市川紗椰さんがアートを紹介する新連載がスタート! 初回の展覧会は府中市美術館で開催中の「ふつうの系譜」。京の絵画と敦賀コレクションを鑑賞しながら、「ふつうにきれい」のふつうとは何かに迫ります。
今月の展覧会は…「ふつうの系譜」
「奇想」があるなら「ふつう」もあります ─京の絵画と敦賀コレクション
【展覧会DATA】
春の江戸絵画まつり
『ふつうの系譜』「奇想」があるなら「ふつう」もあります ─ 京の絵画と敦賀コレクション
~5/8 府中市美術館
東京都府中市浅間町1の3
10時〜17時(入場〜16時30分)
休館日/月曜(5/2開館)
観覧料/¥700ほか
http://fam-exhibition.com/futsu/
「ふつうにきれい」のふつうって?美しい江戸絵画から考えてみる
こんにちは、市川紗椰です。これから皆さんと一緒に、アートに触れて知って考える週末を楽しみたいと思います!第1回は自然豊かな公園内にたたずむ府中市美術館へ。お目当ては、じわじわ気になるタイトルの『ふつうの系譜』展。
最近、伊藤若冲や曽我蕭白などの「奇想」の美術が人気を博していて話題です。極彩色でインパクトがあって、面白いしわかりやすい。対する「ふつう」は、なんだか地味で平凡で、どこかネガティブな印象を持たれがち。そもそも「ふつうに美味しいね」「ふつうに可愛い」とよく言うけれど、これって褒めているのか褒めていないのかよくわからない──私たちの「ふつう」って、いったいどんな基準で形作られているのだろう?そんな疑問やモヤモヤを解きほぐしてくれる展覧会でした。
みやびやかなモチーフの大和絵に、円山派の描いたモフモフ可愛い動物たち、風景画と水墨画の細やかな筆使いと色合い……「奇想」の美術と同時代にあった「ふつう」の江戸絵画たちは、素直な美しさにあふれていて、貴族から庶民まで広く愛されてきたことに共感します。また、実物が展示されている日本画は、表装と一緒に見る面白さも。掛け軸とコーディネートされた余白の使い方や配色に、選んだ人の意思が感じられて、ファッション好きも楽しめそう。
眺めながら、思わず「ふつうにきれい」とつぶやいてしまうのですが、そこには驚きと深さが広がっているんですよね。今まで残ってきた「ふつう」には、時代の流れに埋もれない非凡な技術も光っている。本来の主流であるベーシックな美を知ることで、「奇想」の見方の間口も広がってゆきます。そうして最後まで見てゆくと、「ふつう」と「奇想」の価値基準が、時代の感覚により移り変わることにも気づくのです。
今って、個性や自分らしさを競いがちな「個の時代」。それがプレッシャーになっている人もいるのでは?そんななかで、「ふつうがいるから奇想も成立する」というメッセージは、どこか心を軽くしてくれます。今の「ふつう」も、未来には別の評価が下されるのかもしれない。だったら、誰かの価値観に振り回されなくたっていいのかも。大らかできれいな美に触れて、のびのびとした気分で美術館を後にしました。
“目に優しくて、きれいで、可愛い。「ふつう」と言われる美しさには、驚きも深さも隠されていました”
トビラの奥で聞いてみた
美術館のトビラの先で、教えてくれたのは…府中市美術館学芸員 金子信久さん・音ゆみ子さん。
市川 日本画って難しいイメージがあったのですが、作品につけられた解説文には「くどい!」とか、ユーモラスな表現があって、確かにそのとおりで笑ってしまいました。あ、こういう気持ちで見ていいんだ!と、気が楽になりました。
音 難しいと読むのに疲れて飛ばしちゃいますよね。江戸美術というと、若いお客さまが少なくなりがちなのですが、30代の女性たちにも楽しんでいただきたくて、日本美術が専門である金子がカジュアルな言い回しを心がけて書き下ろしたのです。
金子 ふざけてるって怒られたこともあります(笑)。
市川 歴史や流派ごとの展示のあとに、テーマをしぼってまとめ直した第二部があり、わかりやすかったです。
金子 勉強ばかりの構成で、なんかいまひとつだったな、と思って美術館を出ることになるのは残念ですからね。
音 「ふつう」の美の奥深さを自分の手で体験できるコーナーや、グッズも見どころです。楽しんでいってくださいね!
訪れたのは…府中市美術館
府中の森公園の敷地内にある府中市美術館。実は私、近くの高校に通っていたので、自然豊かなこの場所の雰囲気には昔から慣れ親しんでいたのです。森に面した併設カフェも、のんびりするのにぴったり。都会の喧騒を離れたのどかな空気で、なかなかの穴場!
ファッションモデル
市川紗椰
1987年2月14日生まれ。ファッションモデルとしてのみならず、ラジオ、テレビ、広告などで幅広く活躍中。鉄道、相撲をはじめとした好きなものへの情熱と愛の深さも注目されている。大学で学んだ美術史から現代アート、サブカルチャーまで関心も幅広い。
ブラウス¥23100・パンツ¥52800/エンリカ バッグ¥34100/トゥモローランド(アエタ × トゥモローランド) 靴¥29700/ハーモニープロダクツ(パスクッチ) リング¥12100/フラッパーズ(シンパシー オブ ソウル スタイル) バングル¥33550/プラウ
撮影/今城 純 ヘア&メイク/中村未幸 スタイリスト/辻村真理 モデル/市川紗椰 取材・原文/久保田梓美 ※BAILA2022年6月号掲載