「落ちるの一秒、ハマると一生」と言われる歌舞伎沼。その深淵をのぞき、沼への入り方を指南するこの連載。今月ご紹介するのは、現在、歌舞伎座で上演されている『十六夜清心』。十六夜と清心の破滅的な愛を描いた物語です。美しい恋人同士を演じているのは、人気俳優、松本幸四郎さんと中村七之助さん。これまでも度々相手役を演じてきた二人だけに息もぴったり。美しいビジュアルに加え、充実した芸で、鮮烈な世界を作り出し、観客を魅了しています! 舞台に先駆けて行われた取材会の様子とともに、舞台の見どころをバイラ歌舞伎部がリポートします!!
↑現在、歌舞伎座で上演中の『十六夜清心』で、僧侶の清心役の松本幸四郎さん(右)と、遊女十六夜役の中村七之助さん(左)。美男美女の恋人同士を演じます。クールなスーツ姿もかっこい!!
■前半は美しく、後半は退廃的な二人。『十六夜清心』は一粒で二度おいしい!!
まんぼう部長 小僧、どうしたの? うっとりして。
ばったり小僧 はぁ~。見てくださいよ、これ。今、歌舞伎座で上演されている『十六夜清心』の特別ポスターなんですけれど、幸四郎さんと七之助さん、美しすぎます。
↑みとれるほど美しいお二人。しか~し! スチール撮影のエピソードを聞かれた幸四郎さん。「太った……と、最近言われるんです(笑)。太って見えないようにということだけをこころがけました。口は閉じても歯と歯を合わせないと細く見えるんじゃないかとか……」。相変わらずの”幸四郎節”炸裂っ♪
部長 本当ね。超キレイだし、どこかゆるさがあって、耽美で色っぽいわ~。幸四郎さんも七之助さんも初役らしいけど、すでに二人の世界が出来上がっている感じ。取材会でも「どれだけ二人が好き合っているか、お客さまに伝わらないと成立しないお芝居」(幸四郎)「十六夜には、清心が好きという気持ちしかない。それがないと嘘になってしまう」(七之助)と言っていたけれど、ラブラブだわ~♪ でも、『十六夜清心』って、確か美男美女が心中する話よね?
小僧 そうですね。清心は僧の身でありながら、遊女の十六夜と深い仲になって寺を追い出されてしまいます。それで二人は心中を決意して川に飛び込むんですけど、死にきれず助かってしまうんですね。さらに清心は、通りかかった寺小姓が持っていた大金を奪おうともみ合ううちに殺めてしまうんですよ。そこから十六夜も清心も転落の一途をたどるという、生々しいお話です。
ということで、前半は純愛を貫く美しい幸四郎さんと七之助さんが、後半は、退廃的な色香が漂う幸四郎さんと七之助さんが楽しめるという、一粒で二度おいしい演目なんです!!
↑「ポスターと同じポーズでお願いできますか?」とカメラマンのとみやんがリクエストすると、スッと手を出す七之助さん。それにリードされるように、ちょっと照れくさそうに手を合わせる幸四郎さん。肩を寄せ合う二人に部長もポッ♪
部長 素敵♪ 取材会でも幸四郎さんが「同じ役でも前半と後半、ガラっと変わるところが、演じていて気持ちのいいところ」って言ってたけど、善から悪へと堕ちていく幸四郎さんって、超かっこいいのよね!!
小僧 一方、七之助さんは十六夜について、「一途に清心を思っているんだけれど、その場その場で流されて生きている」と言ってましたね。確かに十六夜は、生きていくために、川で助けてくれた船頭の妾になっちゃうんですよね。七之助さんって、毅然とした女性の役のイメージがあるけれど、こういう生臭い女の役も絶対素敵だと思うんです。
部長 これは二人の代表作になる予感。見逃せないわ!!
↑「恋人役なので、指でハートを作るのはどうでしょう」とさらに攻めるカメラとみやん。「いや、ハートはちょっと……。肩を組むのはどう?」という七之助さんの提案で、貴重な1枚が撮れました!!
■“染七”から“幸七”になってもこのコンビは最強です!!
