく廃棄ロスを減らしたい思いからミールキットを選ぶ方が増えているそうです。しかも物価高のなかで食材を個別に購入するよりミールキットのほうが割安感が出てきているメリットがあるとか。人それぞれ自分の大切にしている価値観は違うと思いますが、選ぶことによってより自分が快適にならないと、最終的に持続可能ではなくなってしまいますよね。トランスフォーメーション(変革)の初めには膨大なエネルギーが必要で、変わることによるリスクや負担をどうしても最初の時代に立ち会った私たちは背負っていかないといけないと思います。そんななかでもより負担感が少ないかたちで変えていけるのが望ましい。そのためには革新的な知恵が重要です。日本企業の知恵、消費者でもあり働く側でもある皆さんの柔軟な発想がこれから世界のために欠かせないのかもしれませんね」
大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/花村克彦 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2022年12月号掲載