出演するすべての作品で圧倒的な存在感を放つオダギリジョーさん。演じるにとどまらず、作品作りにも力を注ぐ彼の頭の中は想像以上にオリジナル。だからこそ、心惹かれ、のぞいてみたくなる。
※2021年8月刊行BAILAhommeより転載/掲載情報は発売時のものです
自分で口にするのもおかしな話ですが、自分はきっと皆さんからするとはっきりとしたイメージを持ちにくい俳優ですよね。SNSもやらないし、プライベートを出すことも少ないので「実像をつかみにくいんだろうなあ」という気はするのですが、そこは、自由にとらえてもらいたいと思っているんです。見ていただく人たちに都合よく解釈してもらえばいいし、好きなようにイメージしていただければいいと思っています。「変わってますね」と言われることもありますが、自分の中の当たり前が人とは違うことは誰にでもあるので、そこは気にしていません。
オフの日は映画を観たり、気ままに過ごすことが多いですね。数日前は、ジム・ジャームッシュの『デッドマン』を劇場に観に行きました。監督の意図するところは劇場じゃないと100%受け止められないんですよ。映像的にも、音響的にも、映画館じゃないと感じられないことがあるので、できるだけ劇場で観たいと思っています。
コート¥46200・トップス¥19800/シアン PR(ATTACHMENT) パンツ¥50000/イッセイ ミヤケ(IM MEN) ブーツ/スタイリスト私物
今でこそ俳優の仕事をさせていただいていますが、僕はもともと、音楽にハマったタイプだったんですよ。中学生からバンドを始め、青春のすべてが音楽でした。俳優よりも、ミュージシャンに憧れることが多く、音楽的な価値観で個性が育まれてきたと思います。アメリカに留学したことから、色々な化学反応が起き、結果的に俳優という職業を選ぶことになりましたが、いまだにこの道が正しかったのだろうか……という疑問が消えることはありません。でも、何かを間違えたとはいえ、いまだに役者の仕事を続けている。どこかに、やりがいを感じている部分はあるんでしょうね。だからこんなにも長い間芝居と向き合えているんだと思います。俳優という仕事は自分自身と向き合うことを強いられる職業なので、その分、苦しいことも多いんです。その一方で、人間として成長させてくれたのが芝居であることも確か。人生のターニングポイントはいくつもありましたが、中でも大きかったのはアメリカの大学で演劇論を学んだことだと思っています。
9月にNHKで放送されるドラマ「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」では、脚本・演出・編集を務め、出演もしています。作品の構想は常に自分の中にあったいくつかのうちのひとつ。その中でもかなりエンターテインメント性の高い作品を選びました。せっかく作品を作るなら、日本だけでなく、海外も意識したものにしたかったので、音楽的にも美術的にも、日本のカルチャー要素を織り交ぜた作品を目指しました。
キャスティングについては、本を書いている最中に「これはこの方に演じていただきたいな」と浮かんだ方にオファーさせていただきました。皆さん信頼できる方々ですね。主演の池松(壮亮)くんは、以前、映画『アジアの天使』で共演させていただいたんですが、とにかく作品に誠実なところに胸を打たれました。彼なら一緒に闘ってくれるという確信が持てたんです。キャストにしても、スタッフにしても、この作品を高めるためにともに闘ってくれる仲間なわけですからね。相手が誰でも、できるだけ丁寧に接するようにしていました。参加してくれた方全員に「オダギリ組は楽しい」と感じていただきたい(笑)。俳優にも楽しく芝居してもらえるように現場の空気をつくっていました。ただ、楽しいだけじゃないのがものづくりですからね(苦笑)。前回映画を作ったときも、あまりのプレッシャーやストレスで口内炎が20個くらいできてしまったんです。でも、心から納得できる作品を作り上げるためには、清濁併せのんで、すべてを思い切り背負って、乗り越えるしかない。今作もそんな覚悟のもとに挑みました。
ロングジャケット¥96800・シャツ¥27500・パンツ¥33000・ブーツ¥59400/ラッド ミュージシャン 原宿(LAD MUSICIAN) ハット¥15400/オーバーライド 神宮前店(arth) ネクタイ/スタイリスト私物
まだ夢を追っていた20代の頃は俳優を続けていく上で明確なビジョンがあり、自分が理想とする俳優になるために、どういう道を歩いていくべきかを事細かに考えている時期もありました。その後、30歳で『ゆれる』という映画に参加させていただいたとき、ようやく自分が理想としていたステージにたどり着いた気がしたんです。自分の目指す現場を経験し、俳優としてひとつのゴールを見たときに、その後どうモチベーションをキープするか。それは大きな問題でした。でも、結局、何かものを作ることからは離れられない気はしているんです。どんな職業でも、仕事をしていると毎回問題は違うかたちで襲ってきますよね。だから、毎回新鮮な気持ちで苦しむんだろうけど、苦しむことってそんなに悪いことだと思ってないんですよ。作品を作るという意味においては、どこかで苦しまないといいものは生まれてこないと思っているんです。だから、この先もずっと、生みの苦しみにもがく人生を楽しんでいくんだと思います。そこまで楽観的なタイプでもないですけど、そんなふうに考えられるのは、きっと、自分を信じることをあきらめていないからなんでしょうね。自分の可能性を信じてあげることが、すべてにおいて重要なんだと思っています。
オダギリジョー
おだぎりじょー●1976年2月16日生まれ、岡山県出身。アメリカと日本でメソッド演技法を学び、映画を中心に活躍。監督としても、オリジナル脚本による長編映画監督作品『ある船頭の話』でヴェネチア国際映画祭をはじめ、国際的に高い評価を得たことも話題に。
ドラマ10「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」
2021年9月17日、24日、10月1日(全3回)
(NHK総合 金曜22時〜22時45分)
脚本・演出/オダギリジョー
出演/池松壮亮、永瀬正敏、麻生久美子、本田翼、永山瑛太、佐藤浩市ほか
鑑識課警察犬係に所属する警察官、青葉一平(池松壮亮)と、彼の相棒である警察犬オリバーが次々と発生する不可解な事件に挑んでいくのだが、様々な思惑が入り乱れ、奇妙で不可思議な事件に巻き込まれていくことに……。おかしくもサスペンスフルな物語が始まる。
撮影/ISAC〈SIGNO〉 ヘア&メイク/砂原由弥〈UMiTOS〉 スタイリスト/西村哲也 取材・原文/石橋里奈 構成/菅井麻衣子〈BAILA〉 ※BAILAhomme掲載
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