小僧 『十六夜清心』は、河竹黙阿弥の作品なんですね。歌舞伎を代表する狂言作者ですよね!?
部長 そうそう。今年で黙阿弥の没後130年なんですって。なんと今月の歌舞伎座は、1部から3部まで黙阿弥の作品が入っているそうよ。黙阿弥の作品は、セリフが七五調だったりして音楽的だし、人間がふとしたときに見せる狂気みたいなのを描くのがすごくうまいのよね。いつもは前半部分しか上演しない『十六夜清心』も今回は最後の大詰めの場面までやるというから、そこも見どころのひとつね。
↑「七之助さんは素晴らしい俳優さんなので、ご一緒できるのはありがたいです」と幸四郎さん。『忠臣蔵』の五・六段目から、歌舞伎NEXT『阿弖流為』まで、「共演作のふり幅が大きい」とも。宮藤官九郎さんが書き下ろした新作歌舞伎『大江戸りびんぐでっど』でも恋人同士でしたね。これから先も二人で、素晴らしい作品を生み出していくに違いありません!!
小僧 それにしても取材会のときの幸四郎さんと七之助さん、とっても仲がよさそうだったのが印象的でした。
部長 幸四郎さんが次々と繰り出すボケに七之助さんがやさしく対応してたのが微笑ましかったわ(笑)。幸四郎さんが染五郎時代から、これまで色々な作品で共演してるから息がぴったりだし、恋人同士を演じる幸四郎さんと七之助さんを楽しみにしているファンはとっても多いのよ。
小僧 “染七”から“幸七”になってもこのコンビは最強ですね。
↑「幸四郎さんのことは、小さい頃から“あーちゃんにーに”と呼んでいます」という七之助さんに萌える小僧。幸四郎さんは、小さい頃、自分のことをなぜか「あーちゃん」と呼んでいたそうで、今でも身近な人たちからはそう呼ばれているんだそう♪ ちなみに七之助さんのお母さまもあーちゃんの大ファンだそう。
部長 そういえば、幸四郎さんは、今年1月8日で50歳になったと聞いてびっくり。超若くない!?
小僧 やっぱり歌舞伎俳優は、「歌舞キン肉」を鍛えてるから、足腰はしっかりしてるし、顔もたるみゼロ。七之助さんも今年40歳だそうですよ。
部長 ありえない!! 歌舞伎俳優は、年齢を超越してるわね。
↑取材会で、「1月で50歳になりますが」と聞かれて、「50? 何かの間違いでは?」と答えて笑いを誘っていた幸四郎さん。「では、感覚的には自分は何歳だと思いますか」との問いに、ちょっと考えて「38歳!」(笑)。永遠の38歳ということで!!
小僧 幸四郎さん、取材会で50歳の抱負を聞かれて、「50歳という節目をあえて意識してみようと思う」と言ってましたね。「これまで襲名で名前が変わっても、変わらずに舞台に立ち続けることが大事だと考えていたけれど、今回は、あえて意識することで何か変わるのか興味がある」って。でも、私、ちょっと不安です。すっかり変わって、もうボケてくれなくなったらどうしよう!? 今のままの幸四郎さんでいてほしい……。
部長 ええっ、そこ!?(笑) とにかく新年は、美しい二人を拝みに歌舞伎座へ行くわよ。
小僧 はいっ。どっぷり二人の世界に浸りたいと思います! ご利益がありますよーに、パンパンッ!!
