「落ちるの一秒、ハマると一生」と言われる歌舞伎沼。その深淵をのぞき、沼への入り方を指南するこの連載。今月ご紹介するのは、5月に渋谷のBunkamuraシアターコクーンで上演されるコクーン歌舞伎第十七弾『夏祭浪花鑑』に出演する中村勘九郎さんと次男の中村長三郎さん。コクーン歌舞伎は、勘九郎さんの亡き父・勘三郎さんとの思い出のたくさんつまった大切な作品。中村七之助さん、尾上松也さんらと出席した合同取材会で、舞台への思いを語りました!!
↑中村勘九郎さん(左)と次男の中村長三郎くん(右)。精悍かつ気さくな勘九郎さんと愛らしい長三郎くんに、すっかり魅了された部長と小僧でした♪
■勘九郎さんにとって、団七九郎兵衛は子どもの頃からの憧れの役だった
ばったり小僧 部長!! カメラマンのとみやんが、真っ赤な顔で大汗かきながら撮影してますけれど、大丈夫でしょうか!?
まんぼう部長 とみやん、勘九郎さんのことは、舞台で観て、ずっと撮影してみたいと思っていたそうよ。それで超緊張してたみたい。
小僧 わかります~。勘九郎さん、すっごく素敵でした。江戸っ子っぽい歯切れの良さと、人を緊張させないような気さくさがあって。今回の舞台もますます楽しみになりました。コクーン歌舞伎って、毎回、チケットがソウルドアウトになっちゃう超人気舞台なんですよね。
部長 そうね。コクーン歌舞伎は、1994年に勘九郎さんのお父さんの故・中村勘三郎さんと、演出家の串田和美さんとがタッグを組んで始めた舞台で、5月に上演される『夏祭浪花鑑』は、その第十七弾目。長~く愛され続けてるのよね。
小僧 渋谷のシアターコクーンで上演されるからコクーン歌舞伎なんですよねぇ? 普通の歌舞伎とどう違うんですか。
↑コクーン歌舞伎で団七九郎兵衛を勤める勘九郎さん。「あんなダメな人のために、みんなが一生懸命に動いていく。今の時代忘れがちな義理とか恩を描いているんですね。物語をちゃんと深く読み返して演出することで、そんなメッセージも伝えられたらと思います」
部長 勘九郎さんも取材会で話していたけれど、まずは劇場の雰囲気かしら。「シアターコクーンというと、コンクリートの打ちっぱなしと、緑の客席というのが印象的で、歌舞伎とはかけ離れている空間。そういう場所で、歌舞伎の古典を原作から読み解いて作っていくという楽しさ、そのアンバランスさがすごく魅力的なところだと思います。以前、『夏祭浪花鑑』をコクーンで上演したときには、舞台を土にしたり、ムシロを敷いたりして、劇場の雰囲気とのアンバランスさが良く出ていました。異次元にお客様を誘い込めるシアターだと思います」って言う通り、斬新な演出で、歌舞伎ファンでなくても楽しめちゃうの。
今回はコロナ禍で制約が多くてたいへんみたいだけど、「串田さんを中心にみんなで知恵を出し合って、『前のほうがおもしろかったね』とは言わせないものを作りたい。“かせ”はありますけれど、それをチャンスに変えてやっていける小屋だと信じています」という言葉が力強かったわ。
小僧 『夏祭浪花鑑』のストーリーもおもしろそうです!! 舞台は大坂の下町で、義理と人情に生きる男たちとその妻の生き様を描いたお話って、なんか濃ゆい感じで。
部長 勘九郎さんが演じる主人公の団七九郎兵衛が祭りの最中に義理の父親を斬るというショッキングな場面があったり、悲劇的なお話なんだけど、夏のムンムンとした熱気とお祭りならではの華やぎがあって、なんともいえない雰囲気に包まれる作品なのよね。
↑「二人で見合ってください」というカメラマン・とみやんのリクエストでみつめあう二人。ちょっと困り顔の長三郎くん、めっちゃキュート♪
小僧 勘九郎さんが小学生の頃、初めて『夏祭浪花鑑』を観たときの話がおもしろかったです。「すごく衝撃を受けました。立廻りして、水をかぶってという演出が心に突き刺さりまして、七之助は、家で水に絵の具を溶かしてドロドロにしてそれをかぶるというのをやりまして、家のカーペットを台無しにしたという思い出があります(笑)」って。「そのくらい子どもがマネしたくなるような作品。そこから団七は、いつかやりたいと思っていた」と言ってましたね。
部長 勘三郎さんたちが『平成中村座』のニューヨーク公演で、『夏祭浪花鑑』を演ったときの話も笑ったわ。このとき、勘九郎さんは出演メンバーに入ってなかったんだけれど、「公演の前にニューヨークに旅行に行ったとき、誰もいないリンカーンセンターで、先に一通り団七を演りました。だからあの地で団七を演ったのは、父でなくて、僕が先です(笑)」って。
小僧 ニューヨークから帰ってきての大阪松竹座での凱旋公演もめちゃくちゃ盛り上がったみたいですね。勘九郎さんは昼の部最初の演目だけで、夜の部の『夏祭浪花鑑』の出演はなかったのに、舞台を観るために、「その間、ずっとひとりで寂しくて、寝袋を持ってきて、ずっと楽屋にいました」って(笑)。ホテルに帰らないで楽屋にいるっていうところが、本当に芝居好きなんだなあと思いました。
