書評家・ライターの江南亜美子が、バイラ世代におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、心が弱りそうになる冬に開きたい2冊、最果タヒのエッセイ集『神様の友達の友達の友達はぼく』と宇壽山貴久子の写真集『ワンピースのおんな』をご紹介します。
江南亜美子
文学の力を信じている書評家・ライター。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』。
「どんどん愛は深まっていきます、みたいなことを言えるなら私だって言いたいのだが、そうじゃなくて、というか、それが正義なのではなくて、全てがあの瞬間に完成し、その余韻の中でこれから私は幸福なのだと言い切るのも、良いことじゃないかと思う」
最果さんのエッセイには私たちがいつの間にか内面化してしまった他人の価値観や、常識とされること、そしてみんなが言いそうなことに対し、ほんとにそう?と立ち止まって考えさせてくれる契機がいっぱい詰まっている。
たとえば花や動物を「なんか気持ち悪いなあ」と思うという言葉には、命の大切さなどの当たり前の慣用句より、もっと解像度の高い認識の仕方があり、「私は自分の書いたものが十年後に残ってるとは思っていない」は、卑下や露悪ではなく、他者と歴史を尊重する公平さの表れだ。
それは、詩人である彼女の作品が、とりわけ若い世代に突き刺さり、熱く支持されることの理由でもある。
本書には多くのエッセイが収録されるが、いっぺんに読まなくていい。オーバードーズになるかもしれないから。むしろ気鬱を振り払いたいときじわじわ読むのがおすすめだ。
『神様の友達の友達の友達はぼく』
最果タヒ著 筑摩書房 1760円
「ぼくは人がわからない」率直で屈折していて切実で
詩のみならず、小説や作詞提供、また展覧会の開催など多彩に活躍の場を広げる詩人による、濃密なエッセイ集。人嫌いでも礼儀を重んじたコミュニケーションをとろうとする彼女の本音が見える一冊。
これも気になる!
『ワンピースのおんな』
宇壽山貴久子写真 すまあみ文
草思社 1980円
「単純で美しい生きること」大切な服、言葉、信条
ワードローブのお気に入りのワンピースを着た、61人の女性たち。アメリカと日本の50代以上の彼女らのポートレートからは、生きてきた歴史の痕跡と芯のあるしなやかさがにじむ。温かな写真集。
イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2022年2月号掲載