
「それはどうでしょうか。ここで紹介する作家は、従来のアートヒストリーの線上に連なる人たちではありません。専門の美術教育は受けたことがないけれども、独自の表現を生み出しているアール・ブリュットの作家さんたちです。アール・ブリュットはフランスの美術家ジャン・デュビュッフェが名付た呼称。〈生きの芸術〉と訳されます。デュビュッフェは、正規の美術教育を受けていない創作者や精神科病院で生み出された、規格外の作品を評し、この言葉で紹介しました」
と、教えてくれたのは社会福祉法人グローの山田創さん。アール・ブリュットのキーワードは「孤独・沈黙・秘密」で、実際に20世紀は人知れず制作している人が大半だったそう。でも、現代日本の作家さんたちは福祉のネットワークのなかから発掘された人が多く「必ずしも孤立しているわけではない」と、山田さん。天性のカラリストで、一切の破綻がない画面構成が特徴の佐藤朱美さんは、自宅の専用スペースで朝から夕方まで制作しているそうだし、木村茜さん(作品は下参照)は月に1 回、施設の絵画アトリエで制作。


マーカーを高速で走らせて、2~3分で一枚仕上げる木村茜さんも、国内外の展覧会の常連作家。この方の作品、生で見ると人間の根源的な喜びがビシビシ感じられる。フラフープをうまく回せたときとか、友達と両手をつないで高速でグルグル回るときの「キャー♥」な高揚感が伝わってくるのだ。「木村さんは楽しそうに描かれていますね。シュッシュッと描いたときに、マーカーが紙とテーブルの間の微妙な段差に落ちて、コトッて鳴る音も楽しいみたいです」
たぶん、その音やリズムも大事なんだろうね。制作行為によってゾーンに入るのが、心地よいんじゃないかな。


「戸來貴規さんの『にっき』。これ全部、日付と気温以外は同じ内容なんです。強調して描いた文字の輪郭などを選んで塗りつぶしていくので、不思議な模様になり、最後は必ず同じ位置にひもを通します。この独特かつ複雑なルールのもとで描いて重ねる行為が、完全に彼のライフスタイルに溶け込んでおり、生きること自体とほぼ同義語ではないかと。私はそこにある種の崇高さと面白さを感じるんですよね」
確かに日々電車のダイヤグラムを引いている駅員さんや、原宿でクレープを焼き続けている人と近いものがあるかも。センスと情熱と桁外れな根気を併せ持つ作家さんが多いアール・ブリュットの世界。発想と表現が自由で楽しいね。
『ボーダレス・アートミュージアムNO-MA企画展 ときどき、日本とインドネシア』
昨年インドネシアで開催されて大好評を博した日本のアール・ブリュットの展覧会が帰国。日本人作家8名に加えて、新たにインドネシア人作家3名の作品も展示。まずハートで見て、次に解説を読むと二度おいしい。~6/2 ボーダレス・アートミュージアムNO-MA 滋賀県近江八幡市永原町上16 11時~17時 休館日/月曜 観覧料/¥300 問い合わせ 0748(36)5018
http://www.no-ma.jp