日本女性の二人に一人が90歳まで生きる時代。漠然とした老後のお金の不安を解消すべく、自分に必要な老後資金がわかるプロ直伝のワークシートからライフスタイル別に徹底検証! 今回はひとり暮らしのAさんをモデルケースに、100歳まで生きる前提での老後資金を試算。
ファイナンシャルプランナー
井戸美枝さん
CFP®、社会保険労務士。年金問題などのわかりやすい解説が人気。近著に『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください! 増補改訂版』
35歳・正社員・ひとり暮らしのAさんの支出とライフプラン
DATA
Aさん 35歳 正社員
年収 400万円
現在の貯金額 500万円
このままシングルでいる場合は、老後は老人ホームへの入居を想定して、転職して年収が上がっても生活は変えず貯蓄率をアップ。「ひとり暮らしで手取り収入の30%に住居費を収めて、貯蓄率が15%以上なのは理想的な家計バランスです」(井戸さん)
【Aさんのライフプラン】
35歳
↓
40歳 転職
in 年収450万円にアップ・貯蓄率をアップ
↓
53歳 親の介護を経験★
↓
60歳 定年退職・再雇用
in 退職金436万円
契約社員で年収200万円にダウン
↓
65歳 退職・年金受給開始
in 厚生年金+基礎年金=年額172万円
↓
75歳 介護付き有料老人ホームに入居★
out 入居金500万円+年額240万円
↓
100歳
今後いくらかかる? ライフイベント費用の相場
上記のAさんのライフプランに登場する「介護」と「高齢者施設」(★印)について、かかる費用の目安を解説!
《介護にかかるお金》
在宅介護の場合 平均:月4万6000円
施設介護の場合 平均:月11万8000円
平均介護期間 4年7カ月
全平均:月7万8000円
ほかにも住宅改修のためなどの一時的な費用が平均69万円(介護保険の利用で、自己負担は1~3割)というデータが。平均値をもとに計算すると、一時的な費用の自己負担額が1割だとしても、介護費用は合計436万円。在宅か施設かによっても金額に開きがある。ただし、今回Aさんのモデルケースでは「親の介護は親自身のお金でできる範囲にし、金銭面以外でサポートを」という井戸さんのアドバイスに従い、親の介護費用は入れずに試算。
出典:生命保険文化センター「平成30年度生命保険に関する全国実態調査」
《高齢者施設にかかるお金》
種類 | 特徴 | 入居時※ | 月額利用額※ |
介護付き有料老人ホーム (民間施設) | 本格的な介護から看取りまで充実したサービスを選択できる | 0〜580万円 | 16万〜29万円 |
サービス付き高齢者向け住宅 (民間施設) | 安否確認や食事提供サービスが受けられる賃貸住宅 | 0〜20万円 | 12万〜20万円 |
ケアハウス (公的施設) | おもに自立〜介護度低めの人が対象の軽費老人ホーム | 0〜30万円 | 9万〜13万円 |
ひと口に「老人ホーム」といっても、種類は様々。サービス内容や入居条件なども施設によって異なり、地域差がある。費用にも大きな幅があり上の図はその一例。介護が必要な場合は加えて介護保険の自己負担分とおむつなどの費用がかかる。
出典:老人ホーム検索サイト「みんなの介護」(2022年7月4日時点) ※同サイトが掲載施設のデータから独自に算出した費用の相場
Aさんの老後に必要なお金と貯蓄目標は?
プロ直伝のワークシートにしたがって、35歳の今の段階で、老後に向けて現役時代に貯めるべきお金(必要総額=貯蓄目標)と、実際にAさんがこのライフプランを歩んだ場合、65歳の完全退職の段顔で、老後に必要なお金が足りているのかをシミュレーション!
STEP1 老後の生活費を見積もる
現在の月々の支出22万円×0.7×12ヶ月=老後の生活費(年)185万円
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STEP2 公的年金で不足する額を知る
【65〜74歳】《老後の生活費(年)185万円−年金見込額(年)172万円》×10年=130万円
【75〜100歳】《老後の生活費(年)240万円−年金見込額(年)172万円》×25年=1700万円
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STEP3・4 老後100歳までの不足生活費を合計し、現役時代に貯めるべき額を計算する
《【65〜74歳】老後の生活費赤字予想額130万円+【75〜100歳】老後の生活費赤字予想額1700万円》+特別支出 介護付き有料老人ホーム入居金500万円−現在の総資産500万円
↓
=35歳時点での必要総額(貯蓄目標)1830万円
もし、このライフプランを歩んだ場合…
65歳時点での総資産1960万円+退職金436万円=65歳時点での貯蓄達成額2396万円
結論:このままいけば、老後の備えはOK
老後の生活費と年金受給見込額の差額がAさんの場合、65~74歳と75歳からに分かれています。介護付き有料老人ホームへ入居するため、医療・介護費830万円は試算に入れていませんが、65歳時点でこれだけゆとりがあれば安心です。
ファイナンシャルプランナー井戸さんからのアドバイス
■月の支出の予備費をスキルアップ費用に
お金とキャリアは人生の両輪。転職による収入アップは素晴らしいです。必要に応じた学びのために、今の予備費2万円をスキルアップ費用として毎月の支出に組み込んで積極的に自己投資しましょう。
■年収がUPしても基本の生活レベルは上げすぎないのが◎
頑張って自由に使えるお金が増えた分、自分のこだわりに関してはある程度贅沢をしてもいいと思いますが、収入が減ったときに戻せる範囲がいいですね。Aさんの貯蓄率のみ上げるプランは大正解。
■親の介護はお金以外のサポートが基本
金銭的に負担するのではなく、親自身の年金と財産の範囲で可能なサポートを受けられる仕組みを一緒につくりましょう。延命治療の有無やお墓の希望など聞いてエンディングノートづくりを手伝って。
■ひとり暮らしの場合は老後の介護医療面を手厚く備える
シングルの人は、老後の病気や介護に対して外部のサポートを利用する可能性が高いため、金銭面+老後に住む場所を前もって備えたほうが安心。75歳から介護率が上がるので、Aさんは万全ですね。
監修/井戸美枝 イラスト/3rdeye 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2022年9月号掲載