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【韓国文学とフェミニズム〈前編〉】読みやすい短編集や社会問題に切り込んだ作品まで。韓国文学、おすすめの6冊

女性の生き方が世界的に大きく変化するなか、共感と反感の嵐を巻き起こした『82年生まれ、キム・ジヨン』。以降もパワフルな作品が続々誕生する韓国現代文学の魅力とその背景にあるものを、書評家・江南亜美子さんと翻訳家・すんみさんが語り合う。前後編の前編。

江南亜美子さん

書評家

江南亜美子さん


大学で教える傍ら、主に日本の純文学と翻訳文芸に関し、新聞や文芸誌で数多くの書評を手がける。「BAILA」カルチャーコラムも連載。共著に『韓国文学ガイドブック』など。

すんみさん

翻訳家

すんみさん


早稲田大学で学んだ後、翻訳家に。訳書に『屋上で会いましょう』『女の子だから、男の子だからをなくす本』、共訳書に『彼女の名前は』『私たちにはことばが必要だ』など多数。

江南(以下、江) 日本では近年、韓国の現代文学ブームが起き、翻訳本もぐっと増えました。チョ・ナムジュさんの『82年生まれ、キム・ジヨン』がK–POPアイドルの推薦もあり広く読まれたのがきっかけといわれています。ただその後、出版点数は激増。何を読むといいのか迷子になった人が多いかも。そこで今日は若手翻訳家のすんみさんと一緒に、今読んでほしい韓国文学ブックガイドを作りたいと思います。

すんみ(以下、す) よろしくお願いします! 

 まず読みやすさでいえば『となりのヨンヒさん』。ポップでほんわかした短編集ですね。

 韓国ではヤングアダルト向けに出版されました。つきあう彼氏が全部デザートとか、隣人がガマガエルの見かけ、など、意表を突く奇想が楽しいです。でも面白いだけでなく、韓国文学のひとつの潮流であるマイノリティに目線を合わせるというポイントもありますね。

『となりのヨンヒさん』

『 と な り の ヨ ン ヒ さ ん 』

チョン・ソヨン著 吉川凪訳
集英社 1980円
お隣は異星人。宇宙船で別の星へお引っ越し。社会からはじき出された人々へのまなざしが温かい、ちょっと不思議なSF短編集。

 ガマガエルとの交流を現実の移民問題に重ねて読むこともできて。

 SF的に現代社会をひとひねりして他者とは何かと考えさせます。SFのジャンルは韓国文学のメインストリームでない期間が長かった分、自由度が高くて、ファンも若いんです。

 確かに最近、SF要素をうまく使う女性作家の作品が多くなった印象が。そんな『地球でハナだけ』は、すんみさんの翻訳ですね。

『地球でハナだけ』

❷『地球でハナだけ』 チョン・セラン著 すんみ訳 亜紀書房 1760円

チョン・セラン著 すんみ訳
亜紀書房 1760円
カナダ旅行から帰った恋人が少し違う人間に。彼は誰? 「ハナのためなら宇宙も横切れるぐらい」。一途で爽やかな恋愛小説。

 宇宙人と人間の女性との一途なラブストーリーで、難しく考えずに読めますよ。恋愛だけど容姿に惹かれたわけじゃないと最初に書かれ、女性キャラクターがしっかり自立的なのがいいんです。じつは著者が韓国で改訂版を出した際、容姿の描写を大胆にカットしました。ジェンダー規範をフラットにする狙いですね。韓国文学では最近、登場人物のジェンダーをあいまいにするのも特徴です。たとえば『ディディの傘』は性別をあえて明らかにしなかった原文の意図を生かし、翻訳版でも様々な工夫が施されています。

 翻訳者泣かせ! でも女性の問題、男性の問題と分断させない意図があるんでしょう。そして『ディディの傘』は実際に起きた痛ましい旅客船セウォル号の沈没事故など、社会問題を中心にしっかり据えて書かれいて、政府批判が作中に響きます。

 作家みんなが社会問題にすぐ反応して作品を書くわけでなく、じっくり時間をかける人もいます。ただ私が思うに、韓国では今考えていることを書く、間違っていたらあとから訂正する責任と勇気をもって今発信するという作家も多いですね。作家の社会的責任として。

『ディディの傘』

『ディディの傘』 ファン・ジョンウン著 斎藤真理子訳  亜紀書房 1760円

ファン・ジョンウン著 斎藤真理子訳
亜紀書房 1760円
「小説家50人が選ぶ“今年の小説”」にも選出された重要作品。正義とは何か、希望とは何かが、深い洞察力とともに描かれる。

韓国文学のバリエーション。児童文学からマンガまで百花繚乱

 韓国文学というとどれも社会問題やフェミニズムがテーマなの?と敬遠されるのももったいないので、そうじゃない方向からいくつか紹介したいのですが、『夏のヴィラ』などは、恋愛の別離や親子のすれ違いなどがこの上なく繊細で美しい文体で書かれた短編集です。たとえば江國香織好きの人ならハマるんじゃないかしら。

 フランスでの留学経験があり、デュラスの翻訳も手がける作家です。だからか、本来属していない場所で感じる齟齬や、異邦人との言語を超えた交流などのテーマを書くのがとてもうまい。

『夏のヴィラ』

『夏のヴィラ』 ペク・スリン著 カン・バンファ訳 書肆侃侃房 1870円

ペク・スリン著 カン・バンファ訳
書肆侃侃房 1870円
友人のドイツ人夫婦とカンボジアのヴィラで数日過ごすうち……。人と人との間に生まれるさざ波を丁寧にすくう、8つの短編を収録。

 西欧に東アジア人として存在する心情など、日本人も共感しやすいはず。『5番レーン』は、子ども時代の、男女の区別もはっきりしない日々がきらきら描かれます。

 児童文学ながら五感に訴える水の感触などの文章が素晴らしく、目標のために頑張ったり挫折したりする姿は、大人にも読ませる力があります。小学生男女が無邪気に顔を寄せるシーンにキュン。読むとプールに行きたくなりますよ。

『5番レーン』

『5番レーン』 ウン・ソホル著 ノ・インギョン絵 すんみ訳 鈴木出版 1760円

ウン・ソホル著 ノ・インギョン絵 すんみ訳
鈴木出版 1760円
好きで始めた競泳。才能ある子の出現で自信が揺らぐナルは……。小学生の友情と成長の物語を誠実な筆致と、ほんわかな絵で。

 コミック作もひとつ。『大邱(テグ)の夜、ソウルの夜』は、ソウルで奔放な青春時代をともに送った二人の女性が、一人はできちゃった婚をし、一人は家族からの干渉も強い田舎の大邱に帰るストーリーで、女性の自己実現をめぐる普遍的なテーマが描かれます。

 結婚しても友達だよと言い合ってたのに離れ離れになるのが身につまされました。介護と育児が女性のケア仕事であることなど、東アジア圏にはおなじみすぎて泣けますね。

 大きな判型でバンドデシネ風のマンガの形式と内容もぴったりきます。

『大邱(テグ)の夜、ソウルの夜』

『 大邱(テグ)の夜、ソウルの夜』 ソン・アラム著 吉良佳奈江訳  ころから 1980円

ソン・アラム著 吉良佳奈江訳
ころから 1980円
都会と田舎、子育て、親世代の介護。私の幸せはどこに?と模索する二人の女性の姿をリアルにとらえた、大人にささるマンガ作。

撮影/kimyongduck 取材・原文/江南亜美子 ※BAILA2022年11月号掲載

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