同僚の買い物に張り切って同行するアナウンス部の”おしゃれ番長”が20代後半からの迷い道を経て切り拓いた「アナウンサーとしての仕事」。大好きなファッションを新しい武器に。日本テレビアナウンサー 郡司恭子さんに仕事との向き合い方をインタビュー。
私なりのアナウンサーの道を模索し、挑戦したかった
アナウンサーが立ち上げたアパレルブランド
日本テレビのアナウンサーが立ち上げたアパレルブランド「Audire(アウディーレ)」は、「Wear the Voice “心地よいわたしを纏う”」をコンセプトに、郡司恭子アナが提案して走りだした事業。2022年9月にローンチし、今年3月には初のポップアップストアを渋谷で開催した。
「事業計画を書いている段階から変わらずに持ち続けているのは、プロダクトを通してコミュニティをつくりたいという想いです。ポップアップストアでもトークイベントを開催したり、店頭に立って実際にお客さまにこだわりをお伝えしたりしました。ブランド名はラテン語で“聴く”という意味ですが、いつの間にかわれわれのこだわりを聞いてもらっている状況に(笑)。すごく幸せでしたし、ありがたかったです」
そもそもアナウンサーが本業の彼女がなぜアパレルブランドを企画したのか。その疑問をひもとくと、アナウンサーの仕事を大切に思う一方で生まれた不安な気持ちが出発点になっていた。
「アナウンサーの仕事が大好きだけれど、会社員である以上、自分の意思ではどうにもならないことも多くあります。私の場合、『ZIP!』を卒業したタイミングでふと、これからどうなるんだろうと、自分の中からわき上がる不安を感じました。その後コロナ禍も重なり、働き方が大きく変わって焦りは増すばかりでした」
何もしないでいる時間が怖くなった彼女は、過去の日テレのコンテンツを見返したり、美術館に足を運んだり、書店に半日いてみたり、名言を書き留めたりと、とにかく奔走。当時を振り返り、「インプットしているという認識だけでも自分に与えたかった」と語る。
「最初に飛び込んでみたのがゴルフの実況でした。先輩の中野謙吾アナウンサーから『自分の得意を生かせる仕事に挑戦してみたら?』とアドバイスをもらい、ゴルフ部出身という経験を生かした実況に挑戦してみようと思ったんです。女性アナウンサーが実況を担当することは珍しいですし、収録ではない一発本番。正直怖かったですが、ある選手が大一番で着るユニフォームの特徴に気づくなど、ファッション好きな私ならではの視点も取り入れることができました。新しい境地に連れていってもらえた感覚でしたし、チャンスをくれた人たちには本当に感謝しています」
ゴルフ実況という武器が次の一歩につながった
新たに手にした自信こそが、不安を払拭するための次なる挑戦のジャンピングボードになった。
「プロとして輝ける仕事の選択肢を、専門性の高いアナウンサーからさらに拡大したかったし、日テレの一社員として、何か事業に貢献できることはないかと考えたんです。そこからは、韓国ドラマのリメイクやバラエティ番組など、様々な企画書を書き続ける日々が始まりました」
残念ながら企画は制作には至らなかったものの、アパレルベンチャーのCEORY社からの事業提案をきっかけに、アナウンサーが他社のブランドのアイコンになるのではなく、アナウンス部の事業としてブランドを立ち上げることを発案。郡司さんは、ほぼ一人で「Audire」の企画書を書き上げた。もちろんすんなりGOサインが出たわけではない。前例のない企画に対する各所からの懸念を“宿題”と受け止め、何度も何度も修正してはプレゼンし、実現にこぎつけたという。そこまで頑張れた理由は何なのか。
「自分を嫌いになりたくないんです。手を抜いて失敗するのはとても簡単だけど、どうせ失敗するならやり切ったと思って失敗したい。私はポジティブでも強い人間でもないので、頑張らないことが怖いという言い回しのほうがしっくりくるかもしれません」
その恐怖への対処法は?
「自分が思い描いたビジョンとは違う未来が訪れても大丈夫なように、あらゆる選択肢を持っておきたいと思っています。不安を感じ、もがいていたあの頃を『いい時間だったな』とは思いません(笑)。でもその経験があったからこそ、『Audire』を通して想いを共有し、コミュニティを創出したいと強く思えたと思います」
軸足を置く場所があれば勇気を持って踏み出せる
ローンチから1年がたった現在は、アナウンサー業務と並行しながら、事業運営に奔走。アナウンス部のメンバーを集めて「Audire」の会議をし、SNSを日々管理。アイディアを実現するため生地店に足を運び、縫製の担当に会い、数多くの商談もこなしている。さらにビジネスとして成長させるため、経営者を訪ねてインプットする時間も欠かさない。
「チームビルディングにも力をいれています。初めは当事者意識を持ってもらうことに悩みもしましたが、その“もらいたい”という考えはおごりだったなと今は反省していて。その反省以降、後輩には企画がかなった自分の経験や景色を伝えるようにしています。そこから何を感じるかは彼ら次第。『同じ景色を見てみたい』と思って参加してくれた人がいたり、佐藤真知子アナの発案でアナウンス部内に向け『Audire通信』と題して情報発信をしたり…後輩たちのアクションが増えました。今後の目標は軌道に乗せて、利益をチャリティに使うことです」
ビジネスの才覚を発揮する郡司さん。ただし彼女のアイデンティティは、あくまでもアナウンサーだ。
「生放送が始まる瞬間につく赤いランプを見ると、『やっぱり私はアナウンサーだ!』と感じるんです。新しいことに飛び込むことはとても怖いけど、私はアナウンサーに軸足を置いていたからこそ、恐れずにいろんな場所へ片足を踏み出すことができました。その経験は、本業に還元できることもたくさんあると思っています」
HISTORY
22歳 日本テレビに入社
27歳 入社2年目からレギュラーを務めた帯番組である「ZIP!」を卒業
29歳 報道番組でニュースコーナーなどを担当。ゴルフ実況を初めて担当
32歳 日本テレビの新事業としてアパレルブランド「Audire(アウディーレ)」を立ち上げる
日本テレビアナウンサー
郡司恭子
ぐんじ きょうこ●1990年6月生まれ、東京都出身。アナウンサーと「Audire」の両輪をこなす日々はかなりハードだけれど、SNSには趣味のゴルフ投稿などもあり、プライベートも充実していることがうかがえる。「極力仕事は平日に詰め込んで、土日には持ち越さないように意識しています。美術館や展示会に行ったり、市場調査という名のお買い物に行ったり(笑)。休日はインプットをしてもアウトプットはしないと決めています」
ジャケット「Noble short jacket」¥29700・スカート「Noble high-waist skirt」¥26400(ともに9月7日発売)・ブラウス「Audire bowtie blouse」¥22000/アウディーレ
撮影/目黒智子 取材・原文/松山 梢 ※BAILA2023年10月号掲載