部長 勘九郎さん、七之助さんにとって、『夏祭浪花鑑』は、お父さんをはじめ、仲間との思い出がたくさんつまった大切な演目。それを今回は尾上松也さんら、新たなメンバーとともによみがえらせるということで、本当に楽しみだわ♪
↑撮影中、ちょっとくすぐったりして、長三郎くんの緊張をほぐす勘九郎さん。二人ともいい笑顔★
■ごほうびの鬼滅グッズに大歓びの長三郎くん
部長 今回の『夏祭浪花鑑』には、勘九郎さんの次男・長三郎くんが団七の息子・市松の役で出るけれど、取材会でも長三郎くん、かわいかったわねぇ♪
小僧 本当に!!まだ7歳なのに、 記者の質問にも大きな声ではきはきと答えていましたね。『夏祭浪花鑑』の感想を聞かれて、「初めてビデオで観たときは、団七がおとうさんを斬るところにとくにびっくりしました」って。ちゃんと内容をわかって観てるのがすごいです。
部長 勘九郎さんが言ってたけれど、長三郎くんがまだ4歳くらいのときに『にほんごであそぼ』(NHK)で、『夏祭浪花鑑』のパロディをやったらしいわね。団七が義平次に殺意を抱いてにらむシーンで、義平次が「その目は何じゃい! 親をにらむと 平目になるぞよ!」って言うんだけど、長三郎くんににらまれた勘九郎さんが、そのセリフを言うと、長三郎くんが本当に平目姿になるっていうパロディだったとか(笑)。
↑歌舞伎『夏祭浪花鑑』では、父・勘九郎さんが演じる団七九郎兵衛の息子・市松を勤める長三郎くん。 お兄さんの勘太郎くんともども今後の成長が楽しみです~♪
小僧 それ、観たかった~!! 平目姿の長三郎くん、絶対かわいかったと思う♪ それと今度の舞台に出演するのは長三郎くんだけで、長男の勘太郎くんは出ないんですよね。「お兄さんは何か言ってましたか?」と聞いたら、「こっそりとどこかで観たいと言ってました」って(笑)。勘太郎くん、絶対自分も出たかったと思います。
部長 そうそう。「『なんでノリ(長三郎さんの本名・哲之=のりゆき)だけ!? なんで!?』って、びっくりするくらい怒ってた」って勘九郎さんが言ってたわね。 でも勘太郎くんは今10歳。市松を演るには大きすぎるし、「おまえをおんぶしたら、俺は死ぬから(笑)」って勘九郎さんはなだめたらしい。
小僧 で、「劇場に来て観ていいですか」って勘九郎さんに聞きにきたそうで、結局、学校が終わってから、毎日観に来ることになったとか。
部長 勘九郎さんが「それだけ息子がお芝居が好きだと言うことですから、僕としてもすごくうれしいです」と言っていたけれど、あの年齢で、二人ともお芝居が大好きって、すごいことだわ。
↑長三郎くんで遊ぶおちゃめな勘九郎さん。二人羽織!?
小僧 とはいえ、長三郎くんは、子どもらしさもまだまだ残っていて、「お芝居していて楽しいと感じるのはどんなときですか?」と聞かれて、「ご褒美がもらえるときです!!」って言って、みんな大爆笑。
部長 「どんなご褒美をもらいましたか?」と聞かれて、少し考えてたら、隣りにいた七之助さんに「ほら、鬼滅の刀をもらったでしょ」って、こそっと教えてもらっていたのもかわいかった♪
小僧 そうそう。そしたら思い出したように、「小道具さんに『鬼滅の刃』に出てくる光る刀を作ってもらいました!」って、すごくうれしそうに話してましたね。そんな長三郎さんに、勘九郎さんは目尻が下がりっぱなし。いいお父さんなんだろうなって、ほのぼのしました。
部長 そうね。そして親から子へ、子から孫へとしっかり伝統が受け継がれているのを感じたわ。そうやって何百年も続いてきた歌舞伎って、本当に素晴らしい!!
小僧 はい、コクーン歌舞伎ではそんなところも見逃せないです。
部長 待ちきれないけれど、現在、東京都は緊急事態宣言中のため、舞台は5月12日からのスタート予定。みなさん、詳細は歌舞伎座のホームページで確認してから出かけましょう!!
↑お父さんと手をつないで仲良くお散歩。終始楽しそうな仲良し親子でした!!
■演目
串田和美 演出・美術
渋谷・コクーン歌舞伎 第十七弾
『夏祭浪花鑑』(なつまつりなにわかがみ)
日程:2021年5月6日(木)~30日(日)
※5月6日(木)~11日(火)一部公演中止
昼の部 午後1時~/午後2時~
夜の部 午後5時~/午後6時~
【休演】13日(木)、24日(月)
劇場:シアターコクーン
団七九郎兵衛 中村 勘九郎
団七女房お梶 中村 七之助
一寸徳兵衛/徳兵衛女房お辰 尾上 松也
玉島磯之丞 中村 虎之介
団七伜市松 中村 長三郎
傾城琴浦/役人左膳 中村 鶴松
三婦女房おつぎ 中村 歌女之丞
三河屋義平次 笹野 高史
釣船三婦 片岡 亀蔵
勘九郎さん衣裳協力/YOHJI YAMAMOTO/ヨウジヤマモト 問い合わせ先/ヨウジヤマモト プレスルーム ☎︎03-5463-1500
撮影/富田 恵 ヘア&メイク/宮藤 誠 スタイリスト/寺田 邦子
取材・構成/バイラ歌舞伎部
まんぼう部長……ある日突然、歌舞伎沼に落ちたバイラ歌舞伎部部長。遅咲きゆえ猛スピードで沸点に達し、熱量高く歌舞伎を語る。
バッタリ小僧……歌舞伎歴2か月。やる気はあるが知識ゼロの新入部員。若いイケメン俳優より、本当はオーバー40歳の熟年役者