自分らしく働くリーダーたちをクローズアップする連載。“より多くの人の幸せのため”に管理職に就くことを決意したキャリアプランとは。今回は株式会社JALエンジニアリングで働く武藤美希さんをご紹介します。
みんなが思っている事を言える職場が理想

株式会社JALエンジニアリング 羽田航空機整備センター 機体点検整備部 機体運航整備室第2課 課長
武藤美希さん
46歳、山梨県出身。中学時代に「自分の手で何かを直す」整備の仕事に憧れを抱き、大学時代は自動車メーカーへの就職を志望。ところが同じ研究室の同級生が航空会社の就職試験を受けると聞き、航空機の整備にも興味を抱くことに。

HISTORY
24歳【2003年】 | 日本航空株式会社に入社 |
25歳【2004年】 | 構造整備課に異動 |
28歳【2007年】 | JAL航空機整備東京(現・株式会社JALエンジニアリング)へ異動 |
29歳【2008年】 | 運航整備部に異動 |
33歳【2012年】 | ハワイ支店へ異動 |
38歳【2017年】 | 帰国し、間接部門にて現場で使用するツールの開発に携わる |
リーダーになった 42歳【2021年】 | |
46歳【2025年】 | 40人のチームを抱える課長として機体の生産調整、安全点検などを行う |
Q ある一日のスケジュールは?
2:30 | 遅番から帰宅 |
4:30 | 就寝 |
9:00 | 起床 |
13:00 | 仮眠 |
17:00 | 起床し、身支度などの出勤準備 |
21:30 | 夜勤開始 |
8:30 | 夜勤終了 |
10:30 | 帰宅 |
12:00 | 就寝 |
整備を担当する5つの課で早番、遅番、夜勤、夜勤明け、休みの5つのシフトを順番に担当していく勤務体系。なるべくリズムをくずさないために自分の中でス ケジューリングをし、日中は眠くても起床しジョギングや料理などをしている。昼の仮眠など細切れの睡眠で体力を回復。
Q 仕事のマストアイテムは?

1 飛行機の下や内部を照らすためのフラッシュライト。
2 管理職になってから自ら整備をすることはほとんどなくなったものの、ドライバーは整備士マインドを忘れないための大切なアイテム。
3 仕事中の唯一の癒しはいい香りのハンドクリーム。
Q 30代でしてよかったことは?
一人旅行
Q 30代でやっておけばよかったことは?
お金の知識を増やすこと
Q 仕事をする上で大切にしている言葉は?
推測に頼らず、必ず確認します(「JAL安全憲章」より)
Q オフの日の過ごし方は?

ジョギングにハマってます!
管理職になることで、もっと多くの人を幸せにできると知った

毎日がまるでお祭りのようなアツい整備の仕事
JALエンジニアリングの武藤美希さんは、航空機整備の現業部門において課長職に就いた社内で初めての女性。多くの同期が整備に関するデスクワーク職に異動していく中、整備の第一線で活躍し続けている彼女の働き方は、かなりのレアケースだという。
「整備のイロハを学ぶため、入社後は新入社員全員が整備士の仕事を経験しますが、多くの同期がその後数年で整備に関するデスクワーク職に異動していきました。私はもともと整備士に強い憧れがあったので、大勢がたどる道とは違いましたが、希望かなって今に至っています」
男性が9割を占める職場で、現在は約40人のチームをまとめている。
「担当しているのは客室内のシートやモニターの修復から、エンジン内部の不具合の確認や交換まで、知識と技術が必要な整備です。メンバーの配置など、安全に配慮しながらチームのみんなが働きやすい環境を整えています」
いちばん忙しいのは夜勤のシフト。夜の最終便が到着してから朝の始発便が出発するまでの限られた時間の中で、15機ほどの整備を完了させなければいけない。
「朝までに整備が間に合わないような想定外のトラブルが発生することもあります。職場の整備士の皆さんが一生懸命直している間に、私は整備の終了時間が見えない機体を出発が遅いフライトの機体と入れ替えるなどの調整を関係部門と協力して行い、うまくパズルがはまった瞬間は嬉しいです。毎日何かしら頭を悩ませる出来事が起きますが、『絶対に間に合わせる!』と思うとアドレナリンが出る。まるでお祭りのようにアツい現場です」
失敗が許されないからこそ楽しい雰囲気をつくりたい
航空機の整備を「世話をする」と表現するほど、自他ともに認める世話好きな性格の武藤さん。大勢で取り組む整備の仕事はまさに天職。今でこそ管理職も「向いている」と言うけれど、「現場で手を動かしたい」と思っていた頃は、まったくイメージができなかったと言う。
「自分が実際に整備をする面白さを感じていたので、管理職試験を受ける数年前までは、人の面倒を見たり矢面に立つ仕事の魅力がわからなかったんです。ところが経験を重ねるうちにだんだんと、『こうすればもっと働きやすくなるのに』といった気持ちが芽生え始めました。そんなときに受けたセミナーで、『一般職が何か改善したいと思ったときに与えられる影響範囲は2〜3人。管理職になればもっと広げられる』と聞き、初めて管理職を目指してみようと思ったんです」
チームを率いる立場として常に目指しているのは、「みんなが幸せにのびのびと、楽しんで仕事ができる環境をつくる」こと。
「航空機の安全は絶対に守らなければならない、ある意味でとても厳しい仕事です。精神的に厳しい面もありますが、そんな特殊な職場だからこそ人間関係がよくないとさらに仕事がつらくなってしまうと思うんです。チームプレイが何よりも大事な職場なので、年齢関係なく、誰もが自由に意見を言い合える楽しい雰囲気にしようと心がけています」
出社時にチームに送る毎日のメールには、旅行に行ったことなどあえて仕事に関係ないトピックを盛り込み、気楽に会話ができる雰囲気を意識。メンバーが「異動したくない」と言ってくれるほど、いいチームができ上がっている。
「あと5年もすれば、整備部門も管理職を目指す世代の女性がだんだん増えてきます。みんなにおせっかいを焼くのが私のマネジメントスタイルですが、『あの人、やけに会社にいるな』と思われないために、仕事が終わったらサクッと帰る姿もちゃんと見せ、下の世代に『管理職は大変そう』と不安にさせないことも、私の役割だと思っています」
撮影/田村伊吹 ヘア&メイク/小澤 桜〈MAKEUPBOX〉 取材・原文/松山 梢 ※BAILA2025年5月号掲載