「こんなものが欲しかった」。思わずそう声を上げたくなるヒット商品の数々は、実は、バイラ世代の女性たちが多くの壁や苦悩を乗り越えた末に生み出したものでした。朝の時短メイクに新風を吹かせた「サボリーノ シートマスク」。開発者の3人は実はもともと違う部署出身で、「仕事話1割、無駄話9割」という密なコミュニケーションを経て無敵のチームワークを築いたのだそう。
BCLカンパニー
御殿谷りえさん(左)(宣伝本部 宣伝部次長 PRマネージャー 39歳)
商品の宣伝企画を担当。現在は朝に夫婦で目ざまシートを愛用しているそうで、二人のお子さんたちもその姿に驚かなくなったそう。
大小原碧里さん(中)(国内事業部 マーケティング部 ブランド戦略室室長 35歳)
転職した年にリーダーに抜擢され、同年に結婚。ほか二人も同時期に結婚したことから、「開発チームは結婚する」というジンクスが。
齊藤久美子さん(右)(企画本部 企画2部次長兼 企画本部企画2部1課課長 39歳)
商品の原案やコンセプト、価格やバルクなどを担当。ティッシュのようにするりと出てくる取り出しやすい設計は齊藤さんのアイディア。
サボリーノ シートマスク
朝60秒張るだけで洗顔、スキンケア、保湿までが完了する「目ざまシート」。2015年4月の発売以来累計5億枚(2020年12月時点)を超える大ヒットを記録。2019年にはエイジングケア成分を追加した大人向け夜用マスクも販売をスタート
縦割りの組織の中で、横の連携の重要性をアピールできた
数多くの失敗や社内の逆風も乗り越えてきた
「朝は1秒でも長く寝ていたい!」という切実な思いから生まれた「サボリーノ 目ざまシート」は、さかのぼること8年。2013年に「自分たちの欲しいものを作ってほしい」という社長直下のお題を受け、大小原さん、御殿谷さん、齊藤さんたちが招集された。部署間の交流がほとんどない縦割り組織だったものの、メンバーはすぐに意気投合。「大ちゃん」「齊藤ちん」「みどちゃん」と呼び合う、まるで友達同士のような関係を築いた。
齊藤 年代が同じだったことはもちろん、仕事に対してガッツを持って取り組むスタンスも一緒だったので、メンバーが共通する個性を持っていたことはラッキーでした。
大小原 当時は独身だったこともあり、メイクに対する自分の中の正解がそれぞれありましたし、そこに至るまでのステップに苦労をしていて。起きてからの手順をホワイトボードに書き出して、「ここが短縮できそう」と内容を詰めていきました。
ただし、洗顔も化粧水も保湿下地も兼ねる朝用シートマスクというアイディアは、社内の逆風も強かった。
齊藤 洗顔料やステップ美容商品を出している会社なので、ほかの商品を否定してしまうことになるのではという意見がありました。それでも、「サボリーノ」はバラエティストアやドラッグストアで流通させる商品なので、売り場がかぶらないということでゴーサインをもらったんです。
大小原 さっぱりさせるためのメントールの強弱など、試作も通常の3倍ほど繰り返しました。
御殿谷 最初の頃はファンデーションも入れたよね。
齊藤 そうそう(笑)。シートからポタポタと肌色の液が落ちてきて……。
大小原 これは事故になるな、となってまた一から考え直したり。
齊藤 今なら試作する前に結果がわかりそうですが、ある意味、若さ故の行動力だったと思います(笑)。
部署を横断する連携が会社の文化になった
初めて部署を横断して仕事をするようになった彼女たちは、「仕事の話1割、無駄話9割だった」という密なコミュニケーションを経て、チーム戦の大きな可能性を感じることに。
大小原 もともとは予算がゼロだったので、自分たちのやりたいことを会議を使ってアピールしたり、社内の信用を得るためにそれぞれが得意な分野で連携しながら動きました。
御殿谷 「こことこういう組み方をすればいけるんじゃないか」など、本当に頭脳戦でしたね。
大小原 おかげさまで今は会社の売り上げの約4割が「サボリーノ」に。
齊藤 私たちが成功したことをきっかけに、部署間を横断するチーム企画もかなり増えましたし、文化として根づいている感覚はあります。
御殿谷 人と人との巡り合わせや業務への取り組み方で、ここまで会社が変わることを実感しましたし、すごく嬉しかったですね。
齊藤 サボる企画をとことん考えてきましたが、仕事に対しては私たち、かなりまじめだったと思います(笑)。
Q.女性チームで仕事をする上で大切にしていることは?
1.信頼をする
「相手のいいところを見つけ、この人と仕事がしたいという敬意や想いを日頃から意識しています。『この人と組めば絶対にいいものが生まれるし、成功できる!』と思える信頼感は、チームで仕事をする上でかなり重要だと思います」(御殿谷)
2.コミュニケーション
「部署が違うと月日の流れの感覚も微妙に違ってくるので、LINEグループでお互いの意見を共有したり、リアルタイムでコミュニケーションするように心がけました。当時は仕事終わりにチームで飲みに行くことも多かったです」(大小原)
3.自分ごと化する
「会議や打ち合わせでも、呼ばれているからただそこにいるだけという意識ではまったく意味がありません。『サボリーノ』チームは常に問題を自分ごととしてとらえて積極的に参加し、主体的に動けるようなチームだったと思います」(齊藤)
撮影/目黒智子 取材・原文/松山 梢 ※BAILA2021年12月号掲載