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ノーベル賞作家カズオ・イシグロさん受賞後初の長編小説『クララとお日さま』 【30代におすすめの本】

書評家・ライターの江南亜美子が、アラサー女子におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、倫理や規範だけでない、人間くささやそのぬくもりについて考えたくなる、カズオ・イシグロ『クララとお日さま』と山田詠美『血も涙もある』をご紹介します。

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江南亜美子

江南亜美子


文学の力を信じている書評家・ライター。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』。

『クララとお日さま』

日系英国人作家としてノーベル文学賞を受賞したイシグロの6年ぶりの新作は、人工知能を搭載した人型ロボットから見た世界の物語だ。クララというショートヘアで浅黒いルックスをもつ人工親友(AF)は、店でも売れ残りの型落ちながら、洞察力と共感力にずば抜けている。ある日ジョジーという少女と互いにビビッときて、無事に買われていく。

人間の孤独感や愛の概念をきちんと学習しようとするクララ。ジョジーには幼なじみのボーイフレンドがいて将来の夢を語り合っているが、二人の間の乗り越え難い格差についても、クララは察知していくのだ。

太陽光を自身のエネルギー源とし、お日さまを神のように信仰しているクララは、病弱なジョジーが生命の危機に瀕していると感じると、太陽に願掛けをしたりする。献身ゆえに、冷静な判断が妄信へと変化するさまも、物語はありありと映し出す。「お日さま、どうぞジョジーに特別な思いやりを」

格差社会や、科学技術の革新が人々にもたらす漠とした不安感などを、優しい語り口の物語に展開してみせたイシグロ。クララがピュアであるほど、不穏なムードに覆われる小説世界が見ものの一冊だ。

『クララとお日さま』

カズオ・イシグロ著 土屋政雄訳

早川書房 2750円


データで人間も複製可能? 尊厳とはなにかを探る物語

クララは人工知能搭載のロボット。ジョジーという10代前半の少女のよき親友となるべく努力するも、一家には秘密があり……。ロボットの献身性と高度な知性ゆえのゆがみを描く、ビターな長編小説。



これも気になる!

『血も涙もある』

『血も涙もある』

山田詠美著

新潮社 1650円

 
博愛、仁義、純情? 愛と欲望の力学について
有名料理家の助手の桃子は、背徳感なしに人の夫を寝取ってきたクセ(?)で、先生の年下夫と恋人に。フリーダム男を自認する太郎と先生との三角関係を、ユーモラスかつ残酷に描く小説。詠美節炸裂。


イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2021年5月号掲載

【BAILA 5月号はこちらから!】

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