↑幸四郎さんについて聞かれて、「相手役といえるお役を初めて演じたのは『怪談 牡丹燈籠』(2011年)でした。幸四郎さんのすさまじい早替りを見て、自分もこれじゃあいけないと気が引き締まりました。それで次の日から顔を白く塗って落としてっていうのを練習したりして(笑)。歌舞伎役者としての姿勢をいつも背中で見せてくれます」と笑う七之助さん。落ち着きのあるやさしい笑顔にこっそりときめく部長でした♪
■歌舞伎座新開場十周年
「壽 初春大歌舞伎」
劇場:歌舞伎座
日程:2023年1月2日(月)~27日(金)
【休演】10日(火)、19日(木)
第一部 午前11時~
一、
竹柴徳太朗 脚本
『卯春歌舞伎草紙』(うどしのはるかぶきぞうし)
名古屋山三:市川猿之助
出雲の阿国:中村七之助
浪花の阿梅:市川門之助
女歌舞伎阿壱:中村壱太郎
同 阿鈴:市川男寅
同 阿千:片岡千之助
同 阿玉:中村玉太郎
同 阿京:市川笑也
同 阿高:市川笑三郎
若衆栄之丞:大谷廣太郎
同 福之丞:中村福之助
同 月之丞:中村虎之介
同 花之丞:中村鷹之資
同 銀之丞:市川染五郎
同 鶴之丞:中村鶴松
坊主小兵衛:市川青虎
村長寿右衛門:市川寿猿
多門庄左衛門:市川猿弥
佐渡嶋右源太:中村勘九郎
佐渡嶋左源太:片岡愛之助
二、
河竹黙阿弥 作
『弁天娘女男白浪』(べんてんむすめめおのしらなみ)
浜松屋見世先の場
稲瀬川勢揃いの場
弁天小僧菊之助:片岡愛之助
南郷力丸:中村勘九郎
忠信利平:市川猿之助
赤星十三郎:中村七之助
浜松屋伜宗之助:中村歌之助
番頭与九郎:片岡松之助
鳶頭清次:中村又五郎
浜松屋幸兵衛:中村東蔵
日本駄右衛門:中村芝翫
第二部 午後2時15分~
一、
松岡 亮 脚本
『壽恵方曽我』(ことぶきえほうそが)
曽我五郎時致:松本幸四郎
曽我十郎祐成:市川猿之助
化粧坂少将:中村雀右衛門
小林朝比奈:中村鴈治郎
犬坊丸:市川染五郎
梶原平次景高:大谷廣太郎
鬼王新左衛門:中村歌六
大磯の虎:中村魁春
工藤左衛門祐経:松本白鸚
二、
河竹黙阿弥 作
今井豊茂 演出
『人間万事金世中』(にんげんばんじかねのよのなか)
強欲勢左衛門始末
辺見勢左衛門:坂東彌十郎
勢左衛門妻おらん:中村扇雀
恵府林之助:中村錦之助
倉田娘おくら:片岡孝太郎
勢左衛門娘おしな:中村虎之介
雅羅田臼右衛門:嵐橘三郎
若い者鉄造:澤村宗之助
親類山本当助:大谷桂三
代言人杉田梅生:市川男女蔵
門戸手代藤太郎:中村松江
毛織五郎右衛門:中村芝翫
寿無田宇津蔵:中村鴈治郎
第三部 午後5時45分~
河竹黙阿弥 作
花街模様薊色縫
通し狂言 『十六夜清心』(いざよいせいしん)
浄瑠璃「梅柳中宵月」
序 幕 稲瀬川百本杭の場
同 川中白魚船の場
百本杭川下の場
二幕目 初瀬小路白蓮妾宅の場
大 詰 雪の下白蓮本宅の場
極楽寺所化清心後に鬼薊の清吉:松本幸四郎
扇屋抱え十六夜後におさよ:中村七之助
恋塚求女:中村壱太郎
下男杢助実は寺沢塔十郎:中村亀鶴
佐五兵衛後に道心者西心:松本錦吾
船頭三次:市川男女蔵
白蓮女房お藤:市川高麗蔵
俳諧師白蓮実は大寺正兵衛:中村梅玉
◆歌舞伎座新開場十周年 「壽 初春大歌舞伎」詳細
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/803
◆公演チケット情報
取材・構成/バイラ歌舞伎部 撮影/富田恵
まんぼう部長……ある日突然、歌舞伎沼に落ちたバイラ歌舞伎部部長。遅咲きゆえ猛スピードで沸点に達し、熱量高く歌舞伎を語る。
ばったり小僧……歌舞伎歴2年。やる気はあるが知識は乏しい新入部員。若いイケメン俳優だけでなく、オーバー40歳の熟年俳優も大好き。