自称「構想5年!」の超大作。毎月連載でお届けしてきた人気エッセイが一冊に。単行本化を祝し、当代きっての人気作家の魅力を探るべく、三浦しをんさんの頭の中を全方位からロックオン!
抱腹絶倒! 待望のエッセイ集、刊行記念!!【ようこそ、三浦しをんワールドへ】
三浦しをん(みうら しをん)
1976年東京都生まれ。2000年『格闘する者に○』で作家デビュー。’06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞受賞。’12年『舟を編む』で本屋大賞受賞。その他の著書に『光』『政と源』『ののはな通信』『愛なき世界』『ぐるぐる♡博物館』など。
大好評発売中!
『のっけから失礼します』集英社 1600円
ニャンニャンするコバエに辟易し、ドSドクターに身もだえ、EXILE一族のきらめきに命の危険を感じ、ファッションに愛と平和を見いだす。今日も作家の日常は笑いなしには語れない。お疲れモードを吹き飛ばす面白エッセイ集。
なにげない日常から「面白さ」を見つける秘訣とは!?
妄想が妄想を呼びとんでもないところに着地
連載開始から約5年、めでたく一冊にまとまった『のっけから失礼します』。俎上にのせる話題は日常のありふれた出来事なのに、鋭く光る目でネタをキャッチし、怒濤の三浦節で言語化。読むとたちまち笑いの渦に放り込まれる爆笑エッセイ集だ。
「月刊誌だから、1カ月あると何かしらの面白いネタは見つかるもの。これは、とアンテナに引っかかったときは、バイラ用のネタ帳……といいますか、普段使っている味もそっけもない手帳の片隅にメモしています。書くネタはあちこちで見つけますが、誰かとの会話でその人の発想が自分にまったくないものだとわかると、やっぱりすごく面白い!と鼻息が荒くなります。だってそんなふうに感じたり考えたりする人がいると知ると、ちょっと何?もっと知りたい!と思いませんか?(笑)たとえばこの本だと『非実在野球人生』という、野球選手になった自分を妄想する人の話。私も野球はまあまあ好きですが、今までそんなことを考えたこともなかったから、聞いたときはびっくりして爆笑しちゃって(笑)。私も妄想が暴走しがちですが、同じ妄想でも人によって方向性が全然違うって、面白いですよね」
時折登場する三浦家の人々には容赦なくビームが照射され、なかなかの個性派ぞろいとリークされる。
「家族をネタにするのはやめて、としばしば言われます。主に母が私の書いたものを読みがちで、見つかって『お母さんの印象が悪くなるからちょっとは考えて』と言われるんですが、誰に対する印象なんだよと(笑)。でも『ののはな通信』だけはなぜかすごく褒めるので、『何か悪いものでも食べたのか?』と心配に」
ロングスリーパーの三浦さんが妊娠3カ月という夢の話も、とんでもない妄想とつながり、その桁外れな飛躍に「マジか!?」となる。
「あれは吐き気も含めリアルな夢でした。つわりがああいうものかはわからないのですが。昔少しだけ、起きてすぐ夢のメモを取っていたことがあります。でもそうすると、夢がいかにも自分の頭で考えたものみたいに整理整頓されてつまらない。それで、眠るときの楽しみがなくなっちゃうと思ってやめました。最近は夢を覚えていられなくなって。記憶力の問題でしょうか」
飛行機が怖くて乗れないとはいえ、奈良、宮崎と陸路で旅する回も楽しい。もし飛行機に乗れたら、行きたい場所や見たい景色は?
「キューバに行ってみたいと思っています。あとアイルランドですね。どちらもお酒がおいしそうだから。でも見たい景色は特にありません。私は人がかかわっているものじゃないと全然興味が持てないんです。だからピラミッドとか建造物はいいんですが、エアーズロックやナイアガラの滝はテレビで見ればいいじゃないかと思ってしまう。巻末の『もふもふパンダ紀行』は和歌山への旅の話ですが、お寺や神社は人の手が作ったものなので楽しめました」
誰かを傷つけなければ好きを貫いていい
単行本では4章に分けられ、おまけに各章末と巻末にも特別書き下ろしが加えられていてお得感も。連載時とはまた違って、より生き生きとノリよく読み進められる。
「昔『少年ジャンプ』の連載で読んでいた『SLAMDUNK』を、コミックスでも読んで思ったのは、連載では細切れでよくわからなかったところが、まとまった一冊で読むと違う面白さがあることでした。さらに第1巻から最新刊までを読み返すと、またテンポよくページがめくれて味わいが増す。なかなか難しいのですが、そんなふうに読んでもらえるかたちにするのが理想です」
以前はBUCK-TICKについて熱く語っていた三浦さんが、本の後半から加速度的にハマり始めるEXILE一族への熱も、筆力がパワーアップしてビシビシ伝わってくる。
「EXILE関連は最近も活発にチェックしています。とにかく向こうから連日すごい量の情報が出てくるんですよ。BUCK-TICKももちろん熱く応援し続け、アルバムを買ったりライブに行ったりしていますが、彼らはSNSをあまりやっていないので。もし『今日のタピオカミルクティー』とかアップし始めたら『どうした?』と思うでしょうね(笑)。反対に、一族は人数が多いし、それぞれの活動の情報発信をしているので、追いかけるのがもう大変。だからインスタグラムやツイッターがないと情報収集が難しいことがわかって、最近はSNSもちょっとチェックしています。いまだに仕組みがよくわからず、自分ではまったく発信しないんですが」
オタクな活動を背景に、世の中のよしなしごとを鋭い嗅覚とフラットな目線でとらえる三浦さん。日常に潜む楽しいことを見つけ、なにごとも面白がれる精神は、日々にマンネリを感じ、仕事の忙しさやSNSの見すぎで疲れがちなバイラ世代も見習いたいところ。
「今の若い人たちはとても繊細。たぶん皆さんお疲れなんだと思います。疲れているといろんなことで傷つきやすくなるから。でも、どんなことでも万人が納得する結果や出来事はまずなくて、必ず批判的な誰かはいるもの。そういう他人の目を気にしているときりがありません。どこかで自分は自分、他人は他人と線引きするのも大事です。そのためには自分が確立されていないと、他人のことに想像が及ばず思いやれない気がします。楽しく生きるためには、もっと自分について考えたほうがいいのかもしれません。自分は何が好きなのか、何が嫌なのか。たとえそれが世間の感覚や流行からずれていても、誰かを傷つけなければ、好きを貫いていい。人の目なんてあまり気にしなくていいと思います」
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撮影/天日恵美子 取材&文/綿貫あかね