「人を頼る力は人生において不可欠」と断言する先輩方の転機や変化したマインドなど、温かいエールにはお願い上手へのヒントが満載。今回はイラストエッセイスト犬山紙子さんにお話しを聞きました。
【人を頼るための第一歩】お願い下手な自分を責めないで、いい人間関係をつくるために頼ると考える
お願い下手な人は、まじめで自分に厳しく相手の負担になりたくない気持ちの持ち主だと思うので、まずは責めないでほしいです。その上でお願い上手になることは、わがままではなく、頼り頼られるいい人間関係をつくるためと考えられるとお願いのハードルが下がるのではと思います。
イラストエッセイスト
犬山紙子さん
著書に『アドバイスかと思ったら呪いだった。』(ポプラ社)など。20代に母親の介護を経験。結婚、出産後に、児童虐待問題に声を上げるタレントチーム「#こどものいのちはこどものもの」を立ち上げるなど社会問題にも取り組んでいる。
お願い下手の人は、とにかくまじめで自分のせいで人に迷惑をかけるのが怖かったり、迷惑をかけた結果、嫌われるのが怖かったりする優しくていい人なんですよね。
私たちって、人に迷惑をかけないように生きなさいと育てられてきたと思うんですが、迷惑かけないで自分の人生を生きられるわけがない。だから、これは私の勝手な持論ですが、自立の定義を変えてみることを提案したいです。
自立とは、人の手を借りずに一人で立てるという意味合いだと思いますが、それは無理なので、自分が困ったときにSOSを出せる力がある。人のSOSを受け取ったら適切な機関につなげられる。といった力があることを自立ととらえるとよいのではと私は実体験を通して感じています。
20代で介護を10年間経験したのですが、最初、誰にも相談しないで自分でできると思っていて一人で迷惑かけないでと考えすぎてしまった先に抱えきれず、メンタルがぼろぼろになり、もっと人にお願いできたら違ったと学びました。迷惑はかけちゃいけないものなんじゃなくて、かけられるものだしかけるもの。そういうものだと。「自分さえ我慢すれば」の先に待っているのは孤独しかないから、まずその精神を捨てましょう。人に頼むときに罪悪感を持ちすぎないことはめちゃくちゃ大事なことだと思います。その分、相手に何か頼まれたときに自分も返す気持ちを持てたらいいんじゃないかなと。
お願いができるようになって、自分の心の健康と仕事やプライベートの質がぐっとよくなり、周囲へのリスペクトと感謝の気持ちが強まりました。そして、自分が人に頼られたときにちゃんとこたえられる人になりたいと心がけることで人間関係にいい循環が生まれている気がします。
私はお願いをするとき、まずチーム単位で考えます。家族や友人のことだったら、どうやったらみんながハッピーに過ごせるか。仕事だったら、プロジェクトがどうしたら成功するか。合理的に考えて人に頼ったほうが効率や質が上がることを見つけて、チーム全体の負担がどうすると減って、よりよい関係が結べるのかという視点で見ていくと、自分の中の罪悪感が減るんですよね。
お願い上手な人は物事を俯瞰できる人という印象があります。「今、目の前の感情としては相手にお願いするために勇気がいるけれど、先を考えて頼り頼られる関係性をつくっておくと相手にも自分にもメリットがある。じゃあ目の前のちょっとしんどい気持ちを乗り越えて相手にお願いを伝えてみよう」と勇気を持てる人。だからお願いするときは、お互いに頼り頼られる関係性になることを目指して声をかけています。相手へのリスペクト、尊敬し尊重する気持ちを伝えることはもちろん、これからもよい関係を続けるために相手が断ることのできる余白や選択肢をつけたり、お願いしたあとに、感謝の気持ちを丁寧に示しています。
普段の関係性によって頼りやすさも変わってくるのでなんでもない毎日のコミュニケーションの中で褒め合うことも心がけています。たとえば、夫がゴロッとソファに寝ているだけでも「寝っ転がってるだけでも、なんかいいわぁ」と伝えたりも(笑)。やっぱりベースの関係性がいいとお願いしたときに余計なネガティブな感情がなく、そのままちゃんと伝わるので大事だなと思いますね。
小さなお願いからスタートして、自分がお礼を言えたり、相手のお願いを聞けたりといったお願いしあう成功体験を積み重ねることで、お互いに弱い部分を知ったからこそ支え合えるいい人間関係ができていくのかなと感じています。
取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2022年4・5月号掲載