より自分らしく輝くために、働き方を選択できる時代。連載第10回は、日産自動車株式会社
バリューチェーン推進部で働く吉井紀子さんにクローズアップ。キャリアの中断は、どんな理由であれ不安なもの。育児休職、海外生活を経て復職し、管理職としてキャリアを再開した吉井さんの働き方とは。
夫の海外赴任に帯同後、キャリアを再開できたのは職場環境のおかげ
日産自動車株式会社 バリューチェーン推進部 主管
吉井紀子さん
東京都出身、44歳。大学時代にトルコ、シリア、イスラエル、ジャマイカ、キューバなど様々な国へ旅行をした際、日産自動車が広く知られていることに誇りを感じ今の道へ。
「現在、私が所属しているのは車の購入をサポートする金融、運転中の事故など補償する保険、そして中古車という、3つの領域を担当するバリューチェーン推進部です。
日産自動車は車を作る会社ですが実際にお客さまに販売するのは販売会社の皆さま。車は購入して終わりではなく、その後もお客さまとの関係が続いていくものです。
新しい商品プランの開発はもちろん、日産自動車のブランド力の向上など、お客さまに近いところで戦略を練ることができる仕事は魅力的です。
たとえ難しい事案に直面しても、一人ひとりにアイディアを出してもらいながら力を合わせて乗り越られるのは、一度キャリアを中断した経験があるから。海外生活で学んだ『助け合い』を生かしながら、チームで働くことにやりがいを感じています」
HISTORY
2003 | 日産自動車株式会社に入社 |
2007 | グローバル販売管理部にて |
2009 | マーケティングダイレクターオフィスにて |
2014 | 夫のペルー赴任へ帯同 |
2017 | 夫の赴任先がチリに変更 |
2018 | 復職後、MC-Japan |
2020 | 主担としてデジタル領域を担当 |
2023〜 | バリューチェーン推進部の主管として |
乗り方を覚えた自転車と同じ。一度休職しても走り出せる
海外生活を支えたのはキャリアを継続できる安心感
二人の子どもを育てながら管理職としてパワフルに働く吉井さん。別の会社に勤める夫の海外赴任に伴い、2014年から「配偶者帯同休職制度」を利用。さらに「産前産後休暇」と「育児休暇」と併せて、4年間キャリアを休止した経験がある。
「夫の内示と同時期に、私の妊娠も判明しました。赴任先のペルーは飛行機で25時間かかるので、渡航したら夫はなかなか帰ってこられません。妊娠するまでに苦労したこともあり、『夫のそばで産もう』と決意しました。もちろん仕事を休む不安はありましたが、配偶者帯同休職制度のおかげで、キャリアを継続できることはモチベーションになりました。同期から『一度乗り方を覚えた自転車と同じように、仕事も絶対に体が覚えているよ』と励まされたことも大きかったですね」
4年の間にペルーで長男、チリで長女を出産。「目まぐるしすぎてあまり覚えていない」と笑うほど激動の日々だった。
「ペルーの人たちは温かい人が多くて本当に助けられました。治安があまりよくない国なので、日本人出向者にはドライバーさんがつくのですが、いつも通院につき添ってくれたドライバーさんは、病院の先生に夫と勘違いされたほど(笑)。私のつたないスペイン語を素晴らしい想像力で読み取り、正しいスペイン語に通訳してくれたこともありました。みんなの力でいろんなハプニングを乗り越えられたと思います」
休職中の海外での経験が生きたマネジメントスタイル
休職直前に昇給試験を受けていたため、復帰後はポジションが上がり、期待にこたえなければいけないプレッシャーも!
「4年も休んでいると、社内で使う専門用語も増えていて本当に浦島太郎状態(笑)。最初の3カ月はかなり馬力が必要でしたね。ただ、同期が休職前に言ってくれたように、徐々に感覚を取り戻しながらやっていけるように。時間が解決してくれることを実感しましたし、仕事を辞めなくて本当によかったと思いました」
復職2年目には管理職に。大切にしているのは、チームの力を引き出すこと。
「管理職になる前は、管理職の先輩たちのようにチームを強力にリードする自信がありませんでした。しかし会社でマネジメントに関する外部研修を受講し、同様な悩みを持つ女性たちと議論する中で、リーダーシップスタイルは“周囲の力を引き出す”方法もあると気づかされました。外国での身重の生活は、誰かの力を借りないとごはんひとつ買いに行くことができません。チームで力を合わせ、情報をシェアしながら乗り切った経験は、確実に今に生きています」
出産後のキャリアの継続や子育てとの両立、管理職への挑戦など、吉井さんが経験してきたことは、多くの後輩たちがこれから直面していくことでもある。
「私自身にも、子ども二人を連れてブラジルに赴任した先輩など、ロールモデルとなる人たちがいっぱいいます。それに加えて、多様な働き方をサポートしてくれる会社の制度や、仲間を助け合う社内の雰囲気のよさがバランスよくあったことで、なんとかキャリアを継続することができました。不安はいっぱいあると思いますが、後輩たちには『周りの力を借りていいんだよ!』と伝えていきたいです」
ある日のスケジュール
8:00 | 起床 |
9:00 | 始業後、メールチェックなどからスタート |
9:30 | チームメンバーとの打ち合わせ |
11:30 | チームメンバーとランチ |
12:30 | 取引先との打ち合わせやメールの返信など |
19:00 | 退勤 |
20:00 | 帰宅 |
子どもの夏休み期間中はリモート勤務を増やすなど、フレキシブルに対応。帰宅が遅くなる平日は無理をせず、自炊をしないと決めているそう。家事代行サービスを利用して夕食を用意してもらっているため、子どもたちとの時間をしっかり確保できるのがメリット
ON
出社時のランチは、コミュニケーションを図るためにチームメンバーと一緒に食べることが多い。話題は仕事ではなくプライベートな内容が中心。業務から少し離れてリフレッシュする癒しの時間となっている
OFF
小学4年生の長男、小学2年生の長女を中心に、家族や友人とスキーやキャンプをしてアクティブに過ごすことが多い。写真は昨年夏に群馬県・菅沼で。長男の友人家族とともに総勢16名でスタンドアップパドルボードをして楽しんだ
仕事のマストアイテム
1 フリーアドレスのため荷物は最小限にしているものの、お気に入りのコーン茶はマスト
2 自分好みにブレンドしたコーヒーをドリップし、1と合わせて毎日2本水筒を持参している
3 入社時にお世話になった方からいただいた名刺入れは、今も大切に使い続けている
日産自動車株式会社の「配偶者帯同休職制度」とは?
2017年10月に導入。配偶者の海外赴任帯同を理由とし、会社からの承認が得られた場合に3年を上限として取得可能な制度。赴任をする配偶者が日産自動車の社員でない場合でも利用可能。この制度により、以前は退職せざるを得なかったケースでも休職が可能となった。吉井さんは「産前産後休暇」と「育児休暇」と組み合わせて利用した。
撮影/田中 瞳 ヘア&メイク/小澤 桜〈MAKEUPBOX〉 取材・原文/松山 梢 ※BAILA2024年12月号掲載